中村敬斗と三笘薫の突破に見る、サッカーにおける「ブロックプレー」の有用性

サッカーの戦術は、日々進化を続けている。時代と共にトレンドが移り変わり、局面ごとの個人戦術も少しずつ変化している。そんな中、先月行われたサッカー日本代表のFIFAワールドカップ26アジア最終予選・日本代表対オーストラリア代表の試合では、中村敬斗(スタッド・ランス=リーグ・アン)と三笘薫(ブライトンFC=イングランドプレミアリーグ)がおもしろい連係プレーを見せていた。他の球技では既に高い頻度で使われているその動きは、将来的にサッカーでもメジャーな戦術として定着していくのだろうか。その可能性を考察していく。

◆三笘のアイディアが光った即興的プレー


後半30分に差し掛かろうというときだった。左サイドのタッチライン際でパスを受けた中村が、足下にボールを止める。その後自陣方向に戻りながら顔を上げ、バックパスで組み立て直すような雰囲気を出しておいて、再度前を向いてボールをセット。対峙した右WBのルイス・ミラー(ハイバーニアンFC=スコットランドプレミアリーグ)に縦突破を仕掛けて抜き去ると、その後もう1枚相手DFをはがしてラストパス。見事オウンゴールを誘発し、貴重な勝点1をもたらした。

中村の個人技は当然称賛されるべきだが、同時に、1人目のミラーを抜き去る瞬間に完璧なブロックプレーで突破をアシストした三笘薫(ブライトンFC=イングランドプレミアリーグ)の動きも見逃せなかった。中村の少し前にいた三笘は、中村が前を向き直した瞬間に縦への仕掛けを察知。そのままミラーの進行方向に残り、中村を追うミラーを完璧なブロックで封じたのだ。

「準備していたプレーというよりは、瞬間的なアイディアです。“(中村が)縦に仕掛けてくるな”と分かった瞬間には、やれることはブロックくらいだったので。彼のクオリティが素晴らしかったのがすべてですが、少しでも突破を助けられたならよかったかなと思います」

このプレーについて、SNS上などでは「三笘が地味にいい仕事をした!」といったコメントもある一方で、「あれはファウルにならないの?」といった投稿も見受けられた。結論から言うと、三笘のプレーはファウルにはあたらない。三笘がミラーをブロックした瞬間、三笘が「静止していた」という点が大きなポイントだ。その場に静止していた以上、あくまでも「“元からその場に止まっていた”三笘にミラーの方からぶつかって倒れただけ」という認識となるのだ。

◆セットプレーで多用されるブロックプレー

三笘が行ったのは「ブロックプレー」と呼ばれるプレーだ。文字どおり、相手の進行をブロックすることで味方を援助する。バスケットボールなどの経験がある人なら、「スクリーン」という呼称のほうが馴染み深いかもしれない。あらゆる球技でよく使われる、定番の連係プレーの1つだ。

このブロックプレー。従来サッカーで使われることはあまり多くなかったが、近年トップレベルの試合で目にする機会が増えてきている。特によく使われるのが、セットプレーの局面だ。

日本代表も、このオーストラリア戦のセットプレーでブロックを使用していた。前半14分の右CKの場面。ゴール近くに5人の選手が密集することでオーストラリアのDFたちをゴールエリア内に集め、キッカーの久保建英はファーサイドの少し離れた位置で待っていた堂安律へ。堂安に寄せるため前に出ようとするオーストラリアのDFを、ゴール前に入っていた谷口彰悟、上田綺世、町田浩樹らがブロック。相手DFの動きを止めることで、堂安はフリーでボレーシュートを打つことができた。

セットプレーは、デザインした戦術を最も発動しやすい場面だ。代表レベルの試合のみならず、今ではJリーグの試合でも盛んに行われており、今後もブロックプレーを組み込んだ崩しはさらに増えていくことだろう。

◆サッカーにおけるブロックプレーの可能性

バスケットボールやハンドボールといった手でボールを扱うゴール型の球技では、流れの中でもブロックプレーがよく使われる。

例えば、ハンドボールのゴール前のスペースの狭さはサッカーの比ではない。手でボールを扱う分、足でボールを扱うサッカーと比べて攻撃側がより主導権を握ることができるため、ボール非保持側のコートプレイヤーは、6人全員が予め自陣ペナルティエリア付近まで引いて守備を行うことが多い。横幅20mのハンドボールコートで、これだけゴール前に人を集めて守られるのだから、それを崩すにはより緻密な戦術が必要となる。攻撃側の選手同士がクロスするように入れ替わる瞬間、マンツーマンで着いていこうとする相手DFをブロックすることで、味方がシュートを打つための僅かなスペースを創出する。ブロックプレーは、狭いスペースを切り崩すための有効な手段の1つなのだ。

では、一方でサッカーのゴール前の攻防はどうだろうか。現代サッカーにおいて、ゴール前の密集地帯は、上記したハンドボール等に近い状況になることも珍しくない。特に力量差のあるチーム同士の試合では顕著だ。

例えば、現在日本代表が戦っているアジア最終予選などは良い例だ。今や日本はアジアトップレベルの戦力を有する国の1つとなった。代表選手のほとんどが海外組。イングランドやスペイン、ドイツ、イタリアといった列強国の1部リーグで主力を張る選手たちで構成されるチームの実力は、アジアレベルのそれではない。従って、圧倒的にボールを保持して相手陣内深くに押し込む時間が長くなる。守る相手国側は意図している・いないに関わらず、自陣に引いて守ることになるので、ゴール前のスペースは極めて狭くなる。

