脚本家の倉本聰さんが原作と脚本を手掛け、本木雅弘さんが主演を務める映画「海の沈黙」(2024年11月22日公開)に出演した小泉今日子さん。ヒロインを演じながら感じたこと。男女の在り方についてもお聞きしました。
恋愛の痛みを抱えていることで自分を保てる時期
©2024映画『海の沈黙』INUP CO.,LTD
ー映画で安奈が語り始めるシーンは思わず引きつけられました。今回、ヒロインの安奈を演じた感想はいかがでしたか。
小泉今日子さん(以下、小泉今日子)
実は私、ヒロインという役割は久しく与えられていなかったんです。自立している女性や、自分から動いていく元気なタイプの役が多くて。
今回は、男性社会の中で静かに佇んでいるようなヒロイン役なので、単純に「わーい!」って(笑)
一方で、この役に自分を選んでいただいた理由を考え、自分なりに応えたいと思いました。
今回は役をいただいてから準備する時間があまりなくて。髪の毛などはいい小道具になるので、次の作品までに伸ばしたり髪型を変えたりするんですが、そういう準備ができなかったんです。
そうなったらそうなったで、潔くやりきろう、どうしたら安奈になれるだろう、と考えて、最終的には、精神性が一番大事なのかな、と。
元恋人の竜次から絵画を託されるシーンがあるんですが、それに値する人間でいようと思いました。
安奈は、画家の娘で画壇の中のルールもわかっていて、そこから飛び出したが恋は実らず、結局元の世界に戻って結婚という選択をして……。諦めたわけでもなく、これが正解だと思って生きている。
ちょっと息をひそめて、いろんな感情を閉じ込めてきた女性なのかな。
でも、だから恋愛の痛みを抱えていることで自分を保てる時期があったんじゃないかなって思うんです。
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何歳になっても目に浮かぶのは若く、輝いていた姿
©2024映画『海の沈黙』INUP CO.,LTD
ー元恋人との再会シーンは、大人の女性にとっては心にぐっとくるものがあります。
小泉今日子
二人とも、若かりし頃の思い出とか消えないわだかまりとか、感情の下にたまった澱のようなものが、ずっと人生に影響していたんだと思います。
周囲がどんなに批判していても、きっと心のどこかで彼を肯定していたから、彼が自分の生き様を貫いてくれたことに“ありがとう”と最後に言えた。
ただの愛や恋とは違う感情が二人の間にはあったのでしょうね。
ー本木雅弘さんと久しぶりの共演はいかがでしたか?
小泉今日子
本木さんとは32年前に、ドラマ「あなただけ見えない」で共演したけれど、こういう元恋人という間柄で微細な感情のやりとりをするような共演は初めてだったかもしれません。
私たち、10代からの付き合いですから、アイドルとして一番キラキラしていた頃を実際に間近で見て覚えているんですよね。
だから、若い頃の恋人同士の役をするときにも、思い出の中で若くてきれいだったときをお互いリアルに思い出すことができるんです。たとえ目の前の相手を見て老けたな~と思っても(笑)、その奥に若い日の顔をありありと思い浮かべることができる。
私たちのそういう関係が演じる上では助けになりました。
でも、もし本当の元恋人だったらやりにくかったのかなあ……(笑)