与野党の間で「年収の壁」対策の議論が加速しているが、当事者である女性たちはどう考えているのだろうか。

そんななか、働く主婦・主夫層のホンネ調査機関「しゅふJOB総研」(東京都新宿区)が2024年11月12日に発表した調査「もし家庭の制約がなければ、主婦層が最も望む雇用形態」によると、働き方を縛る制約がフルタイムの正社員で働きたい人が多いことが分かった。

年収の壁ではなく、「時間制約の壁」が問題だと専門家は指摘する。では、どう解決すればよいのか。

「趣味が仕事です!と言い切れるぐらい仕事が好き。しかし、扶養手当が…」

しゅふJOB総研の調査(2024年9月17日~30日)は、就労志向のある主婦・主夫層460人が対象。

まず、いま最も望ましい働き方(雇用形態)を聞くと、「短時間非正規社員」(35.4%)が最も多く、「短時間正社員」(25.9%)、「フルタイム非正規社員」(9.6%)と続いた。パートやアルバイト勤務を望む声が多数派だった【図表1】。

ところが、もし家庭の制約がなくなり、100%仕事のために時間を使うことができるようになったら、最も望ましい働き方は何かと聞くと、「フルタイム正社員」(43.3%)がダントツの1位に。以下に、「短時間正社員」(24.8%)、「短時間非正規社員」(11.5%)と続いた。一転して、正社員を望む人が約7割(24.8%)に増えたことになる【図表2】。

状が100%仕事に専念できる場合になると、「フルタイム正社員」は4.6倍に増える一方、「短時間非正規社員」は3分の1に減ることになる。

フリーコメントを見ると、いかに「正社員」という働き方を望んでいるかが伝わってくる。

「制約がないのではあれば、最大に稼げる形態で働きたい」(30代:派遣社員)

短時間正社員なら家庭と両立がしやすい」(30代:パート/アルバイト)

「趣味が仕事です!と言い切れるぐらい仕事が好きです。が、主人の仕事先の103万円越えると扶養手当の返金、家族手当の返金。そんなのなくしてほしいです。主婦も働きたい人はいっぱいいる」(50代:パート/アルバイト)

「自身の裁量で時間や場所等を決めたい」(50代:今は働いていない)

その一方で、正社員という働き方に迷いも感じられる。

「正社員のほうが仕事の裁量を与えられるのでやりがいがある。しかし、人生のすべての時間を会社に注ぐと、会社の状態に人生を左右されることになる。自立するためには働く以外の時間も必要だ」(40代:パート/アルバイト)

「業務委託という働き方に興味があります。近所にはテレワークの施設も充実しており、フリーアドレスでばりばり働きたい」(50代:派遣社員)

「家族が第1優先なので仕事は楽しめる程度でよい。好きな仕事ができればそれでいい」(40代:パート/アルバイト)

このような意見が寄せられた。

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「自身の裁量で時間や場所等を決めたい」のに、諦めてしまう

J-CASTニュースBiz編集部は、研究顧問として同調査を行い、雇用労働問題に詳しいワークスタイル研究家の川上敬太郎さんに話を聞いた。

――100%仕事に専念できるなら、「フルタイム正社員」で働きたいという人が4.6倍に増えました。この調査結果をズバリ、どう分析しますか。

川上敬太郎さん 働きたいと考える人がどんな雇用形態を望んだとしても、そこには決して良し悪しなどないと思います。フルタイム正社員を望む人もいれば、短時間非正規社員を望む人もいて、希望は個々に尊重されるものです。

そのうえで、フルタイムと短時間合わせて正社員を望む人が多いのは、それだけ主婦・主夫層の中にも、仕事のやりがいやそれに見合った報酬などを求めている人が多いということなのだと思います。

ただ、それらの思いが、家庭との両立という「時間制約の壁」によって抑えられてしまっているということではないでしょうか。

――「年収の壁」より「時間制約の壁」が主婦・主夫層の働き方を制限している主因だというわけですね。

フリーコメントでは、私個人は「趣味が仕事です!と言い切れるぐらい仕事が好き…。主婦も働きたい人はいっぱいいる」という意見に共感しましたが、川上さんはどのコメントが一番響きましたか?

川上敬太郎さん それぞれ響く言葉ばかりですが、中でも印象的だったのが「自身の裁量で時間や場所等を決めたい」という言葉です。逆の言い方をすると、いまは「自身の裁量では時間や場所等を決められない」ということになります。

まさに、「時間制約の壁」が存在していることを示すコメントです。自身の裁量で時間や場所等を決められないことに慣れて当たり前になっていくと、そのこと自体に疑問すら生じなくなり、あきらめの気持ちに支配されてしまう人が少なくないのではないでしょうか。