党首公選制を著書で主張したことなどが原因で、共産党のベテラン党員だった松竹伸幸氏(69)が党を除名された問題の影響が、さらに広がってきた。

渦中にあるのは、質問に正面から答えず、論点をずらすことを指す「ご飯論法」の考案者のひとりとしても知られる、ブロガーで漫画評論家の神谷貴行氏(54)だ。

神谷氏は共産党の専従職員でもあり、18年の福岡市長選に党推薦で出馬したこともある。そんな神谷氏が、党の福岡県委員会内の会議で松竹氏の処分への異論を唱え、その会議の決定などをブログで公開したところ、規約違反に問われて24年8月に党を除籍、解雇された。神谷氏は除籍・解雇までのプロセスで「パワハラ」があった、とも主張している。神谷氏は11月12日、党員や職員としての地位確認と損害賠償440万円、解雇以降の給与(月額27万3500円)支払いを求めて東京地裁で党を提訴する。神谷氏にその意図や共産党の現状、党の存在意義について聞いた。(聞き手・構成: J-CASTニュース編集委員 兼 副編集長 工藤博司)

規約で強要禁じている「自己批判」迫られ「一番つらかった」

―― 訴状では、「予備調査」(査問)が原因で「適応障害」と診断され、2回にわたって休職を余儀なくされたことが説明されています。一連の共産党の対応で、特にひどいと思われる点は、やはり「予備調査」ですか。県委員会の幹部が5対1で「自己批判」とブログ削除を迫ったということですが……。

神谷: 確かに「5対1」は相当きつかったのですが、問題としては副次的なものです。本質は、規約で強要を禁じられている(規約3条5号、同5条5号)自己批判をしなければ「追放する」と脅されていた点で、これが一番つらかったです。除籍・解雇の前に仕事を全部取り上げられて、仲間と接触を禁じられ、その間に党幹部が「松竹は党の破壊者・撹乱者で、福岡県での同調者は神谷だ」といったデマを公式の会議で流し続けていた、という点もこたえました。大企業でやっている「いじめ」と一緒です。

―― 松竹氏は除名処分を受けて党員の資格を奪われたわけですが(松竹氏は24年3月に地位確認を求めて提訴)、神谷さんは除籍(編注:共産党の規約上、除籍と除名は党員資格がなくなるという点で共通しているが、除名は「処分」の一部だとされている)に加えて雇用もなくなった、という点もポイントです。

神谷: 私としては、党活動の誇りや尊厳は、議員団の事務局として、議会質問でどうやって相手を追及するかといった点を、議員と一緒に開拓していくという仕事にありました。自分なりに、かなり貢献してきたという自負があるので、それ全部取り上げられて「一切仕事するな」「控え室に入ることなんてまかりならん」と言われて……。(「調査」のプロセスで)党員に権利制限をかけることは確かにあるのですが、必要な範囲で行うべきものであって、「とにかくこいつを痛めつけるために何でもやっていいだろう」といったやり方は絶対許されないはずです。裁判の一番のポイントは、自分が党員になって30年以上かけて積み上げてきたことが、一瞬で、それも全然身に覚えのないことで剥奪され、それが雇用とも密接に関係しているという点です。

(広告の後にも続きます)

「松竹に同調するやつはパージする」という「裏テーマ」

―― 神谷さんは18年には共産党推薦で福岡市長選に出馬するなど、いわば党から「推されて」いたわけですが、なぜパワハラのようなことをされるようになってしまったのでしょうか。「松竹問題」に過敏に反応しているのでしょうか。それとも、それ以前からの問題なのでしょうか。

神谷: ベースになっている組織の問題というものはあるのですが、やはり党幹部が松竹問題に過敏な反応をしているのが、今起きている問題の一番の本質だと私は思っています。私が松竹問題にからんで異論を言ったために睨まれた、ということです。ある会合で県委員長が発言した内容の記録があります。私に向かって話した内容を会合で紹介しています。
「あなたは重大な間違いをしているんだから反省すべきだ。自分(神谷氏)は松竹擁護について間違っていたと。反省して自己批判しなさい。そうすれば救われる。党に残れる。処分も受けるかもしれないけど、松竹氏みたいに除名とか、ああいうふうにはなりませんよ」
つまり、「松竹問題で間違えたので悔い改めろ。そうすれば助けてやる」という脅しです。これは(自分が除籍・解雇される原因になった)規約違反の問題では公式には問われていない点で、「松竹に同調するやつはパージする」という「裏テーマ」があるわけです。あまりにも理不尽です。

―― いったん「表のテーマ」についてうかがいます。福岡県委員会は神谷さんの除籍・解雇を発表する中で、「県委員会総会で誤りであると退けられた自分の意見を、県委員会総会の議論とともに、勝手にブログで発表した」ことを問題視しています。神谷さんは、ブログでは議論の内容は明らかにしていない、と反論していますが、実際のブログには
「私の発言に対して、数名の参加者から反論的な意見が出されました。これらをまとめ、それを聞いた私の認識として書き直せば次のような点になるでしょう」
とあります。これは議論の内容を公開したことにならないのですか。

神谷: 私への反論だと勇んで発言した会場の意見は私の言ったことや松竹問題とは関係ないものが大半でした。松竹氏との思い出話を語る人など「しょうもない」部分が多い上に、議論の内容を紹介することもできないので、私はあのブログで、赤旗の記事の中から、「なぜ松竹さんの除名を正当化できるのか」という論点をコピペしただけです。議論の内容を一切書かずに、党中央は私のような見解をどうやって批判しているのを紹介したに過ぎません。

―― 先ほどの「ベースになっている問題」についていえば、24年に入って、現役党員を名乗る人が複数回にわたって匿名で記者会見し、党内のセクハラやパワハラを訴えています。こういった問題は、松竹問題よりも前からあったのかもしれませんが、最近になって一気に噴出した感があります。

神谷: 以前から「除籍」が「簡単な除名」として使われ、パワハラがその手段として使われることはありました。ですが、SNSが発達したり、松竹問題が社説含めてメディアで多く取り上げられたりするなど、党組織の側ではない事情で可視化される条件が整ってきたように思います。