「借主」と「貸主」の関係性が変化したら?

しかし他方で、東京地裁平成28年7月14日判決に、下記のようなものもあります。

「土地の使用貸借において、民法597条2項ただし書所定の使用収益をするのに足りるべき期間が経過したか否かは、経過した年月、土地が無償で貸借されるに至った特殊な事情、その後の当事者間の人的つながり、土地使用の目的、方法、程度、貸主の土地使用を必要とする緊急度など双方の諸事情を比較衡量して判断すべきものであるが、使用貸借に基づく使用開始から長年月が経過し、その後に当事者間の人的つながりが著しく変化したなどの事情が認められる場合、借主に他に居住するところがなく、貸主に土地を使用する必要等特別の事情が生じていないというだけでは、使用収益をするのに足りるべき期間の経過を否定する事情としては不十分というべきである(最高裁昭和45年10月16日第2小法廷判決・集民101号77頁、最高裁平成11年2月25日第1小法廷判決・集民191号391頁参照)。」

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こちらの事例においては、本件使用貸借契約の前提となる当事者間の人的つながりに著しい変化が生じたと認定した上で、諸事情を考慮したとしても、「本件使用貸借契約の当事者間の信頼関係の破壊や人的つながりの著しい変化を否定し、本件土地の使用収益をするのに足りるべき期間の経過を否定する事情としては不十分というべきである。」と判示しています。

それ以外の裁判例においても、建物所有目的の使用貸借においては、土地所有者による明渡請求を権利濫用として排斥した事例、土地の使用借権の時効取得の成立を認めた事例、貸主の子である借主の妻との間にも使用貸借が成立したと推定した事例などもありますので、関心のある方は確認されるといいでしょう。

山口 明
日本橋中央法律事務所
弁護士