10月の衆院選は「無効」…“4人の弁護士”が国を提訴した理由とは? 「“一票の格差”より深くて広い問題がある」

10月の衆議院議員選挙は議員定数が人口に比例して配分されておらず「違憲・無効」であるとして、三竿径彦(みさお みちひこ)弁護士らのグループが、東京都内の4小選挙区と比例代表選挙の東京ブロックについて選挙無効の判決を求め、東京地裁に訴訟を提起した。

提訴後に原告の4人の弁護士が記者会見を行い、議員定数配分に用いられている「アダムズ方式」の問題点を指摘し、厳密な人口比例に基づく定数配分を行う必要性を訴えた。

「一票の格差」では済まない問題

議員定数不均衡については、往々にして、「一票の格差」の問題として報じられてきた。しかし、三竿弁護士は「国民1人あたりの投票の価値が『1:何』という話だけで済ますことができない、もっと深くて広い問題」と指摘する。

三竿径彦弁護士(11月13日 東京都内/弁護士JP編集部)

三竿弁護士:「われわれが求めているのは、『一票の格差の是正』ではなく『議員定数の是正』だ。

民主主義が成立するためには、国会議員が国会で議論して多数決で投じる1票は、同じ重さ・価値でなければならない。

国会議員1人1人が全員、同じ人口の選挙区から選出され、同じ数の国民を背負っていなければ、国会の多数決が国民の多数決と一致するとはいえない。

小選挙区について言えば、われわれの主張はすごくシンプルだ。日本の人口は約1億1200万人であり、衆議院の小選挙区の議員総数(289人)で割れば約43万人になる。つまり、議員1人1人が同じ43万人の選挙区から選ばれるべきだ」

なお、人口比例を厳格に貫こうとすれば、議員定数、選挙区の区割りが選挙のたびに変動する可能性がある。この点について、三竿弁護士は「最重要なのはあくまでも人口比例配分だ。まずそれを実現したうえで、選挙活動のやりにくさ等が生じた場合に初めて、いろいろな工夫をして是正していくべき」とする。

たしかに、憲法43条は国会議員を「全国民の代表」と明確に定めている。その理念に忠実に議員定数を配分することは、選挙区の区割りの便宜や選挙活動の便宜よりも優先されて当然といえるかもしれない。

わが国では国会議員と選挙区内の選挙民との結びつきが重視され、その選挙区から選出された議員は「地域代表」と扱われる傾向がある。しかし、それは本来の「全国民の代表」という概念と齟齬する面があるといわざるを得ない。

われわれ一般国民は、小選挙区から選出された衆議院議員と選挙民との本来あるべき関係について、正しく理解することに努めなければならないだろう。

今回から導入「アダムズ方式」とその問題…「一人別枠方式の復活・温存だ」

今回の衆院選における小選挙区の議員定数は、2020年(令和2年)国勢調査の結果を基に「アダムズ方式」で配分されたものである。

かつては「一人別枠方式」がとられていた。これは、あらかじめ各都道府県に「1議席」ずつ割り振り、残りの議席を都道府県の人口数に比例配分する方式であり、不均衡の元凶とされていた。最高裁は2011年(平成23年)3月23日判決のなかで一人別枠方式を見直す必要性を説示し、この判決を受けて国会は2012年に法改正により一人別枠方式を廃止した。

これに対し、今回から適用された「アダムズ方式」とは、都道府県の人口数をある数「x」で割り、その商の小数点以下を切り上げた数を各都道府県に定数として配分したらその合計が総定数とほぼ同じ数になるような「x」を見つけ、それにより各都道府県への配分定数を確定する計算方法をさす(※)。

※出典:高橋和之「立憲主義と日本国憲法 第5版」(有斐閣)P.364

「1」未満の小数点以下の「端数」が出たら、それがどのような小さな値でもすべて切り上げる方式である。極端な例では「0.01」などもすべて「1」に切り上げられる。それゆえ、人口の少ない都道府県ほど、有利な配分が行われやすい。

10月の衆院選の小選挙区の議員定数は2020年(令和2年)国勢調査の結果を基にアダムズ方式で配分されたが、東京都は「29.1078」で30議席(端数切り上げ)であるのに対し、鳥取県は「1.1783」で2議席(同上)が配分されている(【図表】参照)。

【図表】都道府県別の定数配分とアダムズ方式の「商」の関係(原告訴状をもとに弁護士JP編集部作成)

