1.時間外労働とは?

法定労働時間を超えて働くこと

時間外労働とは、労働基準法で定められた時間を超えて働くことを指します。労働時間は、法定労働時間と所定労働時間に分けられます。

法定労働時間……労働基準法で定められた労働時間。1日8時間、週40時間以内が上限所定労働時間……会社が独自に定める労働時間。法定労働時間内であれば、自由に設定できる

時間外労働は、法定労働時間を超えて働いた分(法定外残業)を指すため、所定労働時間を超えても、法定労働時間内に収まっていれば時間外労働には該当しません(法定内残業)。

例えば、下の例のように所定労働時間が9時から17時までの7時間と決められている場合、17時から18時までに労働した分は法定内残業となります。しかし、18時以降は法定労働時間を超えているため、時間外労働として扱われます。

tips|時間外労働と“残業”の違い

時間外労働と、一般に言われる「残業」の違いは、法律の範囲内かどうかです。会社独自に定めた労働時間(所定労働時間)を超えて働くと、労働者にとっては「残業」ですが、法律に定められた労働時間(法定労働時間)内であれば時間外労働には該当しません。しかし、法定労働時間を超えれば残業にも時間外労働にも該当します。

時間外労働には36協定の締結が必要

時間外労働をおこなうには、事前に労働基準法第36条に基づき、労働者と使用者(会社)の間で協定を結ぶ必要があります。通称36(サブロク)協定と呼ばれるこの協定では、主に以下の項目が定められています。

時間外労働に携わる職種1日、1ヶ月、1年単位における時間外労働の上限

36協定は基本的にすべての労働者を対象としていますが、派遣社員や業務委託などの直接会社と雇用関係を結んでいない労働者や、管理監督者、18歳未満の人は適用となりません。また、育児・介護者、妊産婦の場合も、会社に請求することで時間外労働が制限されます。

時間外労働の上限規制

36協定の締結・届出をしても無制限に働けるわけではありません。労働基準法改正により、2019年(中小企業は2020年)から時間外労働には以下の制限が設けられました。

月45時間未満年360時間以内

上記の制限を超えて時間外労働をする場合は、「特別条項付き36協定」を結ぶ必要があります。特別条項の適用は、ビルの電気系統が遮断され緊急対応が必要など、臨時的で特別な事情がある場合に限られます。あくまで一時的なものとし、恒常的におこなわれることがないよう、従業員の健康や安全が脅かされないよう配慮が求められます。

労使間で特別条項付き36協定に合意すると、以下の上限の範囲内で働くことができます。

時間外労働が年720時間以内時間外労働と休日労働の合計が月100時間未満時間外労働と休日労働の合計が、2、3、4、5、6ヶ月平均すべてで80時間以内時間外労働が月45時間を超えるのが年6ヶ月以内

労使間で36協定を結ばずに時間外労働をさせる、労働基準監督署に届出をしていない、上限を超えて労働させているなどに該当する場合は、会社が労働基準法違反となり、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科される可能性があります。

上限規制の例外

働き方改革の一環として2019年から設けられている上限規制ですが、医師を含む一部の職種や事業については、業務の特性などの理由から2024年3月末まで適用が猶予されていました。2024年4月以降、これらの職種・事業では以下の上限規制が適用されています。

対象

上限規制の扱い

医師

特別条項による時間外・休日労働の上限が最大年1,860時間次の2つの規制が適用されない。(1)時間外労働と休日労働の合計が月100時間未満・複数月平均80時間以内、(2)月45時間超の時間外労働が年6ヶ月まで

※上記の適用にあたり、医療法に健康確保のための措置に関する定めがある

建設事業

災害の復旧・復興事業を除き上限規制をすべて適用災害の復旧・復興事業は、時間外労働と休日労働の合計が月100時間未満・複数月平均80時間以内の規制が適用されない

自動車運転業務

特別条項による時間外労働の上限が年960時間次の2つの規制が適用されない。(1)時間外労働と休日労働の合計が月100時間未満・複数月平均80時間以内、(2)月45時間超の時間外労働が年6ヶ月まで

