年収が比較的多くても、貯蓄することに無頓着な人は一定数います。本人の仕事に対する姿勢や子どもの将来への期待などから、浪費をしているつもりがなくてもお金が貯まらないというケースもあるでしょう。本記事で加藤哲也さん(仮名)の事例とともに、FP dream代表FPの藤原洋子氏が、将来生活設計の注意点について解説します。

「ねえあなた、そろそろ家を買いましょうよ」

加藤哲也さん(仮名)は、食品メーカーにお勤めの52歳サラリーマンです。現在の年収は1,500万円、家族は妻(49歳・パート)、長男(25歳・会社員)、次男(21歳・大学生)の3人です。3年前にマイホームを購入しました。当時の年収は1,100万円でした。

加藤さんは、大学進学のため地元を離れ、それからずっと首都圏で暮らしています。大学時代は学校から紹介のあった学生専門のアパートに住んでいました。大学卒業後は、勤め先の企業の社宅、結婚後は社宅を出て民間の賃貸アパートを契約しました。2LDKで家賃と共益費で9万円と、いままで住んでいた学生専門のアパートや社宅より、住宅費はかなり高くなりました。加藤さんは、生活するのに十分な収入は得ることができていましたので、通勤や日々の買い物などに便利がよいように、駅から徒歩10分ほどで新築のアパートを選びました。

次男が生まれて、アパートが少し狭く感じられるようになったので、賃貸マンションに住み替えることに。家賃と共益費、駐車場代は合わせて18万円です。加藤さんは、仕事が趣味のような方です。帰宅時間が遅く、平日はほとんどの日が寝るために帰るだけ、という生活でした。

そんな加藤さんにとって、賃貸住宅は毎日の生活に都合がよいものでした。3階なので、戸締りに気をつけなければならないのは玄関だけ、住居スペース以外の場所は掃除が行き届いています。困ったことがあれば管理会社に電話すれば、たいていのことは解決してくれます。

加藤さんが40代になり、長男が大学に通うようになったころ、妻は「そろそろ家を買ったらどうかしら……」と持ち掛けました。加藤さんは、「こんな時代で、いつ会社が倒産するかもしれないから、このままでいいんじゃない?」と住宅購入の提案に応じることはありませんでした。何度かそういう話はしましたが、数年が過ぎていきました。

仕事一途な加藤さんに比べて、妻は現実的でした。「会社にはいつまでいられるのかしら。年金で暮らすような年になってもいまのままの収入がある?」何度もの妻からの話に、加藤さんは声を荒らげる場面もありましたが、泣き出してしまった妻を見て、「そ、それもそうだな……」と徐々に考えを改めるようになったそうです。加藤さん夫婦が、妻の知り合いである筆者に、住宅購入について相談に見えたのは、それから間もなくのことでした。

(広告の後にも続きます)

マイホーム購入の平均年齢

住宅の購入は生涯のうちで大きな決断の1つです。現在住宅を所有している人は、いつごろ購入したのでしょうか。次の調査は、2022年4月~2023年3月に住み替えや建て替え・リフォームを行った世帯を対象としたものです。住宅の種類や購入する年代などは以下のとおりです。



[図表]購入する住宅の種類と平均年齢 出典:国土交通省 住宅局 令和5年度住宅市場動向調査 報告書
*注文住宅の調査地域は全国、その他住宅は三大都市圏(首都圏、近畿圏、東海圏)での調査

図表の調査では、住宅種類別の世帯主の年齢、平均年齢が示されています。世帯主の年齢は、注文住宅、注文住宅(新築)、分譲戸建住宅、分譲集合住宅、既存(中古)集合住宅は30代が多いです。注文住宅(建て替え)、リフォーム住宅は60歳以上、既存(中古)戸建住宅では30代、40代、民間賃貸住宅では30代未満の割合が最も多くなっています。 

戸建住宅か集合住宅か、購入する地域・広さなどによって、住宅の価格には大きな違いがあります。住宅融資支援機構のフラット35を利用している方への調査による、住宅取得時の購入金額をまとめました。

・土地付注文住宅 

全国  4,903万円(+209万円)

首都圏 5,680万円 (+574万円)

近畿圏 5,265万円(+368万円)

東海圏 4,811万円(+117万円)

その他地域 4,299万円(+148万円)

・建売住宅

全国 3,603万円(-116万円)

首都圏 4,199万円(-144万円)

近畿圏 3,721万円(-8万円)

東海圏 3,055万円(-96万円)

その他地域 2,873万円(-75万円)

・マンション

全国 5,245万円(+397万円)

首都圏 5,801万円(+473万円)

近畿圏 5,343万円(+369万円)

東海圏 4,732万円(+297万円)

その他地域 4,352万円(+334万円)

・中古戸建

全国 2,536万円(-168万円)

首都圏 3,172万円(-168万円)

近畿圏 2,485万円(-39万円)

東海圏 2,268万円(-51万円)

その他地域 2,025万円(-124万円)

・中古マンション

全国 3,037万円(-120万円)

首都圏 3,379万円(-139万円)

近畿圏 2,809万円(+34万円)

東海圏 2,309万円(+88万円)

その他地域 2,416万円(-131万円)

出典:住宅金融支援機構 2023年度 フラット35利用者調査 ()内は前年比

土地付注文住宅とマンションの価格は、全国的に上昇傾向です。住宅購入のタイミングは、それぞれの世帯ごとに異なります。結婚したり子どもが生まれたりしたタイミング、年収がある程度の額に達したとき、子供が独立したときなどに、購入や建て替えるケースが多いようです。

住宅取得の際には、多くの方が長期にわたって住宅ローンを組みます。「いつかはマイホームに住みたい」とお考えの方は、購入にあたり、子どもがいつごろ生まれるのか、子どもの教育費などの大きな支出を準備できるか、親世帯と同居する可能性はどうか、配偶者の定年はいつごろか、子どもが独立したあとはどのように暮らしたいか、などのライフプラン、ライフイベントを考えてみましょう。

適した場所や住宅の広さ・間取り、購入可能な価格などが徐々に具体的なものになります。