國部徹(くにべ とおる)弁護士は、以上のアダムズ方式の概要について解説を行った。そのうえで、「恣意的な配分が許されない確立された数理的根拠のある方式であり、一定の意義がある」と評価しつつも、アダムズ方式には上述の「1未満の端数切り上げ」の処理に大きな問題があると指摘する。

國部徹弁護士(11月13日 東京都内/弁護士JP編集部)

國部弁護士:「アダムズ方式を用いると、結果としてすべての都道府県に『1未満の端数切り上げ』によって、定数が『1』ずつ配分されることになる。

小規模な都道府県に篤(あつ)く厚く、大規模な都道府県に対し冷たく薄くなっている。

この点は実質的に『一人別枠方式』の復活・温存と同じであり、人口比例配分とは程遠い結果となっていることに違いはない。

東京都は5つの選挙区が追加され30にまで増えた。しかし、人口比例に則って議員1人あたり43万人と計算して配分したら、本来は31か32にしなければならなかったはずだ。

アダムズ方式にはこのような構造的欠陥があるといわざるを得ない。

制度の導入の過程では、9つの方式が検討され、他に、より人口比例に近い結果を導き出せる優れた方式があったにもかかわらず、なぜアダムズ方式が採用されたのか。そのまともな理由が示されているとは考えられない。訴訟では、選挙管理委員会に、この点についてきちんと向き合って議論してもらいたい」

比例代表選挙の「重複立候補」も「国民のためになっていない」

今回の訴訟では、比例代表制の違憲無効(憲法43条、14条等違反)も主張されている。

三竿弁護士らのグループが主張する問題点は以下の2点に集約される。

・11のブロックの定数配分を「アダムズ方式」(前述)によって行っている
・小選挙区との「重複立候補」「復活当選」の制度に合理性が乏しく、選挙人の投票意思を歪める

前者の「アダムズ方式」による定数配分については、小選挙区制度と同様の問題が指摘される。

これに対し、後者の「重複立候補」「復活当選」の問題について、森徹(もり とおる)弁護士は「真に国民の利益のための制度になっていない」と指摘する。

森徹弁護士(11月13日 東京都内/弁護士JP編集部)

森弁護士:「小選挙区制度で当選できなかった人のための『失業対策』のような制度として機能してきている。

自民党は今回、重複立候補が認められず落選した候補者が多いが、それでも結局、小選挙区で落選した候補者のうち73.8%が比例代表で復活当選している。

比例代表制は本来、各政党の政策、候補者名簿の順位が明確になっていなければ、投票する有権者の意思と結果とが合致しないはずだ。

それなのに、同一の小選挙区内での得票が当選者の何%だったかという『惜敗率』によって、比例代表選挙での当選順位が決まるという、投票者の意思が反映されていない、合理性のない操作がされている。

重複立候補できる政党・候補者が有利な仕組み

森弁護士はまた、「重複立候補」「復活当選」の制度には、政党・候補者ができる選挙活動の範囲についての不平等が生じ、それが結果として民意の的確な反映を妨げているという問題点があると指摘する。

森弁護士:「重複立候補が認められているのは候補者届出政党(※)の候補者のみだ。

候補者届出政党から重複立候補している候補者は、そうでない候補者と比べ、小選挙区と比例代表の両方で規模の大きい選挙運動ができる。

政見放送が認められているし、選挙カーやスピーカーの数等も違う。

重複立候補できる人のみが、そのようなツールを使ってオープンに有権者に訴えかけることができるというのでは、フェアな選挙といえない。結果として選挙人の選挙権の行使を侵害するものだ」

※「①所属する国会議員が5人以上」「②直近の国政選挙での得票率が2%以上」のいずれかの条件を満たす政党

議会制民主主義が健全かつ正常に機能するには、それぞれの国会議員が国民の意思をできる限り的確に国政に反映させるよう努めなければならない。その前提として、民意を反映させるにはどのような選挙制度が望ましいかという問題がある。

衆議院議員選挙の「小選挙区比例代表並立制」が導入されて30年以上が経過し、私たちの間にすっかり定着したかに見える。しかし同時に、本件訴訟のテーマである「議員定数配分の不均衡」のほかにも、小選挙区制で必然的に生じる「死票」の問題(※)など、様々な克服すべき課題を抱えていることも事実である。

どのような選挙制度も「完全」ではあり得ない。民意が的確に反映されなければ、いずれその報いは私たち国民の不利益となって返ってくる。私たちは常に、憲法が国会議員を「全国民の代表」と定めた原理原則とその意味に立ち返り、選挙制度のよりよい「あり方」を問い続けなければならないだろう。

※その票を投じた有権者を代表する当選者が存在しない票