大声を上げる、インターホンを鳴らす、身に覚えのないクレームを言われる……賃貸物件にこうした“迷惑な住人”がいる場合、オーナーや他の住人は一刻も退去してもらいたいはずです。しかし、日本の法律上、よほどのことがない限り「賃貸契約の解除」は認められません。そんな“借主有利”な状況のなかで、迷惑な住人を追い出すためにはどうすればいいのか、実際の判例をもとにみていきましょう。弁護士の北村亮典氏が解説します。

夜中のピンポン、執拗なドアノック…退去を拒む「迷惑住人」

【賃貸アパート貸主からの相談】

当社は2階建てで全4室の賃貸アパートをサブリースで賃貸しています。

ある入居者が、入居してから約2ヵ月が経過した頃から、突然、夜中や明け方に他の入居者の貸室を訪問してインターホンを鳴らしたり、玄関ドアをたたいたり、玄関ドアを勝手に開けるなどの行為を繰り返すようになりました。

他室の住人のみならず迷惑行為をした賃借人も110番通報をして警察官が駆けつけるということも何度も起こるようになりました。

その結果、他の2部屋の住民が耐えきれず、賃貸アパートから退去してしまいました。

当社としても迷惑行為をする賃借人に対してたびたび行動を改めるよう注意しましたが、この賃借人の行動はまったく改善が見られず、残る1部屋の他室の住人に対しても同様の行動が続きました。

迷惑行為が始まってから約5ヵ月が経った段階で、当社としてもやむを得ず、この賃借人に対して迷惑行為を理由として、賃貸借契約を解除する内容証明郵便を送付して明渡しを求めました。

これに対して、この賃借人は、「時期についての記憶が定かでないものの、たびたび自分の部屋の玄関ドアをたたかれる嫌がらせを受けており、そのことを理由にした110番通報をしたことがある」とか「アパートの裏手にある私道が違法薬物の取引場所になっていることを疑い、疑わしい人物がいた場合に110番通報をしたことが複数回ある」などと主張して「自分は迷惑行為はしていない!」などと居直って退去を拒んでいます。
 

当社の建物明渡請求は認められるのでしょうか。

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借主は「住民とトラブルを起こさない義務」がある

【弁護士の解説】

本件は、東京地方裁判所令和3年6月30日判決の事例をモチーフにした事案です。

居住目的の賃貸マンションやアパートにおいては、各入居者が平穏にその住居で居住できる環境にあることが重要です。

したがって、賃借人が賃貸借契約上負うべき付随的義務として、正当な理由なしに近隣住民とトラブルを起こさないように努める義務を負っていると解釈されています。

この賃借人の義務は通常は契約書で定められている場合が多いですが、仮に契約書で定められていなかったとしても住居目的の賃貸借契約の性質から当然に導かれるものといえます。

以上により、もし賃借人が他の住民に対して迷惑行為を行ってトラブルを生じさせた場合には、賃借人としての債務不履行(契約違反)に該当することとなりますので、賃貸人としては契約違反を主張して契約を解除できれば退去してもらうことが可能ということとなります。