何かと不安の多い老後資金の確保。厚生労働省によると、標準的な老夫婦の年金額は令和6年度で23万0,483円。1年で270万円、10年で2,700万円、20年で5,400万円となります。一方で、総務省によると、65歳以上の夫婦のみの世帯において、1ヵ月の支出は25万0,959円。1年で300万円。老後を20年と仮定すると6,000万円の支出となります。そんな老後の生活のために、どんな準備が必要なのでしょうか。CFP®の中山国秀氏が詳しく解説します。

老後資金を目的別に分ける

老後資金の計画を立てるにあたって、まずは限りある資金の使い道を把握することが大切です。

老後における支出は、主に3つに分けられます。

・生活資金

・ライフイベント資金

・介護費用

●生活資金

生活資金には、食費や住居費などの日常生活費、趣味や旅行などに使う娯楽費、医療費も含まれます。配偶者が亡くなった場合、その後の1人分の生活費については夫婦2人のときの「7割程度」で見積もっておく考え方が理想的といえます。

・医療費

医療費は一般的に、70~74歳では自己負担が2割に、75歳以上では1割と、現役世代よりも費用負担が軽くなる社会保障制度に基づいて支払われます。高額な医療費がかかった場合は高額療養費制度を活用し、全体として大きな出費を抑えることが可能です。

もちろん個人差はありますが、医療費単体での大きな金額を備える必要性は必ずしも高くないといえるでしょう。

・生活資金を賄うためのお金

生活資金を賄うお金として、基本的に65歳までは就労収入、65歳以降は公的年金と考えておきましょう。また、不足分を「アルバイトなどで就労収入を確保する」「手元資金を当面の生活資金に充てる」「夫婦のいずれかが“年金の繰下げ受給”制度を活用し、受給額を増額する」なども方法として考えられます。

●ライフイベント資金

60代~70代前半は、意外とライフイベントの多い時期といえます。

たとえば、

・子どもの結婚

・孫の誕生などの資金援助

・自宅のリフォーム

・車の買い替え

など、大きな出費を伴うイベントが目白押し。定年を迎え収入が減るにもかかわらず、支出は増えていく一方……という事態が起きてしまいます。

イベントごとの出費によって生活資金や介護費が圧迫されることがないよう、必要に応じて、ライフイベント関連の出費を抑える工夫も必要です。

●介護費用

生命保険文化センターによる「2021(令和3)年度生命保険に関する全国実態調査」では、介護費用は1ヵ月平均“約8万3,000円”平均介護期間が“5年1ヵ月”となっています。個人差の大きい費用となりますが、平均介護費用・期間から予測できる1人あたりの介護費用は“約506万円超”の試算となります。



[図表1]セカンドライフの意識調査(退職後にやりたいことは?) 出所:2019~2023年度の退職者へのヒアリング調査をもとに筆者作成


[図表2]日本国内の現状 出所:厚生労働省『令和4年簡易生命表の概況』、内閣府『第1節高齢化の状況(第2節2)』より筆者にて編集


[図表3]日本国内の現状 補足 出所:厚生労働省『令和4年簡易生命表の概況』、内閣府『第1節高齢化の状況(第2節2)』より筆者にて編集

ちなみに「平均寿命」とは、「各年における0歳児の平均余命」を指します。

例えば「2022年の女性の平均寿命が87.09年」と公表された場合、「2022年時点で亡くなった女性の平均年齢が87.09年」という意味ではなく、「2022年に生まれた女性は社会情勢など大きな変化がない限り、平均的に87.09年生きられる」ことを意味します。

(広告の後にも続きます)

老後資金の運用先

前述の3つの支出は、想定される利用時期を考えたうえで「短期資金」「中期資金」「長期資金」に大別することができ、その目的に応じて運用先も異なってきます。



[図表4]定年後の『お金の三分法』として(お金の色分け) 出所:筆者作成

短期資金

当面の生活資金は「短期資金」として、就労収入公的年金で賄っていきます。

重視されることとして、流動性=換金のしやすさが挙げられます。そのため、いつでも引き出し可能な「普通預金」に預けることが理想的でしょう。

中期資金

ライフイベント資金は「中期資金」に該当します。中期資金は安全性を重視しながら準備していく必要があります。

運用する場合、安全で確実な運用と、換金のしやすさに重きを置きましょう。運用先として、「定期預金」と「個人向け国債」が代表的です。

長期資金

介護費は「長期資金」として退職金で充当するのが理想的です。即座に使うことは想定しにくいため、収益性を重視しながら運用に回すことが理想的でしょう。