退職者のOB組織「アルムナイ」から派生した採用方法
――自社の内定を蹴った学生に与える「就職ファストパス」も切羽詰まった手段と思われますが、どういうものでしょうか。かつての東京ディズニーリゾートのような、いわゆるプラチナチケットのようなものですか。
長谷川さん 「就職ファストパス」は、新卒採用で内定や入社を辞退した学生に対し、その学生が将来中途採用で再度選考を受ける際に、選考の一部を免除するといった優遇処置を意味しています。「就職ファストパス」以外にも「選考ファストパス」「プラチナチケット」などと言われることもあり、企業によって名称はさまざまです。
近年では、中途採用における「アルムナイ(卒業生)採用」が広がっています。過去に在籍した社員を学校の「OB」(卒業生)のように扱い、自社の人的資源と捉えて継続的にネットワークを築き、人材を再雇用するタレントプールの考え方です。「就職ファストパス」もその考え方から派生したのではないでしょうか。
――企業や個人にとっては、どんなメリットがあるのでしょうか。
長谷川さん 企業のメリットとしては、新卒採用で接点を持つことのできた優秀な学生とのつながりを維持することで、外部の労働市場に自社にマッチした人材をプールすることが可能となり、人材確保の手段が広がります。
学生のメリットとしては、就職活動では複数の内定を得ても最終的に入社できるのは1社だけです。将来、転職する際、志望度が高かった企業と今後も接点を持てることは、より多様なキャリアパスを描けることにつながります。
――しかし、企業にはプライドはないのでしょうか。一度は自社の内定を蹴った学生に対して、そこまでチケットを与える必要がありますか。
長谷川さん 新卒の採用は、選考過程で多くの採用工数がかさみ、業務負担が増えるものです。その点、一度は内定までいった学生は、自社の人材になり得ると評価を下した人物です。
すでに自社に対して一定の志望度・理解度があるため、一から採用広報をする手間がないメリットも考えられます。
おっしゃる通り、内定を辞退されることは企業としては悔しい結果ではあります。しかし、そうした学生にファストパスを渡すことは、優秀な人材と継続的に接点をもつ以外にも、人材採用に対して柔軟で寛容な企業であるとアピールができます。自社のファンを増やす、あるいは中長期的な人材獲得という点では大いに意味があると思いますよ。
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企業の「太っ腹」を見せる外にも、さまざまなメリットがある
――なるほど。企業としての「太っ腹」のところを見せるわけですね。上場企業では17%が検討中とのことですが、「ファストパス」は今後広がると思いますか。
長谷川さん 実施企業している企業からは「内定を辞退して、他社に入社したが合わず、当社に転職した実績がある。社内の実情をより深く知った状態で入社してくるので、ギャップが少ない」という声がありました。入社後のギャップが少ないと、中長期的な人材定着につながっていくものと考えられます。
こうした「ファストパス」のさまざまなメリットが理解されれば、ひろがっていくものと考えられます。
(J‐CASTニュースBiz編集部 福田和郎)
【プロフィール】
長谷川洋介(はせがわ・ようすけ)
株式会社マイナビ社長室 キャリアリサーチ統括部キャリアリサーチラボ研究員
2017年中途入社。「マイナビ転職」の求人情報や採用支援ツールの制作に携わった後、現職の新卒採用領域を担当。就職活動中の学生を対象にした調査や、就職活動生の保護者調査などを担当、若年層の思考や世代間ギャップなどに関心を持つ。その他関心領域は、エッセンシャルワーカー、SFプロトタイピングなど。