映画監督97人が“トランスジェンダーを含むLGBTQ+差別反対”を表明 「中傷過激化を憂慮」

11月20日国際トランスジェンダー追悼の日に、「トランスジェンダーを含むLGBTQ+差別に反対する映画監督有志」が会見を開き、性的マイノリティーへの差別言説に反対する声明を発表。発起人で自らも当事者である映画監督・東海林毅氏、俳優で歌手の中村中(あたる)氏、俳優の水越とものり氏が出席し、自らの体験を語った。

社会のバックラッシュを憂慮して声明発表を決意

本声明は、同日に発表された50人を超える小説家有志による「LGBTQなど性的少数者への差別に反対する声明」に呼応する形で出されたもので、東海林氏ら発起人を含めて97人の映画監督が賛同を表明した。

映画監督に絞って賛同者を集めた理由について、東海林氏は「映画作品に対して大きな責任を負う立場であり、作られた作品が社会的マイノリティーを扱う際には、さらに大きな責任が伴うもので、差別や偏見に人一倍自覚的であるべきだからだ」と説明する。

また、近年性的マイノリティーの解放につながる司法判断が多く出されていて、社会全体は良い方向にむかっていると感じる一方、その反動で非常に攻撃的な差別言説がSNSを中心に増えている現状を憂慮し、今回の声明を出すことにしたという。

とりわけ、トランスジェンダーに対する差別が過激化しており、声明の題名に「トランスジェンダーを含む」とあえて加えているのも、これを受けてのことだという。

会見には映画監督の深田晃司氏もビデオメッセージを寄せ、「表現の場から誰も排除されるべきではない。表現は(自分には)世界がこう見えているとフィードバックするもので、隣にいる誰かの思いを知ることができるもの。どんな属性であっても表現の当事者になれる可能性があることが大事」と今回の声明に参加した理由を語った。

芸能界でのハラスメントや差別の実態も個人調査

東海林氏は、賛同を集める中で、芸能界に性的マイノリティーへの差別があるのかと聞かれることがあったという。こうした意見が出る背景には、カミングアウトしていない当事者の存在が多く、被害が可視化されていない状況があるのでは――。そう考えた東海林氏は、個人でハラスメントや差別の実態について聞き取り調査を実施。会見では、その結果も公表された。

調査では、「非異性愛を描いた作品の発表時、公衆の面前で同性愛者かどうか確認された(ディレクター)」や、「朝からLGBTの人を画面に出すと不快に思う視聴者がいる可能性があると言われたり、トランスジェンダーは世間的に当たり前だから新しさがないと属性を理由に出演を断られた」(タレント)など、多くの事例が集まったという。

俳優らが撮影現場で直面した“偏見”

トランスジェンダーであることを公表し活動している歌手・俳優の中村中氏も、会見に出席し、自らの体験談を語った。

中村氏によれば、ある映像作品で“女装する男性役”のオファーをされたが、トランスジェンダーと女装をたしなむ男性は異なるので一度は断ったという。その後、監督から役柄をトランスジェンダーに変更し、演出に違和感を覚えたら変更も検討すると言われ、出演を承諾したそうだ。

しかし、台本は役の説明部分がトランスジェンダーに変わっただけで、内容そのものは一切変更されていなかったという。また、描写もステレオタイプなものばかりで「化粧を落としたら見られたものではない」など差別的なセリフも含まれていたという。

中村氏は「この監督は、トランスジェンダーと女装をたしなむ男性の違いを理解していない」と感じたが、限られた撮影時間の中で現場の進行を止めるのも気が引けて、結局指摘することができなかったと振り返った。

同じく会見に出席した俳優の水越とものり氏は、同性愛者であるとカミングアウトしたのが2015年。当時出演していた舞台のテーマが「命のバトン」であったことから、「性的マイノリティーは自殺率が高いと言われるが、自らが公表することで、誰かを勇気づけられるかもしれない」と、決意した理由を語った。

これによって、ファンが離れたり、仕事が減ったりするのではと危惧していたが、実際にオーディションの書類選考が通りにくくなったという。水越氏は「日本社会全体に性的マイノリティーに対する差別がある。このため、芸能界でカミングアウトする人が少ないのではないか」と推察する。

水越氏は今年、NHK連続テレビ小説『虎に翼』に同性愛者の役で出演した。

「日本のドラマにも、もっと性的マイノリティーの人物を登場させてほしい。日本にも10人に1人はいると言われているのに、ドラマで見かけないのは不自然」(水越氏)

東海林氏「空気を変えていきたい」

東海林氏は、個人の呼びかけにもかかわらず多くの賛同が集まったことに「うれしい驚きがある」という。

「映画やドラマ制作においては、ハラスメント講習を行ったりLGBTQ+の監修が入る作品が増えてきているが、一方で、大きな予算を持たない企画では必ずしもそうした対応を取ることができていないのが現状だ。その中にあっても、性的マイノリティーに対するハラスメント・差別を減らしていくため、今回のような声明で(差別に)反対する映画監督がいることを可視化することで、空気を変えていきたい」(東海林氏)