「老後は夫婦支えあっていく」と考えていても、何が起こるか予想がつかないもの。そんな万一のときに助けとなるのが遺族を経済的に支える年金制度「遺族年金」です。とはいえ、誰でも受け取れるわけではなく、受け取れたとしても働き方などによって受給額が変わります。場合によっては「受け取れる金額がゼロ」ということも……。事例と共に見ていきましょう。
遺族年金を受け取るための要件
配偶者が亡くなった後の生活を支えてくれる「遺族年金」。遺族にとっては心強い給付ですが、受給には要件があり、支給額も一律ではないため注意が必要です。
まずは遺族年金について簡単におさらいしておきましょう。遺族年金は「遺族基礎年金」と「遺族厚生年金」に分かれます。国民年金の加入者が亡くなったときに遺族が受け取れるのが「遺族基礎年金」。個人事業主やフリーランスなどが該当します。一方、会社員など厚生年金の加入者が亡くなったときには「遺族基礎年金」のほかに「遺族厚生年金」も受け取れます。
ここで気を付けたいのが、遺族基礎年金の対象になるのは「18歳未満の子がいる配偶者または18歳未満の子ども」という点。つまり、子どもがいなければ対象になりません。受給額は年81万6,000円の基本額(2024年度)と子どもの加算額。第2子まで年23万4,800円で、第3子以降は年7万8,300円です。
一方の遺族厚生年金にも要件があります。対象になるのは妻と18歳未満の子ども、そして夫については妻が亡くなった時の年齢が55歳以上という縛りがあります。受給額は亡くなった人の老齢厚生年金(報酬比例部分)」に4分の3を掛けた額です。
さらに、遺族の収入要件がある点も見逃してはならないポイントです。遺族基礎年金、遺族厚生年金ともに、遺族の年収が850万円(所得金額655万5,000円)以上になると、対象外となり受け取ることができません。
また意外と見落としがちですが、遺族年金は自ら請求しないと受け取ることができませんので、故人を失った悲しみの中でも忘れずに手続きする必要があります。
このように遺族年金には様々な要件があり、すべての人が一律で同額を受け取れるわけではありませんし、そもそも対象外になるケースもあるわけです。
続いて、そんな遺族年金の落とし穴にハマった飲食店勤務の佐藤さん(53歳)のケースを見ていきましょう。
(広告の後にも続きます)
遺族年金ゼロ?そんなバカな……年下夫を襲った二重の悲劇
会社員の佐藤さん(仮名)は53歳。よく行く飲食店で知り合った13歳年上の妻と「年の差婚」をしました。妻は年金暮らしとなり、佐藤さんは飲食店で働いています。
結婚当初はその年の差から周囲に心配されることもあったという2人。しかし、精神的に頼れる妻とは仲睦まじく、共通の趣味である野球観戦に時折出かけるなど、ささやかながらも楽しく暮らしていました。
しかし、ある日妻が急性心筋梗塞で倒れ、突然の別れが訪れます。かなりの年上女房とはいえ「女性は長生き」と考えていた佐藤さんにとっては青天の霹靂です。呆然としながらも周囲の助けもあってなんとか葬儀を済ませた佐藤さん。その際、友人から遺族年金について手続きするよう助言を受けました。
「遺族年金か……。確かにお金のことはちゃんとしなきゃな。これまで何でも妻に頼っていたから、うっかりもらい損ねるところだった」
友人に感謝しつつ、さっそく手続きに赴いた佐藤さんを衝撃の事実が襲います。なんと佐藤さんは遺族年金の対象ではないというのです。
前述のとおり、遺族基礎年金の対象になるのは「18歳未満の子がいる配偶者または18歳未満の子ども」。また、遺族厚生年金の対象になるのは「妻と18歳未満の子ども、そして妻が亡くなった時の年齢が55歳以上の夫」です。
子どもはおらず、現在53歳。どちらの要件も満たさない佐藤さんは、受け取れる年金がないという事実が判明したのでした。
妻が生きている時に受け取っていた年金は年160万円程度。一方で、販売員として現役で働く佐藤さんの年収は300万円前後です。世帯で460万円でやりくりしていましたが、突然大幅な収入減の憂き目にあった佐藤さん。
1人暮らしになったからといって2人暮らしの時の半分で生活費が済むわけではありません。佐藤さんは一層切り詰めながら生活しなければと、家計の見直しを始めたそうですが……。
「妻も失って遺族年金もなしとは、血も涙もないな」。思わず心の中でつぶやいたそうです。