「指定難病」について知っていますか?日本での指定難病の患者総数は少なくとも100万人といわれていますが、認知度は高くないのが現状です。難病は適切な治療や自己管理を続けることで普通に生活できる病気が多くなっています。ここでは50代以降に発症しやすい指定難病について解説します。

「指定難病」とは

平成27年1月1日に「難病の患者に対する医療等に関する法律」(以下、「難病法」)が施行され、新たな医療費助成制度がはじまりました。

「難病」とは、発病の機構が明らかでなく、治療方法が確立していない希少な疾病であって長期の療養を必要とするものをいいます。

「指定難病」とは、難病のうち、患者数が本邦において一定の人数(人口の約0.1%程度)に達しないこと、客観的な診断基準(またはそれに準ずるもの)が成立していることの2条件を満たすものです。

指定難病は医療費助成の対象となります。令和6年4月1日現在、341疾病が医療費助成の対象となっています。

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50歳以上で発症しやすい指定難病

指定難病にはたくさんの種類がありますが、ここでは50代以降に発症しやすい病気をいくつかご紹介します。

なお、女性に多い自己免疫疾患(※)である「膠原病」は、ひとつの病名ではなく複数の病気の集合体の名称です。指定難病となっている膠原病は「シェーグレン症候群」「結節性多発動脈炎」「全身性強皮症」「多発性筋炎・皮膚筋炎」「悪性関節リウマチ」などがあります。

※自己免疫疾患は、本来は自分の体を守るはずの免疫システムが正常に働かず、自分の体を攻撃してしまう病気です。

シェーグレン症候群(指定難病53)

女性に多い病気で、発症のピークは50代です。主な症状は目の乾燥、口の乾燥、鼻腔の乾燥、膣の乾燥など。ほかに関節痛、日光過敏、疲労感、頭痛などが現れることもあります。

現状では根本的な治療法はありません。乾燥症状に対しては、目の乾燥に点眼薬、口の乾燥に内服薬、膣の乾燥にエストロゲンを配合したクリームなどがあります。神経や関節などの症状にはステロイドや免疫抑制薬を使用することがあります。

結節性多発動脈炎(指定難病42)

血管壁に炎症を生じる病気で、40~60歳に多く見られます。発熱や体重減少、高血圧、皮膚症状、筋肉痛、関節痛、手足のしびれ、脳梗塞、心筋梗塞など多彩な症状があります。

治療は副腎皮質ステロイド(ステロイド)の内服が基本で、免疫抑制薬を併用することもあります。治療により普通の日常生活を送ることができる可能性がありますが、体に負担がかかると悪化する可能性もあり、規則正しい生活習慣が大切です。

全身性強皮症(指定難病51)

皮膚や内臓が硬くなることが特徴で、30~50代の女性に多く見られます。症状は、レイノー症状(手指が蒼白や紫色になるもの)、皮膚硬化などの皮膚症状、間質性肺疾患、強皮症腎クリーゼ(腎臓に障害が起こり、その結果高血圧が生じるもの)、逆流性食道炎など。

現状では根本的な治療法はありませんが、それぞれの症状に対してある程度の効果を望める治療法が開発されています。もっとも効果が期待できる治療が受けられるよう、強皮症研究会議のホームページでは「全身性強皮症の診断基準・重症度分類・診療ガイドライン」を公表しています。

多発性筋炎・皮膚筋炎(指定難病50)

筋肉の炎症によって力が入りにくくなる病気で、皮膚症状がある場合は皮膚筋炎と呼ばれます。中年発症がもっとも多く、男女比は1:3です。症状には倦怠感、疲労感、食欲不振、筋力の低下、関節痛、レイノー症状などがあります。

治療には副腎皮質ステロイド(ステロイド)を使用し、多くの患者さんが日常生活に復帰しています。症状に応じて免疫抑制薬を併用することもあります。

悪性関節リウマチ(指定難病46)

「悪性関節リウマチ」は、関節リウマチの患者さんが関節以外の症状を認め、難治性または重症な病態を伴う場合に定義されます(ただし、内臓障害がなく関節リウマチの関節病変が進行して関節の機能が高度に低下したのみの場合は悪性関節リウマチとは呼びません)。

