孤独死した弟(51歳)の荒廃した部屋に胸が詰まって…見守りサービス運営者の痛恨――仰天ニュース傑作選

過去5万本の記事より大反響だった話をピックアップ!(初公開2022年7月18日 記事は取材時の状況) *  *  *

 コロナ禍とともに人との接触が忌避されるようになり、「孤独死」の問題が深刻化している。実はこの問題、高齢者だけではなく、30〜50代の現役世代にも他人事ではないという。それに対し”LINE”を使った”無料”の見守りサービスが注目を集めている。働き盛りの世代もターゲットだという同サービスを運営する特定非営利活動法人エンリッチの代表である紺野功氏に、孤独死の実情と見守りサービスについて聞いた。

◆きっかけは弟の孤独死

――このサービスを始めたきっかけはなんだったんですか?

紺野功氏(以下、紺野):弟が孤独死したことです。弟は自宅マンションで単身で自営業を営んでいたんですが、取引先の担当者が連絡が取れないことから自宅を訪問して亡くなっているのが発見されました。当時51歳でした。私とは年に数回程度の連絡はとっていたのですが疎遠で、顔を合わせるような接点はほとんどありませんでした。

――病気か何かだったんですか?

紺野:当時私はその言葉を知らなかったんですが「セルフネグレクト」と言われるような状態でした。自宅兼事務所にしていた弟の部屋には、仕事関連と思われる書類や空き箱が散乱していました。布団も敷いてありましたが、変色していて寝た様子もありません。風呂にも発泡スチロールが山積みされ、風呂に入ったりシャワーを浴びたりしていなかったこともわかりました。これがきっかけで、孤独死や見守りについて調べるようになったんです。


◆見過ごされている現役世代の孤独死

――51歳という若さ。その年代で「今日明日の死」を実感として意識している方は多くないように思います。事例として、若い方の孤独死は多いんですか?

紺野:孤独死について調べると、調査によっては年間3万人という数字が出てきました。その調査では、60歳以下が4割もいるそうです。孤独死は、行政の方で正式に計測されるものではないので、潜在的にもっとたくさんいるだろうなと思います。

――私も30代ですが、自分の孤独死についてしっかり考えたことはありません。

紺野:そうですよね。現役世代を対象とした見守りサービスを立ち上げることにして、講演会や説明会などで「孤独死は高齢者だけのものではない」ということを伝えるのですが、なかなか若い世代に実感を持ってもらうのが難しいです。

◆アイデアの詰まった見守りサービス

――現在一般的に提供されている、警備会社の見守りサービスや電気ポットでの安否確認のサービスは仰々しいので、現役世代にはLINEは身近で手軽に利用しやすいですね。どのような手順で見守りが行われるのですか?

紺野:まず、 [Enrich見守りサービス]に友だち登録をすると、マイページを作るためのリンクが表示されます。タップして開き「どのくらいの頻度で、何時に安否確認の配信をして欲しいか」と、もしもの時の連絡先を「近親者」として登録いただくと翌日から配信が始まります。

――「体調は大丈夫ですか?」のようなLINEが送られて来て返信をするような形ですか?

紺野:いえ、単に安否確認の文面だけが送られてくるだけだと、きっと皆さん、マンネリ化して見逃したり忘れたりするだろうと偉人の名言を配信しています。日々の励みや生活のモチベーションにもなるようにという思いもあって、偉人の言葉を送っています。

◆詐欺に間違えられることも

――安否確認の配信からどのくらい返答がないと、次の手が打たれるのでしょうか?

紺野:配信から24時間OKを押されなかった場合、システムが再通知を配信します。そこからさらに3時間反応がない方は、私のスマートフォンにアラートが上がってきて、ご登録いただいているご本人の番号に、直接電話を掛けて生存確認します。

――その電話にも出られなかった場合に近親者に連絡がいくのでしょうか?

