牛肉高騰でインフレ気味の牛丼チェーンを尻目に…「かつや」「てんや」「なか卯」“和風丼チェーン”3社の現在地

 2024年1月〜10月の飲食業の倒産が820件(前年同期比12.7%増)と増えている。業種別では、ラーメン店や焼肉店などの専門料理店が最も多く、酒場、ビヤホールが続く。コロナ収束で人流や客足が戻り、売上は回復している店も多いのに、人手不足、人件費上昇、エネルギーコストや物価高騰などが経営を厳しくしている。

 牛丼市場の88%を占める牛丼御三家の「すき家」「吉野家」「松屋」も10月上旬、一斉に割引キャンペーンを実施した。今の牛丼チェーンは看板商品の牛丼だけでは生き残りが難しく、各店が同じようにカレーや定食などの品揃えでメニューを拡充し、同質化したメニュー構成になっている。

 やはり価格で差別化するしかないのが現実なようだ。今回は値上げでも客が離れない和風丼チェーンについて述べてみたい。

◆先行している牛丼チェーン業界

 牛丼チェーン各社は、牛肉や豚肉の価格高騰に対応するため、比較的に安く安定している鶏肉を使用したメニューの拡充にも力を入れている。これまで支えてきた客層も高齢化が進展し、将来の顧客予備軍を確保するためにも、客層の若返りは必須だ。若者層を狙うためにも、価格競争力と商品力の両立性を打ち出しているようだ。

 看板メニューの牛丼は輸入牛の安い部位であるショートプレートを各社が使用するが、昔と違い円安や物流コストの高騰などで仕入れ額が上がっている。とはいえ、まだまだ値下げ余地があると推測される。しかも、調理工程は単純で注文を受けて迅速に、かつ従業員の労働負担も軽減しながらの提供も可能。

 以前は並盛350円程度だったのが、すき家と松屋は並盛430円、吉野家は並盛498円(ともに税込)と値上がりしており、「早い、安い、うまい」は昔の話になりつつあるようだ。

◆贅沢を庶民の食べ物にしたかつや

 物価高騰に賃金上昇が追いつかず、外食離れが進展している。そういった中、忙しい会社員には、手っ取り早く、しかも安く済ませられるランチが好まれる。昔は贅沢品だったかつ丼をかつてはワンコイン490円(税込539円、2022年7月から段階的に値上げ)の提供で、庶民の食事にしてくれたかつ丼チェーンの「かつや」。

 単にコスト削減を優先した安かろう不味かろうではなく、品質も高く、低価格のかつ丼にお客さんは満足しているようだ。この価格破壊に他の競合他店は追随する動きを見せており、かつ丼市場は活性化している。

 しかし、そのかつやもコスト削減が限界になり、段階的に値上げに踏み切っている。2024年10月18日からも、カツ丼など一部商品を値上げしたのだ。原材料価格、エネルギーコスト、物流費、人件費などの上昇などのためだが、それでも安いと顧客は離反することなく相変わらずの人気だ。

 今年10月、主力メニューである「カツ丼(梅)」は649円に値上げしたのだが、それでも大概のお客が今までが安かったんだとその価値を認めていた。また、かつやは来店客の全員に次回利用できる100円の割引券を配布しているから、今でも実質549円でかつ丼が食べることができる。同グループのからあげ専門店「からやま」でも25日から値上げしたが、同じように100円割引券を常時配布している。こちらも客足が鈍ることはないようだ。

◆かつやの運営会社の実態

 かつやの運営は、以前はアークランズ株式会社(本社:新潟県三条市)が担っていた。アークランズはムサシやビバホームなどホームセンター事業を中核として、全国に270店舗(2024年8月31日自点、傘下のアークランドサービスの外食店除く)を展開している。

 しかし消費者の生活様式の変化による外食市場の規模拡大を事業機会と捉えて、1986年4月に外食事業部を設立。本格的に飲食事業を展開するため、1993年、アークランズ株式会社の外食事業部門の営業を譲り受け、100%出資の子会社としてアークランドサービス株式会社を設立した。

 かつやは傘下のかつや株式会社が運営しており、525店舗(直営139店舗、FC311店舗、海外75店舗、2022年12月末時点)展開している。また、同グループでアークランドサービス傘下のエバーアクション株式会社が運営する「からやま」は現時点で122店舗出店しており、コロナ収束後に各社が整理縮小される中で好調だ。

◆関西での店舗展開力を高める戦略

 2010年には両チェーンのさらなる店舗展開力を強化するため、関西での地盤が強固な和食ファミレスチェーン「和食さと」などを展開するSRSホールディングスと資本・業務提携を締結した。