鹿児島県および沖縄県における砂糖製造業務

上限規制をすべて適用

医師の労働時間の上限について詳しくはこちらも参考にしてください▽
医師の働き方改革とは

時間外労働の平均


厚生労働省|毎月勤労統計調査令和5年分結果確報より作成

厚生労働省の調査によると、全産業の平均時間外労働は月13.8時間という結果でした。最も時間外労働が長かったのは運輸業・郵便産業の25.8時間で、最も短かったのは医療・福祉産業の7.0時間です。両者には18.8時間の差がみられます。

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2.時間外労働をした場合の割増賃金と計算方法

割増賃金の条件

法定労働時間を超えて働いた場合、割増賃金が支払われます。割増率は条件ごとに異なり、以下のように定められています。

支払う条件

割増率

法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超えた場合

25%以上

時間外労働の上限(月45時間、年間360時間)を超えて働いた場合

25%以上

月の時間外労働時間が60時間を超えた場合

50%以上

なお、法定労働時間内であっても、会社が独自に定めた労働時間(所定労働時間)を超えて働いた場合には、残業した分の賃金(残業代)が支払われなければなりません。

あらかじめ決められた時間を残業したものと見なして給料が支払われる固定残業代(みなし残業代)制度を取り入れている会社の場合は、30時間など設定された残業時間を超えて働いた分に対し、残業代が支払われます。

また、働く時間帯や長さを労働者が決められるフレックスタイム制を導入している会社の場合は、清算期間中(1〜3ヶ月間)に法定労働時間の総枠を超えた分が時間外労働として扱われます。

割増賃金(時間外手当)の計算方法

割増賃金(時間外手当)は以下の計算方法で算出できます。

割増賃金 = 法定労働時間を超えた労働時間 × 1時間あたりの賃金額 × 割増率

なお、1時間あたりの賃金額は以下の計算式で算出します。

1時間あたりの賃金額 = 月給 ÷ 1ヶ月の平均所定労働時間(1年間の所定労働日数 × 1日の所定労働時間 ÷ 12)

 

例:年間休日が120日、1日の所定労働時間が8時間の会社で、月給25万円の場合

(365 – 120)× 8 ÷ 12 = 163時間(1ヶ月の平均所定労働時間)

25万円 ÷ 163時間 = 1,534円(1時間あたりの賃金額)

近年、柔軟な働き方ができるよう多様な働き方があります。ケース別に割増賃金(時間外手当)の算出方法を紹介します。なお、1時間あたりの賃金額は上記で算出した1,534円とします。

ケース1:1日に時間外労働が3時間発生した場合

所定労働時間は9時から18時(休憩1時間)の8時間18時から21時まで3時間の時間外労働が発生

割増賃金 = 3(法定労働時間を超えた分)× 1,534(1時間あたりの賃金額)× 1.25(割増率)= 5,753円

ケース2:1ヶ月の時間外労働が65時間発生した場合

所定労働時間は8時から17時(休憩1時間)の8時間月の時間外労働時間の上限60時間を5時間超過

割増賃金 = 60(法定労働時間を超えた分)× 1,534(1時間あたりの賃金額)× 1.25(割増率)+ 5(月の時間外労働の上限を超えた分)× 1,534(1時間あたりの賃金額)× 1.5(割増率)= 12万6,555円

ケース3:みなし残業時間30時間を超える50時間残業した場合

所定労働時間は10時から19時(休憩1時間)の8時間月に30時間分の固定残業代(みなし残業代)があり、固定残業時間を20時間超過

割増賃金 = 20(みなし残業時間を超えた分)× 1,534(1時間あたりの賃金額)× 1.25(割増率)= 3万8,350円

ケース4:みなし労働時間が8時間超の裁量労働制の場合

1日のみなし労働時間が9時間に設定されている1ヶ月の所定労働日数は20日

1ヶ月分の割増賃金 = 1(法定労働時間を超えた労働時間)× 1,534(1時間あたりの賃金額)× 1.25(割増率)× 20(所定労働日数)= 3万8,350円

*みなし労働時間が8時間以下に設定されている場合は、法定労働時間内のため割増賃金の支払いは発生しない