生前贈与がある場合の遺留分侵害額の計算方法

生前贈与がある場合、遺留分はどのように計算するのでしょうか? ここでは、次の前提で順を追って解説します。

・相続人は、被相続人の長男と二男の2人

・被相続人は、長男に5,000万円相当、二男に2,000万円相当の遺産を相続させる旨の遺言書を遺していた

・被相続人は、相続開始の5年前に、長男に対して3,000万円相当の財産を贈与していた

・そのほかの特記事項はなし

ステップ1:遺留分の基礎となる財産を計算する

はじめに、遺留分計算の基礎となる財産を計算します。遺留分計算の基礎となる財産は、次の式で算定します。

遺留分計算の基礎となる財産の価額=(被相続人が相続開始のときにおいて有した財産の価額)+(遺留分計算の対象となる贈与の価額)-(被相続人の債務)

例のケースでは、次の額が遺留分計算の基礎となります。

遺留分計算の基礎となる財産の価額=5,000万円+2,000万円+3,000万円(生前贈与)=1億円

ステップ2:自身の遺留分割合を確認する

次に、自身の遺留分割合を確認します。このケースにおいて、長男と二男の遺留分割合はそれぞれ次のとおりです。

長男:4分の1(=遺留分割合2分の1×法定相続分2分の1)

二男:4分の1(=遺留分割合2分の1×法定相続分2分の1)

ステップ3:自身の遺留分を計算する

次に、ステップ1で計算した遺留分計算の基礎となる価額に遺留分割合を乗じて、自身の遺留分の額を計算します。このケースにおいて、長男と二男の遺留分は、それぞれ次のとおりです。

長男:1億円×4分の1=2,500万円

二男:1億円×4分の1=2,500万円

ステップ4:遺留分侵害額を計算する

最後に、遺留分侵害の有無と、遺留分侵害額を計算します。例のケースでは、それぞれ次のとおりです。

長男:実際に受け取った金額8,000万円(=遺言で5,000万円+生前贈与で3,000万円)≧遺留分2,500万円。よって、遺留分侵害額はない

二男:実際に受け取った金額2,000万円<遺留分2,500万円。この差額である500万円(=2,500万円-2,000万円)の遺留分を侵害されている

そのため、例のケースでは、二男から長男に対して500万円分の遺留分侵害額請求をすることが可能です。

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遺留分を生前贈与で侵害された場合の対処方法

被相続人が行った生前贈与によって遺留分を侵害されている場合、どのように対処すればよいのでしょうか? ここでは、順を追って生前贈与で遺留分を侵害された場合の対応を解説します。

遺留分侵害額の計算は複雑…早期に弁護士へ相談する

遺留分を侵害されていることに気づいたら、できるだけ早期に弁護士へ相談することをお勧めします。遺留分侵害額を正確に算定することは容易ではなく、弁護士に相談することで適切な請求額を把握しやすくなるためです。また、弁護士へ依頼することで、遺留分侵害額請求を代理してもらうこともできます。

生前贈与や遺産の額がわからなくても諦める必要なし…請求する遺留分侵害額を計算する

弁護士へ相談したうえで、請求する遺留分侵害額を計算します。なお、生前贈与や遺産の額がわからない場合であっても、弁護士へ相談することで調査できる可能性があります。情報が少ない場合も諦めずに相談をしたほうがよいでしょう。

10年後に気づいても遅い…期限内に遺留分侵害額請求をする

遺留分侵害額を計算したら、期限内に遺留分侵害額請求をします。遺留分侵害額請求には期限があり、相続開始と遺留分侵害を知ってから1年以内に行わなければなりません(同1048条)。

また、相続開始などを知らないままであっても、相続開始から10年が経つと遺留分の権利が消滅します。そのため、期限内に請求することが最大のポイントとなります。期限内に遺留分侵害額請求をしたとの証拠を残すため、実務上は内容証明郵便で請求することが一般的です。内容証明郵便とは、いついかなる内容の文書が誰から誰に差し出されたかを、差出人が作成した謄本によって日本郵便株式会社が証明する制度です。

なお、遺留分侵害額請求は、必ずしも請求額を明示して行う必要はありません。そこで、請求期限が間近に迫っている場合などには、まず請求額を明示せず内容証明郵便で遺留分侵害額請求の意思表示を行い、その後具体的な金額を検討することもあります。相手方が遺留分侵害額請求に応じて請求額を支払えば、その時点で解決となります。また、多少金額について意見の相違が生じても、弁護士が代理で交渉したり双方が譲歩したりすることで解決に至ることもあります。

一方で、遺留分侵害額について、双方で意見がまとまらないこともあります。特に、遺留分の計算対象である財産の中に不動産がある場合は、この評価額について意見が相違する可能性があります。

なぜなら、遺留分請求をする側としては不動産を実勢価格など、できるだけ高く評価したいと考える一方で、その不動産を相続した側としては、相続税評価額などできるだけ低い価格で評価したいと考えることが多いためです。また、生前贈与の有無や金額について、意見が食い違うことも少なくありません。

遺留分侵害額請求調停を申し立てる

当事者間で意見がまとまらない場合は、遺留分侵害額調停で解決を図ります。遺留分侵害額請求調停とは、裁判所での話し合いによって遺留分トラブルの解決を図る手続きです。とはいえ、双方が直接対峙して意見をぶつけ合うわけではありません。調停では、裁判所の調停委員が当事者双方から交互に意見を聞き、意見を調整することで解決を図ります。数回の期日を経て双方の合意がまとまれば、調停が成立します。

遺留分侵害額請求訴訟へ移行する

調停を経てもなお双方の合意が得られない場合、遺留分侵害額請求訴訟へと移行します。遺留分侵害額請求訴訟とは、双方の主張や提出された証拠をもとに、適正な遺留分額について裁判所が判断を下す手続きです。裁判所が下した判断に不服がある場合は2週間以内に控訴をすることができますが、期間内に控訴をしなければ判決が確定します。なお、判決が確定したにもかかわらず所定の期限内に遺留分侵害額を支払わない場合は、強制執行の対象となります。