親や身近な親戚と疎遠だったり、すでに亡くなっていたりしている場合、自分に万が一のことが起こったときに備えてどんな対策をしておけばよいのでしょうか? そこで本記事では、弁護士の菊間千乃氏による著書『おひとりさま・おふたりさまの相続・終活相談』(新日本法規出版株式会社)から一部抜粋して、おひとりさまが「相続」で疎遠な親族に迷惑をかけないための「終活」のコツについて、具体例とともに解説します。

おひとりさまが相続で疎遠な甥や姪に迷惑をかけないためにはどんな終活をしておけばいいの?

Q.おひとりさまの私の両親も姉も既に他界しています。姉には2人の子供がいるのですが、私としては、私の死後、疎遠な甥や姪にできる限り迷惑をかけたくないと思っています。どのような終活をしておけばよいですか?

[図表1]質問者の家系図

 

A.死後の事務に関する委任契約の締結、負担付死因贈与契約の締結、負担付遺贈、信託制度の活用などが考えられます。

◆死後の事務

近親者がおらず、法定相続人となる親族がいても遠方に住んでいたり、疎遠な場合、あなたの死後に必要となる、関係者への連絡、遺体の引取りや葬儀や埋葬等、医療費や入院費等の未払費用の支払、不要な家財道具や生活用品等の処分などの事務を実際に行ってくれる人がいなかったり、スムーズに行われないことが想定されます。

また、あなた自身も、そのような親族にできる限り頼りたくないということもあるかもしれません。

そのような場合、終活として、財産や身の回りの整理などを行っておくことに加え、信頼できる他人(A)にあなたの死後に必要となる事務の処理を委ね、そのために必要な金銭を預託、贈与、遺贈等しておくことが考えられます。

いずれの方法についても、あなたの死後の事務について金銭を預託、贈与、遺贈等することになるため、真に信頼できる人に託す必要があります。

◆死後の事務に関する委任契約について

あなたとAとの間で、あなたの死後に必要となる上記事務をAに委託する旨の委任契約を締結しておくことが考えられます。委託したい事務の内容をできる限り具体的に定めるとともに、必要な費用を預託し、相応の報酬を支払うことになります。

なお、民法653条1号が委任者の死亡を委任契約の終了事由としていることから、死後の事務に関する委任契約は、その有効性が問題となりますが、これを有効とした判例もあり(最判平4・9・22金法1358・55)、現在は有効と解されています。

◆負担付死因贈与契約について

あなたとAとの間で、あなたの死後、あなたの財産をAに贈与する代わりに、Aがあなたの死後に必要となる上記事務を行う旨の贈与契約を締結しておくことが考えられます(民554)。

あなたの死亡により効力が生じる契約です。

◆負担付遺贈について

あなたが、あなたの死後、あなたの遺産をAに譲る代わりに、Aにあなたの死後に必要となる上記事務を行う義務を負担させる旨の遺贈(遺言による贈与)をしておくことが考えられます(民1002)。

契約ではありませんので、遺贈(遺言書の作成)に当たりAの同意は不要ですが、Aは遺贈を放棄することが可能です。

菊間 千乃
弁護士法人松尾綜合法律事務所
代表社員弁護士公認不正検査士