GP出場を懸けた「競輪祭」が開幕!ドラマを生む“絶対に注目すべき3選手”を紹介

 競輪発祥の地である小倉競輪場で、今年最後のGⅠ戦「朝日新聞社杯競輪祭」が、11月19日から6日間にわたりナイターで開催されます。

この特別競輪は、1951年11月に競輪誕生3周年を記念して同競輪場で開催されたのが始まりです。現地を訪れれば、競輪の歴史をたどる巡礼のような気分も味わえるかもしれません。

優勝賞金1億4000万円がかかる年末の「KEIRINグランプリ2024」(GP)出場権をめぐる戦いも、ついに佳境です。このGPの切符は9人分のみで、残る出場枠は5つ。このうち1枠は今回の競輪祭覇者に与えられ、残りの枠は賞金ランキング上位9位以内の選手が手にします。なお、2024年競輪祭の優勝賞金は4700万円。

すでにG1戦を制した郡司浩平(34歳・神奈川=99期)、平原康多(42歳・埼玉=87期)、北井佑季(34歳・神奈川=119期)、古性優作(33歳・大阪=100期)の4名が出場権を獲得済みです。

 このコラムでは、競輪メディアのライターとして活動してきた筆者が、競輪祭をさらに楽しむために注目したい3人の選手を紹介します。

◆G3戦2年ぶりVで勢いを増す新山響平

2022年の競輪祭を制し、タイトルホルダーとなった新山響平(31歳・青森=107期)。その華麗なスピードで突っ走る姿に胸を熱くするファンは多い。

2023年には、最高峰ランク「S級S班」に昇格したものの、それ以降、グレードレース(G3以上)での優勝は遠ざかっていました。しかし、2024年競輪祭直前の11月10日、四日市競輪G3でついに待望の優勝を飾ります。

同開催の初日レース前、「組み立てや作戦がうまくいけば良い結果が出るが……」と葛藤をにじませていました。しかし、迎えた最終日の決勝ではその不安を振り払うかのように、先行する中野慎詞(25歳・岩手=121期)の後ろから番手捲りを決め、見事2年ぶりのV。


では、なぜ新山は実力がありながらも優勝から遠ざかっていたのでしょうか?

新山の特徴は、仲間との「ライン」を重視し、前受けからの突っ張り先行を得意とする走り方です。特に北日本(北海道や東北の選手たち)のラインで走る際に、そのスタイルが顕著に現れます。しかし、この戦法は風の影響を受けやすく、自らの優勝に結びつきにくいリスクも。

それでも、新山は毎年着実に獲得賞金を積み上げ、ランキングで10位以内に食い込む安定感はさすがです。2022年・2023年はギリギリの9位でしたが、今年は11月11日時点で前週から1つ順位を上げて7位に上昇。

四日市競輪GⅢ優勝の勢いそのままに、競輪祭で再び頂点を狙う。得意の徹底先行だけでなく、今節も番手捲りなど多彩な戦法で魅せてくれるか、注目を集めています。

◆涙でリベンジ誓った松井宏佑

2023年の競輪祭・決勝で、松井宏佑(32歳・神奈川=113期)が悲願のG1初優勝とGP出場権の獲得を果たせるか、大きな注目を集めていました。

意気込む松井は、南関東ラインの番手。「平成の怪物」と称されるトップレーサー深谷知広(34歳・静岡=96期)の後ろで、まさに鬼に金棒。絶好の位置です。

 そして、最終周回バックストレッチ(ゴールまで残り半周)付近で、メイチ駆け(目いっぱいの力走すること)の深谷を抜いて番手捲りを敢行。9選手の先頭に立ち、勝利を確信したその瞬間……。ゴール直前で単騎で追い込んだ眞杉匠(25歳・栃木=113期)が鋭く差し込み、松井はわずかな差で2着に終わりました。

