ラグジュアリーブランドを購入する人たちの中には、自分の社会的地位を高く見せようとする人がいます。では、それ以外の人はどうしてブランド商品を購入するのでしょうか。本記事では、ブランドものなどのラグジュアリー商品の消費とナルシシズムの関係について、心理学者の越智啓太氏による著書『買い物の科学:消費者行動と広告をめぐる心理学』(実務教育出版)から一部を抜粋・再編集して解説します。

借金が多くなるとブランドものが欲しくなる

消費者の中には、実際にはかなり経済的に苦しいにもかかわらずラグジュアリー商品を次々購入しているケースも目立ちます。

彼らは収入のほとんどをラグジュアリー消費に回すだけでなく、借金をしてまでもこのような消費を続けようとします。

いったいなぜ、こんな行動が生じるのでしょうか。これについて、最近ワンら(2020)のグループは興味深いデータを報告しました。

これは、経済的な苦境に立たされると、自分の社会的地位が低下してしまうという恐怖や他人に経済的に苦しいということがばれてしまい、それゆえ自尊心が傷ついてしまうので、これを防ぐために顕示的消費への動機づけが増加してしまうことがあるというのです。

またラグジュアリー製品を手にすることによって、一時的に自分の経済的苦境を忘れられるということもあるかもしれません。

このような消費パターンはもちろん債務の雪だるま式増加につながるので、あまり良くないことだと思われるのですが、多くの人がこの罠(わな)に捕らわれてしまっているのが現状です。

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他人が持っていないことに価値を置く顕示的消費

ところで、実際にラグジュアリーブランドを購入する人を見てみると、みんながみんな社会的な地位を高く見せようとしているわけでもないことがわかります。

たとえば時計についていえば、パテックフィリップの時計はロレックスよりも高級ですが、外見上とくに高級に見えません。

また、これが高級時計であるということがわかるのは一部の人だけなので、見せびらかし用途にもあまり使えません。では、なぜ彼らはわざわざラグジュアリーブランド製品を購入するのでしょうか。

この問題を研究したところ、どうやら、ラグジュアリーブランド製品を購入する人たちには、2つのタイプがあるらしいということがわかりました。

ひとつは、最初述べたような金持ちであるということを他人に顕示するために消費を行う人です。

これに加えて、自己のユニーク性を感じるためにラグジュアリーブランド製品を購入する人々がいるのです。彼らがこれらの製品を購入するのは、それが高価だからというよりも、大衆品でなく、他人が持っていないからです。