“横浜家系ラーメン”、激しい出店戦争が勃発か。フードコートさえもラーメン店の“激戦区”に

 中小企業コンサルタントの不破聡と申します。大企業から中小企業まで幅広く経営支援を行った経験を活かし、「有名企業の知られざる一面」を掘り下げてお伝えしていきます。

 横浜家系ラーメン「壱角家」を運営するガーデンが、11月22日にスタンダード市場に新規上場します。ど真ん中の競合店と言えるのが、ギフトホールディングスが運営する「町田商店」。上場後は激しい出店争いも予想されます。

◆M&Aによる多角化を進めるガーデン

 ガーデンは2014年に「東京チカラめし」を運営する会社を買収したことで有名。当時はマックという社名でした。翌年の2015年には牛丼店「神戸らんぷ亭」の運営会社も取得しています。

 M&Aによる多角化を進めており、「回転寿司プレミアム海王」、「山下本気うどん」、「ステーキの王様」なども運営しています。

 ただし、主力はラーメン事業。2024年2月期の売上高の66.5%を占めています。ラーメン店も「壱角家」の他に「だるまのめ」、「油そば総本店」などのブランドがありますが、直営・フランチャイズ含む114店舗のうち「壱角家」は99店舗。ガーデンの収益基盤となっています。

◆ライバルは「町田商店」のギフトか

 業績は堅調そのもの。2024年2月期の売上高は前期比29.3%増の153億1100万円、経常利益は2.8倍の14億4100万円でした。ガーデンはこの期に直営8店舗、フランチャイズ7店舗を新規出店。25店舗を退店していますが、3割近い増収となりました。外食需要本格回復を受けてのものでしょう。

 2024年2月期上半期の営業利益率は12.2%。「町田商店」のギフトは、2023年11月から2024年7月までの営業利益率が10.4%でした。2社は非常に近いところにあります。

 ラーメン店の上場企業で営業利益率が10%を超えるのは稀。「一風堂」の力の源ホールディングスは上半期の営業利益率が7.5%、「ラーメン山岡家」の丸千代山岡家は9.8%。魁力屋は直近の第3四半期累計期間が7.6%でした。

◆「不動産事業を持つ」ガーデンの競合優位性

「壱角家」は乗降者数20万人以上のターミナル駅を中心として、駅前立地にドミナント戦略を展開しています。

 飲食店の出店戦略には不動産情報が欠かせません。その有力なシステムが「レインズ」。国土交通大臣から指定を受けた不動産流通機構が運営しているコンピューターネットワークシステムで、通常は不動産会社が登録をして利用します。

 ガーデンは不動産事業を展開しているため、レインズに直接アクセスすることが可能。不動産事業を持たない競合他社と比較して短時間での情報取得、下見、出店戦略の練り込みなどを行うことができるという特徴があります。

 また、「飲食店居抜き買い取り.com」というサイトを展開しており、個人オーナーが撤退する際の売却サポートも行っています。市場に出回る前の物件情報を獲得することも可能なのです。

 東京商工リサーチは2024年1月から9月までのラーメン店の倒産が前年同期間比42.4%増の47件となり、集計開始以降で最高になったと発表しました(「2024年1-9月のラーメン店倒産」)。人件費や水道光熱費、食材費が高騰して個人店は苦戦しています。廃業を検討する事業主が増えるのであれば、その土壌にタネを撒いていたガーデンに有利に働くかもしれません。

 ガーデンは居抜き物件で効率的に出店する戦略を採用。それに紐づいた戦術までが行き届いていると言えるでしょう。

◆直営店事業とプロデュース事業の2軸で成長

 一方で「町田商店」のギフトは、2024年10月期から始まった中期経営計画にて、人口集中エリアでの直営店出店強化を掲げました。

 ギフトはユニークなビジネスモデルを採用しています。直営店事業とプロデュース事業の2軸で成長しているのです。プロデュース事業は、通常のフランチャイズ事業と異なり、加盟金やロイヤリティが発生しません。プロデュースサービスを利用した店舗オーナーは、自由に屋号をつけることもできます。ただし、ギフトグループの食材やスープを継続的に購入するというビジネスモデル。プロデュース店は地方を中心に出店を重ねる方針です。

 ギフトの2024年7月末時点の直営店は212店舗。プロデュース事業は558店舗。それ以外に業務委託店とフランチャイズ加盟店がありますが、数は多くありません。

 営業利益率が高い要因の一つに、このプロデュース事業の存在があると考えられます。出店費用や負担が重くなりがちな人件費を抑えることができるからです。

 しかし、ギフトは事業拡大に関連する指標として「売上成長率」を重視しており、20.0%以上という高い目標を掲げています。

 ギフトのプロデュース店は全体の7割を占めますが、直営店事業の売上は8割を超えます。そのため、ギフトは直営店の出店を強化しており、直営店の売上構成比率も少しずつ増加しました。

 つまり、駅前や繁華街などでギフトの「町田商店」とガーデンの「壱角家」が激しく争う未来も見えてくるのです。

◆フードコートもラーメン店の激戦区に

 将来的な激戦化が予想されるのがフードコート。ギフトは2022年10月期の決算説明会にてフードコートへの出店を強化するとの意向を示していました。この領域への出店が成功すると、数百から500店舗規模にマーケットが拡大されると話しています。

 ただ、足元ではフードコートに集中して出店している様子はありません。

 フードコートは施設そのものが集客装置になり、他店舗との相乗効果に期待ができます。また、出店したモールに連鎖的に出店できる可能性も高いというメリットがあります。

 スペースの関係上、調理機器が限られるため、セントラルキッチンを使って提供できる中堅以上の会社でなければ出店できません。店舗数を拡大したいガーデンやギフトには最適な形態なのです。

 ただし定期借家であり、期間満了で契約が終了します。途中解約もできません。リスクの高い出店形態でもあります。「壱角家」は2020年1月に初のフードコート出店を行い、2024年9月までで7店舗を展開しています。

◆フードコートの雄「魁力屋」、その強みは?

 フードコートの難しさに、ファミリー層がメインターゲットだということもあります。「壱角家」や「町田商店」はターゲットが学生や若い会社員。女性や子供向けのメニューに強みがありません。

 ファミリー層の中でも、父親や高校生の子供など、利用客が限られてくるでしょう。オペレーションを考えると、メニューを増やす選択はしたくないはず。それを克服して出店攻勢をかけるのか、今後の注目ポイントとなります。

 フードコートに強みを持つのが昨年12月に新規上場した魁力屋。フードコート型の店舗は32店舗で、全体の2割を占めています。

 魁力屋の特徴はメニューの豊富さにあります。ラーメンは背脂醤油、みそなどの他に定食の幅も広くなっています。子供用のメニューも整っており、ロードサイドやフードコートに適したメニュー構成です。勢力拡大を目指す中堅ラーメン店による、激しい出店攻勢が幕を開けようとしています。

<TEXT/不破聡>

【不破聡】

フリーライター。大企業から中小企業まで幅広く経営支援を行った経験を活かし、経済や金融に関連する記事を執筆中。得意領域は外食、ホテル、映画・ゲームなどエンターテインメント業界