レース後のインタビューで、好条件で優勝を逃した松井は「悔しい、本当に悔しい」と涙を流しました。多くの競輪ファンの記憶に残る涙のシーンです。GP出場権を逃したこと、全力で駆けた深谷との連係で結果を出せなかった自責の念、そして南関の意地を果たせなかった無念。さまざまな感情が交錯する複雑な涙でした。そして、「2024年こそタイトルを取れるよう、イチから頑張る」と誓ったのです。

松井は、これまでもいくつかのピンチを乗り越えてきました。幼少期からスケートに打ち込み、大学ではスピードスケート選手として活躍。

しかし、大学で留年してしまいスケート部も退部。将来に悩む日々を送ります。アルバイトをしながら飲み歩きやパチンコに明け暮れるなか、元競輪選手の居酒屋オーナーと出会いました。これをきっかけに、競輪選手を目指すことを決意。日本競輪学校(日本競輪選手養成所の旧称)を経て、2018年にデビューを果たします。同年11月にはS級へ特別昇級し、そのスピード昇級により一躍注目を集めました。いまでは、紛れもなく南関東を代表する選手の1人です。

その生き方と走りには、どこか人間味がにじむ魅力があります。

◆ダブル・グランドスラムに挑む古性優作

S班の古性優作は現在、11月15日時点で年間獲得賞金が2億4138万4596円に達し、後続の平原康多に1億円以上の差をつけて賞金ランキング首位を独走中。すでにGP出場権も手に入れ、圧倒的な実績を誇る輪界の“王者”です。

しかし、これだけではありません。「すべてのG1タイトルを2度ずつ制覇し、ダブル・グランドスラムを達成する」という、前人未到の大記録をも目指しています。

では、そもそも競輪の「グランドスラム」とは何でしょうか?

競輪のオフィシャルサイト「keirin.jp」によると、グランドスラムは「4日制以上の全てのG1で優勝すること」と定義されています。具体的には、以下の6つのG1レースを制することです。

・読売新聞社杯全日本選抜競輪

・日本選手権競輪

・高松宮記念杯競輪

・オールスター競輪

・寛仁親王牌・世界選手権記念トーナメント

・朝日新聞社杯競輪祭

このグランドスラムの偉業を達成した選手(グランドスラマー)は、過去に井上茂徳(引退・佐賀=41期)、滝澤正光(引退・千葉=43期)、神山雄一郎(56歳・栃木=61期)、新田祐大(38歳・90期=福島)の4名しかいません。

現在、古性は「全日本選抜競輪」「高松宮記念杯競輪」「オールスター競輪」「寛仁親王牌」の4大会で、すでに2度の優勝を達成。「日本選手権競輪」と「競輪祭」で、まだ優勝を手にしていません。今年の競輪祭を制すれば、グランドスラムにリーチがかかります。

王者・古性がダブル・グランドスラムへの道に一歩近づく瞬間、競輪祭で私たちは歴史の一幕を目撃するかもしれません。

◆競輪界の主役たちが勢揃い

年末のGP出場権をかけた今年最後のG1戦となる競輪祭には、先の3選手に加えて多くの主役候補がそろいます。

最高峰のS班9人は全員が参戦予定。2023年大会覇者の眞杉をはじめ、清水裕友(30歳・山口=105期)、脇本雄太(35歳・福井=94期)ら精鋭たちが激突します。

また、パリ五輪出場の太田海也(25歳・岡山=121期)、中野慎詞、窪木一茂(35歳・福島=119期)、小原佑太(28歳・青森=115期)も名を連ねます。さらに、優勝すれば地元・静岡競輪場でGPを迎えるS班の深谷知広も、錦を飾るべく強い覚悟で臨んでいることでしょう。

猛者たちが小倉に集結。火花を散らす熱戦がいよいよ幕を開けます!

文/木村邦彦 編集/セールス森田

写真/公益財団法人JKA

【木村邦彦】

編集者・ライター。法政大学文学部哲学科卒業後、歴史、金融、教育、競輪など幅広い分野の専門メディアに関わり、大手競輪メディアではニュースやコラムを執筆。現在は、アルコールやギャンブル依存症の回復支援団体で広報も担当。FP2級と宅建士の資格を保有。趣味は油絵とコーヒー。