99歳で大往生した母の面倒をずっと見続けてきた姉…「遺言がないから」と何もしなかった妹と同額の遺産しか受け取ることができないのでしょうか。この場合「寄与分」を遺産分配に反映できる可能性があるといいます。本連載では寄せられたさまざまな相談事例から、気を付けるべきポイントについて弁護士・板橋晃平氏に解説していただきます。

99歳で大往生した母、ひと段落ついたと思ったら…

今年70歳になる里美さんは、5年前の令和元年から当時94歳で独り身の母の介護を一身に引き受けてきました。自分の持ち家もありますが、同じ市内にある母が住む実家に夫婦で移り住み、母の面倒を見ていました。

里美さんには2歳年下の妹がいるのですが、遠くに住んでいるため母の介護にはほぼノータッチ。そして今年の8月に母は亡くなりました。99歳で大きな病気もなく、里美さんに見守られながら亡くなった大往生。葬儀もどこか穏やかな雰囲気のまま終わりました。

ひと段落ついたと思ったところ、妹から里美さんに相談が。「お母さんの介護をやってくれたのは感謝している。お疲れ様。でも、遺産は平等に二等分でいいよね。姉さんだってお母さんと一緒に住んで食費や光熱費も浮いただろうし。むしろ私のほうが遺産が多くてもいいはず」と言ってきたのです。

遺産は母が住んでいた築50年の建物とその敷地(評価額400万円)と母が残した貯金1,000万円あまり。妹は実家はいらないから1,000万円は欲しいと譲りません。ちなみに遺言はありません。これは本当に平等な分け方と言えるのでしょうか?

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弁護士からの回答

第1 はじめに

里美さんが亡くなられたお母様の介護を長年にわたり行ってきたことは、大きな愛情と努力の証です。しかし、遺産分割においては、感情的な側面と法律的な側面を慎重に分けて考える必要があります。

本件では、お母様の遺言がないため、民法に基づいて遺産分割を行う必要がありますが、その際に里美さんのお母様に対する療養看護がどのようにして遺産分割に反映されるか、里美さんの介護による「寄与分」についても検討が求められます。

第2 寄与分とは?

まず、日本の相続における寄与分の考え方について説明します。

寄与分とは、特定の相続人が被相続人(ここではお母様)の財産維持または増加に特別な寄与をした場合に、その貢献度を考慮して法定相続分以上の取り分を主張できる制度です(民法第904条の2)。

具体的には、経済的支援、介護、事業への貢献などが「特別な寄与」として認められる場合があります。

第3 里美さんの状況分析と寄与分の可能性

里美さんはお母様の介護を長期間にわたって行ってきました。具体的に、どのような寄与があったのかを評価することが重要です。

1. 介護の期間と内容

里美さんが母親の介護を担当していた期間(例えば、何年間か)、その頻度、具体的な内容(毎日の介護や特別な医療ケアのサポートなど)を詳細に把握する必要があります。これにより、寄与分の認定可能性を明確にすることができます。

2. 経済的負担と時間的な献身

介護に関わる直接的な経済的支出(医療費、交通費、介護用品の購入など)や、介護に費やした時間を評価することで、寄与分の額を具体的に算定することが求められます。

第4 遺産の具体的な評価と分割案

里美さんの寄与分を考慮した遺産分割を検討します。以下は一例です。

1. 法定相続分の基本原則(民法第900条)

本件では、お母様の相続人は、里美さんとその妹さんの2名となり、各々の法定相続分は2分の1です。よって、遺産の分割は基本的に2等分が原則となります。

2. 不動産の評価

実家の不動産の時価が仮に400万円と評価された場合、総遺産は1,400万円(実家400万円+現金1,000万円)となります。

3. 遺産分割のシミュレーション

法定相続分では、里美さんと妹さんはそれぞれ700万円ずつになります。

しかし、里美さんの寄与分が例えば200万円と認められた場合、総遺産1,400万円から寄与分相当額200万円を除いた相続財産1,200万円を法定相続分2分の1ずつで分け合うので、最終的には里美さんは寄与分を加えた800万円相当の遺産を、妹さんは600万円相当の遺産を取得することができます。

もっとも、すぐ現金に換価することができない実家の建物敷地をどのような形で遺産分割するかによって、具体的な遺産分割方法が異なってきます。

第5 まとめ

遺産分割は法的な問題と感情的な問題が交錯するため、冷静な判断が求められます。法的な根拠に基づいた解決策を提案しつつ、家族間の感情や関係にも配慮したアプローチを取ることが重要です。

特に寄与分の評価は難しく、争われやすい論点でもあります。適切な法的手続きを通じて、双方が納得できる解決策を見つけるためには、専門家の助けを借りることが有効です。

板橋 晃平

弁護士