こうした状況を切り崩すのに有効な攻撃法の1つが、サイドからのクロスボールだ。比較的スペースができやすいサイドからゴール前にボールを送り込み、前線の選手が頭で合わせるか、またはその競り合いのこぼれ球を狙う。相手よりもサイズやフィジカルで上回れていれば、この攻撃を繰り返すことで得点を奪える可能性が高い。

しかし、先月対戦したオーストラリア代表のように、高さのある相手にはそうもいかない。現に日本も、ゴール前へのクロスボールを幾度となく跳ね返された。

そうなると鍵となるのが、相手陣内深い位置でのコンビネーションだ。複数の選手が連動して相手を動かす、あるいは相手の動きを制限することで突破口を切り拓く。中村と三笘が見せた崩しは即興的なアイディアによるものだったが、連動して局面を打開した典型的な例だ。ブロックプレーをきっかけにサイドを抉(えぐ)ってゴール近くまでボールを運べたことで、大外から放り込むクロスに比べて遥かに確度の高いチャンスを作ることに成功した。中村や三笘といった選手たちのドリブル突破は、もちろんそれ単体でも局面を打開できてしまうほどの素晴らしい武器だが、味方と連動することでその破壊力はさらに倍々に増す。中盤からゴール前にかけてのスペースがどんどん少なくなってきている現代サッカーにおいて、ブロックプレーも有効な局面打開の手段となり得るはずだ。

◆様々な示唆に富んだ、フットサルでの事例

そうは言ってもサッカーで、しかも流れの中でブロックプレーを意図的に行うのは難しくないのか? そう感じた方も多いだろう。確かに、上記したハンドボールなどに比べれば、サッカーは手よりも精度で劣る足を使う分、ドリブルやパス回しの流れの中にスムーズにそれを組み込むのは難易度が高い。しかし、サッカーと似た球技であるフットサルにおいては、実は流れの中でも頻繁にブロックプレーが使われているのだ。

フットサルはハンドボールと同じく縦40m×横20mのフロアコートで行われ、人数は5人対5人。サッカー同様足でボールを扱う球技だが、フットサルでは少なくとも10数年以上前から、流れの中でのブロックプレーが頻繁に使われている。世界トップレベルのブラジル、アルゼンチン、スペイン、ポルトガルといった国々のリーグはもちろん、日本国内のトップリーグであるFリーグにおいても、今では日常的にブロックプレーを見ることができる。

フットサルにおけるブロックプレーにも、ハンドボールなどの球技と同様にいくつかのパターンが存在する。最もシンプルなのは、中村と三笘の仕掛けのように、ドリブルする味方を援助するブロックだ。例えば、サイドから中央へドリブルで切り込んでシュートを狙う際などに、近くの味方がタイミングを合わせて相手マーカーの進行方向に入りブロック。ボール保持者がシュートを打てるスペースを作る。もちろん、中村と三笘のように縦突破をアシストするブロックも使われているほか、ブロックした選手がすぐに自ら前方のスペースに出ていく「ブロック&コンティニュー」と呼ばれる個人戦術も存在する。ブロックプレーに限らず、フットサルはこうした2人組、3人組の崩しのパターンが豊富だ。スペースが狭いこともあって、ハンドボールやバスケットボールといった他のインドア球技と似た戦術の進化を辿っており、局面次第で現代サッカーに取り入れられそうなものも多い。現に、2010年前後からサッカーでも広く知られるようになったポジショナルプレーの概念等も、フットサルではとうの昔から存在していた。

フットサルのボールはサッカーボールよりも弾みにくくできており、それ故にトラップやドリブル等のボールコントロールはサッカーボールよりも容易だ。ピッチも天然芝ではなくフロアのため、ボールがイレギュラーに弾むことも基本的にはない。必然的にボールを持った選手の顔が上がりやすくなるため、攻撃側がより緻密な戦術的連係を取ることが可能なのだ。そのあたりも、戦術の進化の早さに影響を与えていると考えられる。プレー環境や人数が異なる以上その全てがサッカーでも有効とは言い切れないが、これまでの流れを見る限り、フットサルで行われている戦術がサッカーでも出現する流れは、今後も続いていく可能性が高い。そういった発展性を考慮してか、鹿島アントラーズトップチームの鈴木隆二コーチ(元フットサル日本代表コーチ、元U-20フットサル日本代表監督)やヴィッセル神戸アカデミーの谷本俊介コーチ(元立川・府中アスレティックFC=現立川アスレティックFC=監督)のように、J1の強豪クラブの中でも、フットサル出身の指導者を現場に招聘する事例が出てきている。

サッカー日本代表の試合で、中村と三笘というタレントによって即興で行われたブロックプレーは、例えば10年後、再現性の高い戦術の1つとしてサッカーのピッチに浸透しているだろうか。そんなことをあれこれ想像しながら競技の進化を見届けていくのも、また一興である。

取材・文/福田 悠 撮影/藤田真郷

【福田悠】

フリーライターとして雑誌、Webメディアに寄稿。サッカー、フットサル、芸能を中心に執筆する傍ら、MC業もこなす。2020年からABEMA Fリーグ中継(フットサル)の実況も務め、毎シーズン50試合以上を担当。2022年からはJ3·SC相模原のスタジアムMCも務めている。自身もフットサルの現役競技者で、東京都フットサルリーグ1部DREAM futsal parkでゴレイロとしてプレー(@yu_fukuda1129)