ナルシシズムと顕示的消費の関係

これらの2つのタイプは、ナルシシズムと密接に関係していることがわかっています。

第1の顕示的消費パターンは、まさに「自分は社会的地位がある人間だから、もっと尊敬しなさい」という自己主張が主な動機の人々です。

このような動機の背景には社会的承認への不安があるので、このタイプは、脆弱(ぜいじゃく)なナルシストあるいは隠れナルシストタイプと呼ばれます。上流階級へのバンドワゴン効果(※)といえるでしょう。

※ある選択肢を多数が選択していること自体が、そのものの効用を増大させることを「バンドワゴン効果」といいます。顕示的消費の場合には、脆弱なナルシストが、上流階級のみんなが使っているから自分も同じものを使って、そのグループと一体化しようと思うことによって、そのものの効用が上がることが当てはまります。

第2の顕示的消費パターンは、「自分は他人とは違ったユニークな存在なんだぞ」という自己主張や、自分のユニークネスを感じることを重視するタイプです。

このタイプは壮大なナルシストあるいは顕性ナルシストタイプと呼ばれます(ニーヴら、2020/ジャンら、2022)。

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脆弱なナルシストと壮大なナルシスト



[表]ナルシストのタイプによる消費行動(Kang & Park, 2016)

カンとパーク(2016)は、脆弱なナルシストと壮大なナルシストの消費行動の違いについて分析しました。

脆弱なナルシストは基本的に質よりも量を重視し、購入サイクルが早く、ブランド忠誠度が低く、偽物を購入することも厭(いと)わないという特徴があります。

これに対して、壮大なナルシストは量よりも質を重視し、1点1点考慮して購入し、購入サイクルは遅く、流行のものよりもスタンダードなもので、ブランド忠誠度が高く、偽物は購入せず、正規のルートで正規の販売店から購入することを示しました。

ブランドの選好においても、壮大なナルシストは、金持ちの中で人気がありみんなが知っているようなブランドはあえて選ばず、より個性的で「知る人ぞ知る」ブランドを選好する傾向があります。

時計でいえばロレックスやオメガではなくオーデマ・ピゲとかブランパン、車でいえばベンツやBMWでなくジャガーやベントレーなどのブランドです。

ところで、ラグジュアリー製品のラインナップの中には、「ラウドラグジュアリー」といわれているものと「クワイエットラグジュアリー」といわれているものがあります。

ラウドラグジュアリーとは、そのブランドのロゴやマークが露骨に目立つように配置されているような製品のことです。

一方でクワイエットラグジュアリーは、ブランドロゴやマークがあっても控えめで目立たない商品です。

もちろん、脆弱なナルシストタイプが好きなのはラウドで、壮大なナルシストタイプが好きなのはクワイエットです。

いくつかのブランドはブランドイメージが傷つかないように注意しながら、より低価格帯に進出していますが、これらの層はラウドラグジュアリーを求めることが多いので、低価格ラインナップのほうがブランド名が目立つようにデザインされるのが一般的です。

引用・参考文献

Wang, W., Ma, T., Li, J., & Zhang, M. (2020). The pauper wears prada? How debt stress promotes luxury consumption. Journal of Retailing and Consumer Services, 56, 102144.

Neave, L., Tzemou, E., & Fastoso, F. (2020). Seeking attention versus seeking approval: How conspicuous consumption differs between grandiose and vulnerable narcissists. Psychology & Marketing, 37(3), 418-427.

Jiang, L., Cui, A. P., & Shan, J. (2022). Quiet versus loud luxury: the influence of overt and covert narcissism on young Chinese and US luxury consumers’ preferences?. International Marketing Review, 39(2), 309-334.

Kang, Y. J., & Park, S. Y. (2016). The perfection of the narcissistic self: A qualitative study on luxury consumption and customer equity. Journal of Business Research, 69(9), 3813-3819. 

越智 啓太

法政大学文学部心理学科教授