相続が発生した場合、基本的に遺産は親族が受け取ることになります。しかしながら、親族ではなく「お世話になっている知り合い」に遺産を受け取ってもらいたいと考える人もいるでしょう。そこで本記事では、弁護士の菊間千乃氏による著書『おひとりさま・おふたりさまの相続・終活相談』(新日本法規出版株式会社)から一部抜粋して、親族以外の知り合いに遺産を受け取ってもらうために活用できる「遺贈」と「死因贈与」、それぞれのメリット・デメリットについて、具体例とともに解説します。
おひとりさまが死後、お世話になっている知り合いに遺産を受け取ってもらいたいときにはどうしたらいいの?
Q.おひとりさまの私の両親はいずれも健在ですが、私としては、私のことをいつも気にかけてくれている数十年来の友人のAさんに、私の死後、私の遺産を受け取ってもらいたいと思っています。どのような方法がありますか?
A.遺言による方法(遺贈)と、契約による方法(死因贈与)が考えられます。いずれの方法も、取得させたい財産や割合を指定することができ、あなたの死亡によって効力を生じさせることができます。
◆遺贈について
遺贈には、相続財産の全部、あるいは何分の1という割合で財産を譲り渡す包括遺贈の方法と、相続財産のうち、特定の財産を指定して譲り渡す特定遺贈の方法があります。包括遺贈については、Q21を参照してください。
特定遺贈は、遺贈者が特に指定しない限り、受遺者にマイナスの財産を移転させずに済む反面、遺贈者の財産構成の変化の影響を受けやすく、例えば、遺言書作成後に受遺者が対象財産を処分した場合には、新たに遺言書を作成しないと、受遺者に財産を譲り渡すことができなくなります。
特定受遺者は、対象財産を受け取るだけですので、共同相続人との遺産分割協議に参加する必要はありませんし、他の相続人に意思表示をすることにより、原則としていつでも遺贈を放棄することができます(民986)。
◆死因贈与について
死因贈与とは、「自分が死んだら〇〇の土地をAに贈与する」などというように、贈与者(財産を譲る人)と受贈者(財産を譲り受ける人)との間で、贈与者の死後に贈与者の財産を譲ることを生前に約束する贈与契約のことです(民554)。
死因贈与は契約ですから、贈与者と受遺者の両者の合意が必要です。
贈与者の死後、受贈者が自らの意思だけで財産の受取りを放棄することはできません。受贈者に確実に財産を受け取ってもらえる点はメリットです。
他方、対象が不動産の場合、遺贈の場合は遺言執行者と受遺者だけで所有権移転登記ができますが、死因贈与の場合、不動産を受け取った受贈者単独では所有権移転登記ができず、原則相続人全員と共同でする必要があります。
詳細は割愛しますが、遺贈も死因贈与も、財産を譲り受ける者に一定の負担(例えば、私の死後、私のペットの飼育をすることを条件に土地を贈与するなどの負担)を課す、負担付きとすることも可能です。
◆留意点について
遺贈も死因贈与も、その結果として相続人の遺留分を侵害する場合には、遺留分侵害額の請求の対象となる可能性がありますので(民1046①)、紛争防止の観点からは、法定相続人の遺留分への配慮を検討する必要があります。
ご質問のケースでは、あなたのご両親の遺留分(それぞれ6分の1ずつ)を侵害しない範囲内でAさんに遺贈等することが考えられます。
菊間 千乃
弁護士法人松尾綜合法律事務所
代表社員弁護士公認不正検査士