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●シングルオリジンで味わう日本茶のおいしさを提案する『煎茶堂東京』。お茶のサブスクや話題の急須など、オリジナリティあふれる展開と、日本茶に懸ける思いについて伺いました。

 私たちの生活にとても身近な、日本茶。食後やリラックスタイムの一杯はもちろんのこと、喉が渇いた時にペットボトルでごくごく飲む、清涼飲料としてのイメージもすっかり定着していますよね。

 その日本茶が持つ本来のおいしさを知って欲しいと、銀座に店舗を構えるシングルオリジン煎茶専門店『煎茶堂東京』では、生産者や全国の個性あふれる茶葉、スイーツとのペアリングまで、さまざまな角度から日本茶の魅力を紹介しています。

 国内外の人々から支持される同店の展開やお茶の楽しみ方など、『煎茶堂東京』店長の古川千鶴さんに伺いました。

シングルオリジンの日本茶でおいしいお茶のある暮らしを提案


壁一面にずらりと並ぶカラフルな茶筒は全20種。ほかにコラボ商品や季節限定商品なども

――『煎茶堂東京』はオープン7周年を迎えましたね。

古川さん:当店は男性2人(現・代表取締役の青栁智士さんと取締役の谷本幹人さん)が立ち上げたデザインユニット『LUCY ALTER DESIGN』が母体で、2017年1月に三軒茶屋で世界初のハンドドリップの日本茶カフェ「東京茶寮」、同じ年の11月に物販専門の『煎茶堂東京』をオープンしました。

――デザイナーの方たちが、なぜ日本茶専門店を手掛けることになったのですか?

古川さん:もともと青柳と谷本の「日本人ってペットボトルのお茶は飲むけど、実はあまり日本茶を飲まないよね」という雑談から始まったそうです。自分たちも職場でペットボトルのお茶を飲むことが多いものの、お茶を淹れることがないのはなぜか……というように、話が展開していったんですね。


特別な樹脂で作られている1人前サイズの「透明急須」。ガラスのように透明ながら割れず、熱くならず、同店の茶筒とスタッキング可能。2018年度「レッドドットデザイン賞」(ドイツ)と「グッドデザイン賞」(日本)を受賞

古川さん:茶道までいくとちょっと敷居が高く、ペットボトルと茶道の中間でカジュアルに楽しめるもの……というところから急須に着目したものの、ワレモノの急須は扱いにくい。そこで「じゃあ割れない急須を作ろうか」という流れで、まずはオリジナルの割れない「透明急須」が生まれました。

――プロダクトから入ったというところがデザイナーの方たちらしい。

古川さん:青柳と谷本がデザインした「透明急須」は石川県で作られていて、一見透明でガラス製に見えますが、樹脂で出来ているので割れません。無駄のないすっきりとしたフォルムで、海外の方のお土産にも人気がありますね。


甘味、旨味、苦みの度合いやお茶の特徴、産地や農園が書かれたパッケージ。さりげなく印象に残る、洗練されたシンプルなデザイン

――急須を作ったので、お茶も扱うことに?

古川さん:お茶屋問屋と繋がりがあり、そこから話が進み、お茶農家さんもご紹介いただいています。お茶屋さんには火入れからパッキングまで一貫してご対応いただき、最終的に谷本が味を確認して仕入れが決まるという流れですね。『煎茶堂東京』では、日本全国から厳選した単一農園・単一品種の茶葉、いわゆる「シングルオリジン」を中心に取り扱っています。

――シングルに特化しているお店は珍しいですね。

古川さん:そうですね。お茶は嗜好品の一部ですし、シングルのコーヒーはあるけれどお茶にはない。だったらシングルを集めてみようということになったんです。日本のお茶はブレンドされているものが多いのですが、それを知らない方が結構多くてびっくりされます。

――確かに、お茶屋さんで「これはシングルですか?」とは聞かないですよね。

古川さん:逆に、今まで飲んでいたお茶ってシングルじゃなかったんだと驚かれます(笑)。

日本茶のイメージを覆す“茶筒”のデザインとカラーの秘密


65品種に65種類のカラーバリエーションがある茶筒の巻紙。スタッキングできる無駄のないフォルムと、置くだけでサマになるデザイン性はさすが!

――店頭には何種類くらいのお茶があるのでしょうか?

古川さん:今、弊社で扱っている
シングルオリジンの煎茶は現在65品種、そこから約20品種ほどに絞って並べています。それを毎月2~3品種入れ変えているという感じですね。オリジナルの茶筒はイタリアのペンキ職人さんが使っている缶からヒントを得たデザインで、スタッキングができるよう上蓋がなく、かなり密閉度が高いつくりになっています。透明急須の上にジャストサイズでのる省スペース設計で、日本の台所事情をおさえているところも特徴です。

――急須も茶筒も、出しっぱなしにしていても映えますよね。

古川さん:それも考慮してデザインされています。茶筒のパッケージには、キャッチコピーや品種名、生産地、標高、焙煎温度などの情報が入っていて、その情報を数値化して独自の色に当て込み、巻紙の色を作っています。なので、色にもすべて意味があり、このカラーバリエーションが生まれています。


斬新なカラーリングのお茶缶と、オリジナルの器やお茶道具も取り扱っている[食楽web]