発症のピークは60代で男女比は1:2です。関節リウマチの患者さんの0.6%の頻度といわれています。発熱や間質性肺炎などの全身症状が急速に現れます。リウマチによる炎症をできるだけ早く取り除くことが治療方針であり、寛解するまで入院治療が原則です。

パーキンソン病(指定難病6)

大脳の下にある中脳の黒質ドパミン神経細胞が減少して起こる病気です。発症は50~65歳に多く、40歳以下で発症するものは若年性パーキンソン病と呼ばれます。症状は、ふるえ、動きが遅くなる、転びやすくなるなど。ほかに便秘や頻尿、発汗、疲れやすいなどの症状が現れることもあります。

治療は薬物療法が基本で、運動など日常生活の工夫も大切な治療になります。治療薬が開発され、現在のパーキンソン病の平均寿命は全体の平均とほとんど変わらないと考えられています。

重症筋無力症(指定難病11)

全身の筋力が低下する病気で、発症年齢の中央値は全体で59歳、男性では60歳、女性では58歳です。男女比では女性にやや多く見られます。主な症状は筋力低下と疲れやすくなることです。特に眼瞼下垂など眼の症状が起こりやすく、ほかの症状として食べ物が飲み込みにくくなることもあります。

治療は対症療法と免疫療法があります。少ない薬で症状をコントロールできれば、普通の日常生活を送ることができます。

広範脊柱管狭窄症(指定難病70)

頚椎、胸椎、腰椎の広範囲にわたり脊柱管(背骨にある神経の通り道)が狭くなり、脊髄神経の障害を引き起こす病気です。中年以降、特に60代に多く、男女比は2:1です。症状は手や下肢のしびれ、歩行障害、頻尿など。

治療では固定装具などで局所を安静にし、鎮痛消炎剤などの薬を使用します。症状によっては手術療法を行うこともあります。

前頭側頭葉変性症(指定難病127)

初老期に発症し、大脳の前頭葉や側頭葉を中心に病気が起こり、行動障害や言語障害などが徐々に進行する認知症です。「前頭側頭型認知症」「意味性認知症」「進行性非流暢性失語症」の3つに分類されます。根本的な治療薬は確立されておらず、対症療法が中心となります。

脊髄小脳変性症(多系統萎縮症を除く)(指定難病18)

小脳の神経細胞が徐々に減少することにより、歩行時のふらつきや手のふるえ、ろれつが回らないといった運動失調症状が現れる病気です。脊髄にも異常がみられることがあるために「脊髄小脳変性症」と呼ばれます。

脊髄小脳変性症はひとつの病名ではなく、これらの運動失調症状をきたす病気の総称です。遺伝歴のない脊髄小脳変性症と、遺伝性の脊髄小脳変性症に大別されます。

現状ではヒトに対して有効な薬が確立されておらず、対症療法を行います。今後、有効性のある薬の開発が期待されています。

多系統萎縮症(1)線条体黒質変性症(指定難病17)

多系統萎縮症のうち、初期症状がパーキンソン病に似た症状で、それを主な症状として経過するものを「線条体黒質変性症」と呼びます。抗パーキンソン病薬が効きにくい特徴があります。

多系統萎縮症の患者さんのうち約30%が該当すると考えられています。青年期に発症し、特に50代に多く見られます。現状では病気の進行を止める治療は確立しておらず、対症療法を行います。

多系統萎縮症(2)オリーブ橋小脳萎縮症(指定難病17)

多系統萎縮症のうち、初期症状が起立・歩行のふらつきなどの小脳症状で、それを主な症状として経過するものを「オリーブ橋小脳萎縮症」と呼びます。

多系統萎縮症の患者さんのうち、約70~80%が該当すると考えられています。青年期に発症し、特に50代に多く見られます。現状では病気の進行を止める治療は確立しておらず、対症療法を行います。

多系統萎縮症(3)シャイ・ドレーガー症候群(指定難病17)

多系統萎縮症のうち、初期症状が尿失禁や失神などの自律神経障害で、それを主な症状として経過するものを「シャイ・ドレーガー症候群」と呼びます。

多系統萎縮症の患者さんのうち、約15%が該当すると考えられています。青年期に発症し、特に50代に多く見られます。現状では病気の進行を止める治療は確立しておらず、対症療法を行います。