紺野:以前は、このタイミングで利用者が電話に出ない場合すぐに近親者に電話をしていました。しかし、近親者が登録されていることを知らされていないケースがかなりありました。すると「うちの息子はまだ高齢者でもないのに、なんでこんなサービスに入っているんだ!」「一体、いくらかかるんだ!」という話になってしまうんです。無料だとお伝えしても信用してもらえず、詐欺だと疑われることもありました。

――それも、現役世代の孤独死が認知されていない弊害ですね。

紺野:そこで、近親者に連絡する前に、利用者本人に電話して出ない場合は、まずLINEでメッセージを送るようにしました。それでもその後1時間程度反応がなければ、初めて近親者に電話をするようなフローにしています。

◆救えたケースと亡くなったケース

――このサービスで、実際に孤独死を防げた事例はどのくらいあるのですか?

紺野:近親者に連絡したら後日「お世話かけました。無事でした」と電話をいただくこともあります。ただ、あまり他人と接触したくないというご時世もあって、利用者からは「無事です」とLINEが来るだけで、どう無事だったかはこちらでは具体的に分かりません。大半はOKの押し忘れです。

――逆に、亡くなってしまっていたケースもありますか?

紺野:今までに4件あります。

――病気や突然死、セルフネグレクトなどですか?

紺野:そうでない場合もあります。2021年の3月には、大分市に住む50歳の女性が亡くなられました。配信に対し、必ずすぐに返答をくださる几帳面な方でした。返答がないため、近親者登録されている東京在住の叔父に電話しましたが、何もできないとの回答でした。仕方なくもう1件の近親者として登録されている市の生活福祉課に電話をしました。

 しかし、弊サービスをご存知なく説明しても話が噛み合わないため、「ホームページを見てくれ」と言って電話を切りました。数時間後、職員が訪問したのでしょう。大分東警察署からの電話で、首を吊って亡くなっていたと聞かされました。自殺だったのは大きなショックでした。

◆人間の尊厳を保つ見守り

――見守りがあっても、救えないこともあるのは辛いですね。

紺野:孤独死自体を防ぐのは、無理だと思っています。こうした自殺もそうですし、一人暮らしをしている方が、自宅で突然死してしまうこともあります。

――不可能だと思っているということは、見守りには他の目的があるということでしょうか?

紺野: 孤独死の問題は、長期に渡り発見されないことです。亡くなって放置していれば身体は腐って体液が流れ出して溶けてしまいます。周りの住民が異臭によって通報する。このサービスで、人間の尊厳のためにもそうなる前に早く誰かに異変を伝えるということです。長期間放置された場合、ご家族や近所の方や不動産屋など、誰も喜ばないですよね。

◆今後の展望は?

――もっと広まって欲しいサービスだと思いますが、今後についてお聞かせください。

紺野:このサービスが行政が提供する社会を目指しています。現代は、人や地域のつながりが希薄になっていますが、こうしたツールを活用して、個人の見守りと単身高齢者にはグループLINEの活用によって、地域で互いが支え合える関係性を構築することができます。

 地域社会の改善や地域コミュニティ創出に向け、高齢化が進む集合住宅の自治会や地域社協などで、この「見守りシステム」の導入が始まっています。これは、私にとっては挑戦なんです。

 まだまだ認知度の低い現役世代の孤独死。しかし実は、ひとりひとりの身に喫緊の問題として迫っている。このサービスが広まり、一人でもおおくの命と尊厳が守られることを強く願う。

<取材・文/Mr.tsubaking>

【Mr.tsubaking】

Boogie the マッハモータースのドラマーとして、NHK「大!天才てれびくん」の主題歌を担当し、サエキけんぞうや野宮真貴らのバックバンドも務める。またBS朝日「世界の名画」をはじめ、放送作家としても活動し、Webサイト「世界の美術館」での美術コラムやニュースサイト「TABLO」での珍スポット連載を執筆。そのほか、旅行会社などで仏像解説も。