「◇◇商事 ブラック」「◆◆ラーメン まずい」 検索エンジンに“サジェスト”される「悪意なき誹謗中傷」の深刻被害

「◇◇商事 ブラック」「◆◆ラーメン まずい」「〇〇太郎 詐欺」…。

なにか調べものをする際に検索エンジンにキーワードを入力すると、文字の挿入をサポートするように関連のキーワードをプルダウンで提案してくれる検索エンジンの自動補完機能「サジェスト」。入力を楽にしてくれたり、気付きを与えてくれたりする便利な機能だ。一方で、冒頭のようにネガティブな言葉が複合ワードとして提案されてしまう場合、深刻な問題につながるケースもある。

たとえば、入社を検討している企業について調べようと会社名を入力し、「○○社 ブラック」と出てきたとする。検索者がその企業でやりたい仕事があり、働きやすいイメージを持っていたとしても、表示された否定的なワードはどうしても気になるだろう。

さらに、複合検索を経由してたどり着いたページを閲覧すれば、そこにネガティブな情報が記載されている可能性は高い。場合によっては大きなショックを受け、就職先としての検討をやめてしまうかもしれない。

友人が詐欺師? 犯罪者? あっという間に広がる「サジェスト汚染」

法人だけでなく、個人にも同様のリスクはある。たとえば、知人の個人名を検索窓に入れて「個人名 犯罪者」「個人名 詐欺」などとサジェストされたらどうだろう。「裏の顔でもあるのか?」と疑心暗鬼になっても不思議はない。

こうした検索エンジンのサジェスト機能により、特定の個人や法人の評価が著しく損なわれることは「サジェスト汚染」と呼ばれ、昨今、大きな問題となっている。

「サジェスト汚染は、特定のキーワードや人物、企業名とともに否定的な関連ワードが表示され、風評被害が広がる現象です。日本においては、特に飲食業界や人材採用において、悪意ある口コミや中傷による影響が大きく、相談件数も年々増加しています」

こう解説するのは、「日本サジェスト削除協会」総務部長の石井智之氏だ。同協会はサジェスト汚染に苦しむ法人・個人を救うために設立されたテクノロジー集団で、これまでに1000件以上の削除実績があるという。

「サジェスト汚染」責任の所在は誰に?

ネット上での風評被害といえば、SNSなどによる能動的な誹謗中傷の印象が強い。一方「サジェスト汚染」は、否定的なワードであっても運営側が意図的に出しているわけではなく、あくまで検索エンジンの“補助的ツール”だ。責任の所在はどこにあるのか。

「確かに検索エンジン側が意図的にサジェスト汚染を発生させているわけではありません。しかし、その機能によって生じる弊害は、技術的なアルゴリズムの調整が不十分であることが原因の一つです。

われわれは運営企業に対し、継続的に改善要望を行っています」(石井氏)

同協会が「テクノロジー集団」である背景には、検索エンジン運営企業へ技術的な側面から改善を要望するという目的もある。

アルゴリズムによって生まれる“悪循環”

サジェスト汚染の対策が必要な理由について、石井氏が補足する。

「サジェストに否定的なワードが表示されると、閲覧者がその内容に興味を持ち、検索結果ページを確認することが多くなります。その結果、関心が高まってさらなるサジェスト汚染が進行し、被害が拡散するという悪循環に陥ります」

検索エンジンのアルゴリズムは、多く閲覧されればそれだけ多くの人が興味を持っていそうだと判断する。実際には興味がない人が閲覧した場合も区別せず、同列に扱われる。その結果、ネガティブなワードによるサジェストが広がる悪循環、つまりネット上の汚染が拡大するというのだ。

風評被害の実例と対策

実害としては、冒頭で触れたような企業の採用活動などが代表的な事例として挙げられるという。

「企業の採用活動では、特定企業に対するサジェスト汚染が広がることで、応募者の減少や離職率の増加が問題となることがあります。

また、飲食店においては、悪質な口コミがサジェストに表示されれば、来客数の減少が顕著となります」(石井氏)

まさに風評被害。実際に虚偽情報によるサジェストで客離れなどが発生し、名誉毀損(きそん)の訴訟に発展したケースもあるという。

こうした対策が進んでいるアメリカやヨーロッパでも、検索エンジンに対する訴訟がいくつか提起され、判決によりサジェスト機能の改善が図られた事例もある。特に、欧州連合(EU)では「忘れられる権利」に基づき、特定情報の削除が認められるケースが多く見られるそうだ。

汚染にどう対処するのか

サジェスト汚染の相談を企業や個人から受けた場合、同協会はその被害者に対し、検索エンジンへの削除申請支援などを行う。ちなみに、削除申請は個人でも可能だ。

また、被害者が早期の対応を希望した場合は、弁護士と連携し、法的措置を取ることも検討しているという。

「われわれが対応する主な対象は、GoogleやYahoo!などの検索エンジンですが、場合によってはSNSプラットフォームや口コミサイトでのサジェスト汚染に近い現象にも対応しています。

サジェスト汚染は検索エンジンが主な発生源ですが、関連する問題が他のプラットフォームで拡散することもあるため、必要に応じて包括的な対策を講じます」(石井氏)

SNSでの誹謗中傷に比べ、“発信源”に悪意がなく発生してしまうサジェスト汚染。この点は、トラブル解消のうえで、どちらかといえばプラスに作用しているという。

「悪質性の観点では、SNSの誹謗中傷が明確な意図を伴うことが多い一方で、サジェスト汚染は技術的な問題が主因となり、悪意がない場合も多いです。そのため、検索エンジン側に非を責めた場合、反応は比較的穏やかであり、誠実な対応を得られるケースもあります。

ただし、改善には時間を要する場合が多く、迅速な解決が難しいことが課題です」(石井氏)

言論空間として、インターネットが浸透したことで、誰もが発信できる場ができた。一方で、人起源でない思わぬネガティブ要素も生まれ、ネット上は「自分だけは関係ない」は通用しない、無防備で安住するには困難な場所になってしまったようだ。