古川さん:茶葉も作物なので、年度によって出る味の変化に対応するため、火入れの温度を変えるなど調整をします。すると、巻紙の色も変わるんですね。似ている色もありますが、実は微妙に違うんですよ。また、通し番号が付いているので、数字にこだわる記念日や結婚式の引き出物にもお使いいただいています。

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情報誌と茶葉で“観て飲める”お茶のサブスク「TOKYO TEA JOURNAL」


季節をテーマにしたお茶のレシピ付きの月替わりの冊子と、3種類の茶葉(各4g)が毎月届く定期便「TOKYO TEA JOURNAL」は、継続率90%以上と大人気。毎月500円(+送料300円)で1200円相当のお茶が楽しめます

――お茶とレシピ付きの冊子がセットになった定期便「TOKYO TEA JOURNAL」も人気ですが、いつスタートしたのでしょうか?

古川さん:5年ほど前になります。普段、どうしても好みで選ぶお茶が偏りがちになったり、一度買うと多すぎてなかなか飲みきれなかったりしますよね。定期便では、3回ほど違う飲み方ができる量が3種類入っているので、始めやすいという方が多いです。

――セレクトされているお茶はもちろん、フルカラーの冊子の内容も充実していますよね。

古川さん:冊子も弊社で作成していまして、「お茶の知識が深まる」とみなさまからご好評をいただいています。現在、後継者がいないために衰退している農家さんがあったり、お茶の価格が低いために経営が厳しかったりと、さまざまな問題が生じています。しかし、お茶は本当に手間暇がかかった価値あるもの。お茶のおいしさを伝えるとともに、農家さんには適正な価格を設定するべきだと考え、お茶文化の普及に取り組んでいます。


オリジナルのお茶菓子は3種類。上から「燻製ピスタチオ」「ドライいちじく」「貴腐ワインレーズン」。どれもおすすめのお茶とのペアリングが楽しめます

――お茶とのペアリングが楽しめるお茶菓子も出されていますね。

古川さん:お茶菓子といっても和菓子ではなく、海外の方にも手に取っていただきやすいようにナッツ類のお茶菓子を3種類出しています。ホームページでは和菓子も含めたお茶に合うスイーツを、さまざまな方々からご紹介いただいています。

1回分の茶葉で、異なる味わいの三煎が楽しめる!


店頭ではスタッフが淹れたお茶を試飲できます。実際に茶器を手に淹れたてを味わうと、お茶の魅力にぐっと近づけます

――『煎茶堂東京』で提案している日本茶の淹れ方は?

古川さん:「茶葉4gに対して120mlの急須で三煎楽しめます」とご提案しています。紅茶やコーヒーは一度お湯を注ぐとそれで終わりですが、日本茶は温度によって味が変わるという楽しさを知っていただきたいので、一煎目と二煎目は、あえて温度を変えて淹れています。


『煎茶堂東京』流の三煎目までの飲み方。1つの茶葉から生まれる色と旨味の変化にきっと驚くはず

古川さん:お茶は熱めに入れると苦みの成分が一気に出てしまい、温度を低くすると甘みや旨味を感じられるので、一煎目のお湯は低温(70℃)、二煎目は少し温度を上げます(80℃)。こうすることで、同じ茶葉でも違うおいしさが味わえるんですよ。

――低温で淹れると本当に甘い!色も香りも味わいも一煎目と二煎目では全く変わって、まるで別のお茶を飲んでいるようです。


そのまま食べることもできる「にこまる玄米」を三煎目に加えて玄米茶に

古川さん:そして三煎目は玄米をのせて、玄米茶にすることもできます。玄米は熊本県益城の「にこまる」というお米をローストしたものです。

――玄米を後のせすると香ばしさが加わって、三煎目もとてもおいしい!

古川さん:こうすれば、自分が好きなお茶でオリジナルの玄米茶も作れるんです。低温で甘みと旨味を、温度を上げて少し苦みを、玄米を加えて味の変化を……と、同じ4gで3回楽しめる。これが日本茶の魅力ですよね。

知るほどに深まる日本茶の世界を楽しんで


夜眠る前やリラックスタイムに飲めるノンカフェインも用意。ライフスタイルやお茶を飲むシーンなどをスタッフに伝えれば、ぴったりのお茶を提案してくれます

――銀座店にはどういった方がいらっしゃいますか?

古川さん:お茶がお好きな方はもちろん、銀座という場所柄もあり、海外からのお客さまもとても多いです。日本茶に詳しい海外の方もいらっしゃって、日本茶が世界に広がっていることを実感します。あと、ラーメンを食べた帰りに立ち寄ってみた、という方も (笑)。こちらでお客さま同士の会話が弾んで、そのままランチへ行かれたこともありましたね。

――これからお茶を淹れて飲んでみたいという方に、楽しみ方のアドバイスをお願いします。

古川さん:日常の中で気軽に楽しんでいただけると嬉しいです。「お茶ってこんなに種類があって、温度で味が変わるんだ」「こんなお菓子や料理にも合うんだ」という新しい発見をしていただければ。自分好みのお茶を見つけるのもいいですね。いつでもどこでもお茶とともに過ごせる感覚が、日本茶の世界を広げてくれると思います。

(取材・文◎松永加奈)

●DATA
煎茶堂東京
https://shop.senchado.jp/