 SRSホールディングスとアークランドサービスホールディングスが、出資比率51%(SRSホールディングス):49%(アークランドサービスホールディングス)で「サト・アークランドサービスホールディングス」を共同出資で設立し、エリアフランチャイジーとして協力関係を構築している。

 現在のかつやは関西圏で48店舗(大阪27店舗/京都3店舗/滋賀1店舗/兵庫6店舗/奈良6店舗/和歌山5店舗)を展開中だ。また、からやまも関西11店舗(大阪10店舗/兵庫1店舗)を展開中である(2024年3月末現在)。

◆「てんや」が値上げする中、「さん天」の魅力

 和食ファストフードといえば、かつ丼だけではなく、天丼も見逃せない。ロイヤルホールディングス傘下の天丼チェーン「天丼てんや」も11月8日より国内店舗で20品を20~30円値上げを断行した。

 ロイヤルホールディングスは外食御三家であるロイヤルホストをコアブランドとして展開する外食企業だ。100%子会社で、てんやの運営会社でもある株式会社テンコーポレーションはも価格は少し高めだがこだわりの天丼を提供している。今回の値上げは、お米の価格高騰など仕入れ価格の負担増大が理由で、約2年ぶりである。

 一方、かつやのエリアフランチャイジーであるサト・アークランドサービスホールディングスは自社ブランドである天丼専門店「さん天」も展開している。さん天は、揚げたての海老が2本、それに野菜天も入った「海老天丼」を490円から提供している。

 SNSも積極活用し、LINEクーポン、Xクーポン、アプリクーポンも同時に利用できる。豪華な天丼が490円で食べられると好評のようだ。さん天は現在34店舗(FC1店舗)を展開している。人手不足対応としてセルフ店も増やしており、セルフ店は大根おろしも食べ放題など各種サービスも実施中だ。

◆提供に複雑性が増す天丼、かつ丼

 かつ丼や天丼は牛丼のように、単純工程、単純作業で提供できるワンオペとは異なり、提供に複雑性が増す。その上、かつ丼は豚肉の高騰や物価の優等生であるはずの卵が高騰。天丼も、使用する海鮮類が高いだけでなく、天ぷらを揚げる油そのものも高値で推移しており、原価の負担が大きくなっている。

 なかには2000円を超えるような高付加価値創造型のかつ丼もあり、そちらはインバウンド客に日本の本場のソウルフードとして大盛況で、これからも人気が絶えることはなさそうだ。

 そのかつ丼や天丼を、牛丼と同程度の約500円の価格で提供するのは難しいはずだが、それを実現している各チェーンは顧客からの支持も高い。注文が入ってから揚げてくれ、揚げたての天丼やかつ丼は当然ながらおいしい。

◆親子丼のなか卯も存在感を発揮

 その牛丼チェーンのなかで、唯一といっていい和食を前面に出しているのが、親子丼でおなじみの「なか卯」だ。1969年10月、手づくりうどん店として、大阪府茨木市に1号店をオープン。2001年に稼働店舗数200店舗を超えると、2010年3月に飲食大手ゼンショーの完全子会社となる。

 ゼンショーグループのシステムを最大限に活用し、牛丼、親子丼、カツ丼、カレーのメニュー構成で運営し、特に看板商品である親子丼(並450円)には定評がある。和食のファストフードというカテゴリーの中で、存在感があるチェーン店だ。

 創業時からのうどんをベースに業態進化と成長の基盤となった牛丼、親子丼やカツ丼、カレーなどの商品開発を強化し、なか卯を支える顧客基盤のさらなる拡大を目指してきた。店舗数は455店(2024年3月末日現在)となっている。アプリクーポンが週替わりで配信され、来店動機につながっており、さまざまな話題商品を積極販売しているようだ。

◆企業努力を重ねている各店に期待

 飲食店の倒産が今後もさらに増えそうな中で、日常的に食べられる丼物は、他の業態に比べて需要が大きく変動せずに安定している。牛丼、かつ丼、天丼、親子丼など和食のファストフードは多忙な会社員には簡単に食事を済ませられるし、価格も安いから絶対的な人気がある。

 食品スーパーの惣菜コーナーにも各種丼ものが陳列されており、競争も熾烈だ。各店が切磋琢磨しながら、品質と価格競争を展開し、しかもお客には選択肢も広がっているのが現状だ。厳しい外食を取り巻く環境下で、企業努力を重ねている各店の今後の成長に期待したい。

 

<TEXT/中村清志>

【中村清志】

飲食店支援専門の中小企業診断士・行政書士。自らも調理師免許を有し、過去には飲食店を経営。現在は中村コンサルタント事務所代表として後継者問題など、事業承継対策にも力を入れている。X(旧ツイッター):@kaisyasindan