立地戦略のなかには、あえて「条件の悪い場所」に進展を立ち上げるという奇をてらうような戦略もあります。悪条件を味方につけ、経営を成功させた方法とは? 本記事では、戦略広報コンサルタントの井上岳久氏の著書『集客が劇的に変わる! クレーンゲーム専門店エブリデイの経営戦略 BAD プレイスでも儲かる理由』(ごきげんビジネス出版)より一部を抜粋・再編集し、立地戦略とPRの深い関わりについて解説します。

条件の悪い場所に店舗を開く戦略

あえて「条件の悪い場所」、すなわちこれまで多くの店が撤退してきた場所に店舗を開く戦略をとっている企業があります。これまで多くの商業施設にかかわってきた私から見ると、非常に勇気のいる選択だと思います。ほかのさまざまな企業が出店して軒並みダメなところというのは、やはり何かあるからです。

冗談交じりに「お祓いしたほうがいい」などというのも、よくいわれることです。そういう因縁的なものかどうかはさておくとして、お客さまから見えにくい場所に建っているとか、近寄りにくいとか、何かしらよくない要素があって引き起こしている結果になります。

店舗を出店するということは、10万円や100万円など、失敗してもなんとか立ちなおれる金額ではありません。相当な投資をするわけで、あえて悪い場所に投資をするのは、よほど腹をくくってやることです。まさに道なき場所に道をつくるようなものです。

埼玉のとある場所にあるゲームセンターは、もともといわくつきの物件でした。駅から遠く、周囲は畑ばかりで、決して遊興に向いているとは思えない土地でした。しかも道路が入り組んだ場所で、30年くらい前に開店したロケットという家電量販店が潰れ、大型パチンコ店が潰れ、さまざまな有名企業がテナントに入りましたが、何をやってもうまくいかない。業界では「呪われた商業施設」と呼ばれる場所でした。スーパーマーケットやホームセンター、自動車販売店などには郊外型のロードサイド店舗というものがあり、大きな成果をあげています。

しかしゲームセンターに関してはどうでしょう。郊外型のロードサイド店は、大店舗で多くの品ぞろえがあり、ファミリー客が自家用車で来店して楽しむことで成立しています。従来、ゲームセンターは若者が友人同士やカップル、あるいはひとりで遊びに行く施設で、家族で行くイメージはありませんでした。またゲーム機は、数がたくさん求められる性質のものでもなかったのです。だからこそ、行きやすい都市部の繁華街という立地が重要で、広さはそこまで重視されていませんでした。

つまり郊外型のロードサイド店とは、ゲームセンターについては常識外で、そういう場所に開店したということです。

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メディア出演を機に来店者数を伸ばす

とはいっても、最初からうまくいったわけではありませんでした。開店して数年は大赤字が続きました。何しろ約300台のゲーム機を稼働する電気代だけで、1ヵ月に100万円かかるというのです。再起を図って開店した店舗でしたが、業界全体も右肩下がりのなか、いつ潰れてもおかしくない状況ではありました。

話題を生むために、2012年にクレーンゲームの保有台数世界一としてギネス記録を申請し、承認されています。「何か飛び技を」と思って取得したギネス記録でしたが、実は最初はまったくお客さまに響きませんでした。当時のこの会社にはPRのノウハウがなかったからです。PRのノウハウがなければ、せっかくの話題性がある材料でも、宝の持ち腐れになってしまいます。

大きな店舗でも店内は閑散としていて、「店に集まってくるのは虫ばかりだった」と社長は苦笑。300台停められる駐車場も大幅にあまってしまい、ラジコンコースをつくろうかと本気で考えていたほどです。転機となったのは2014年4月に、テレビ番組で紹介されたことでした。

当時ゲームセンター部門の統括責任者だった社員が、藁にもすがる思いで番組にメールをしたところ、「何もなさそうな埼玉にギネス記録のゲームセンターがある」と、番組が興味をもってくれました。この番組では毎週埼玉県いじりをやっており、彼は仕事から帰宅して夕飯を食べるときに、この番組をよく見ていたそうです。その週は「埼玉県遊ぶところがない問題」を放送しており、「いや、うちに遊ぶところあるんだけどな」と思い、視聴者としてエブリデイのことを投稿。すると忘れたころに番組から連絡がきたそうです。

「ギネスをとったけどお客さんが全然来ない」という、ちょっと自虐的な切り口も話題になり、ゴールデンウィーク直前だったこともあって翌日は開業以来、初めて駐車場が満車になったといいます。駐車場のふだん使っていなかった部分には、不法侵入しないように金属製のチェーンが張られており、止めていた南京錠があまりに長いあいだ開けていなかったため、錆びて開かなくなっていました。「えらいこっちゃ、即座にチェーンを切断せえ!と、大声で社員に叫んだ記憶があります(笑)」と社長は回想します。

これがメディアの威力で、このときはなかば無自覚に呼び込んだ幸運でしたが、これを自覚的に狙って起こしていくのが、広報(PR)の効果です。ただ、これが番組に1度出ただけだったら、ずっと定着はせずに、ある程度の期間が過ぎたら一過性のブームでおわり、水が引くように客足も引いていったことでしょう。しかしそうはなりませんでした。来店者数を順調に伸ばし、その後、店舗を増やすようになっていくのです。

その裏には、テレビ番組での紹介をきっかけにPRの重要性に気づいき、PRに力を入れはじめたことがありました。