昔はあんなに本が好きだったのに、大人になった今は、忙しくて読書の時間がぜんぜん取れない……。そんな読者世代は多いのではないでしょうか。それでも、紙の本でしか得られない喜びは大きいもの。家族全員が“活字中毒”だったという桐島かれんさん、そして妹のノエルさんと一緒に、ときには本の世界へ没頭してみませんか?

“本と旅”。実体験とつなげることで、読書の喜びも広がる

母である作家・桐島洋子さんを筆頭に、家族全員が読書家だったという桐島かれんさん。子どもの頃から小説、ノンフィクション、雑誌、マンガ……とジャンルを問わず、片っ端に読んでいたそう。

「母に薦められて初めて読んだ大人向けの長編小説が、マーガレット・ミッチェルの『風と共に去りぬ』。祖父母がこの小説のファンで、『恋人にするならレット・バトラーとアシュレーのどちらがいいか』『あなたはスカーレット派かメラニー派か』とあれこれ話し合うのが好きだったんです。アメリカでは、前もって決められた本を読んで、感想を話し合う『読書会(ブッククラブ)』というものがあって、女性たちの間ではメジャーな文化だったんですよね。今で言うと、友達と集まってNetflixを見るようなものでしょうか。誰かと感動を共有したり、自分とは異なる視点の意見を聞いたりするのも、本好きならではの楽しみですよね」

ただ読んで終わり……ではなく、本と現実の体験を結びつけることで、本で得た感動や知識がより立体的なものに。

「10代のときには、アメリカ南部を巡るツアーに家族で参加したことも。マーガレット・ミッチェルが住んでいた家へ行ったり、映画のスカーレット・オハラの衣装を着て写真を撮ったり……。母はそうやって、読んだものと私たちの実体験を繋げてくれていました」

さらにかれんさんが20代の頃には、ジュール・ヴェルヌの『八十日間世界一周』を読んだのをきっかけに、家族で世界一周旅行をしたこともあったそう。

「ちょうど弟のローリー(桐島ローランドさん)が高校を卒業するタイミングで、母が“親業の卒業”を祝って旅に行きましょう、と。当時、パンナム(現・パンアメリカン航空)が運航していた世界一周路線のチケットを買って、2カ月かけて香港からインド、ケニア、エジプト、モロッコ、スペイン、イタリア、フランス、ドイツ、イギリス、アメリカの10カ国を回って、ニューヨークで解散。懐かしい家族の思い出です」

家族で世界一周の旅に出たのは、かれんさんが20代の頃。旅の記録は『魔女のホウキに乗っかって』(ハイセンス出版・現在は絶版)という一冊の本に。

当時、既にモデルとして活動しながら服飾とイラストレーションを学んでいたかれんさんが、旅の印象的なシーンをイラストに。

また、ノエルさんが旅行記、ローランドさんが写真、そして洋子さんが編集を担当。家族の共同制作となっています。

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著名人のブックリストやポッドキャストが本選びのガイドに

★キャプション適宜

“活字中毒“という点は同じでも、本の好みや選び方はそれぞれに異なるというかれんさんとノエルさん。

「本選びのヒントとして活用しているのが、オバマ元大統領やビル・ゲイツが毎年発表しているブックリスト。日本文学の場合は、芥川賞や直木賞といった文学賞を参考にすることも」

一方、ジュール・ヴェルヌの『海底二万里』からSFにはまったというノエルさんは、学生時代は星新一や筒井康隆の大ファン。今では愛聴しているポッドキャストやYouTubeで紹介された本を手に取ることも多いそう。「最近読んで面白かったのは、『サピエンス全史』で知られるユヴァル・ノア・ハラリの『NEXUS』。アメリカではエクササイズをしながら聞けるオーディオブックが流行っているけど、私はやっぱり紙の本の方が好き」と話します。

学生時代は、谷崎潤一郎や三島由紀夫、太宰治といった日本文学にもはまったというかれんさんですが、あえて好きな作家を挙げるなら、「アメリカのジョン・アーヴィングやチェコのミラン・クンデラ」。

「アーヴィングは素晴らしいストーリーテラー。『第四の手』『オウエンのために祈りを』など、好きな作品がいくつもあります。新刊が出るたびに読んでいますが、毎回、裏切られることがないんですよね。本の面白いところは、読者と作家の共同作業によって、小説の世界を頭の中に描いていけること。だから私とノエルが同じ本を読んでも、思い浮かべる主人公の姿形は違うはず。最近はつい配信ドラマやSNSに時間を取られて、読書のためのまとまった時間を作るのは難しいけれど、それでもやっぱり、本で得られる喜びはかけがえのないものですよね」


かれんさんが本を読むときのお気に入りの場所が、デンマークの家具デザイナー、ハンス・J・ウェグナーがデザインした「ベアチェア」。モノクロの写真は約20年前に夫の写真家・上田義彦さんが撮影し、誕生日に贈ってくれたもの。「昔から、本を読むときの姿勢が変わらないんです。ベアチェアは名前の通り、大きな熊が手を広げているようなフォルムが特徴。体を預けると抱かれているような安心感があるんです」

撮影/平岡尚子  スタイリング/吉川恵里奈  文/工藤花衣

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