カルチャーのあるカフェや喫茶店は、音楽との思いがけない出合いを手渡してくれるかけがえのない存在です。2024年11月20日発売の特集「カフェと音楽」では、全国の話題店によるアルバムリストが登場。ここでは、東京・桜新町の『Autumn』を紹介します。
『オータム』の中心に鎮座するのは特注した巨大なカウンター。レコードの収納はカラーリング別にするのが店主、林翔さん流。
音楽とコーヒーがある幸せ、をシンプルに味わう。
世田谷の閑静な住宅街で、朝8時から漏れ聴こえてくる心地よい音。それにつられるように訪れる人が絶えない『オータム』は、2022年11月のオープンながら、すっかりローカルに馴染んだ様子。「あくまでコーヒーショップなので、選曲はジャンル問わず様々。雨の日には、切なく沁みるソロピアノを流すこともあれば、ポップなネオアコで気分を上げることもあります。意識せずともお客さんの耳に音楽が入るように、気持ち、ボリュームは大きめに」と、店主でバリスタの林翔さん。スピーカーは繊細で伸びやかなサウンドを鳴らす〈Taguchi〉のブックシェルフ型を採用し、音がきれいに響くように壁は珪藻土で仕上げた。開店時、最初に訪れた客に合わせてレコードに針を落とすと、音色の美しさに驚いて会話が始まるという。「まだまだ勉強中」と謙遜するも、音楽とコーヒーの話は尽きない。
まろやかなカフェラテ(¥700)と優しい味わいのキッシュ(¥700)がモーニングの定番。
店の一面はほぼ窓。ゆえに晴れた日の午前中は美しい光が燦々と差し込んで、ドラマチックな風景に出合える。
統一感が出ないようにドアやカウンター、家具の色みはあえてバラバラに。模様替えもたびたび行っている。
レコードプレーヤーは〈Technics〉の「SL-1200」2台をミキサーに接続するDJスタイル。カセットもかけられるようにプレーヤーを準備。
クッキーやパウンドケーキなどの焼き菓子は、酒井春香さんが手がける〈sheep〉によるもの。
ヴィンテージマンションの1階に入居し、屋外にも席を用意。犬の散歩中に訪れる人も。
都内で10年ほどバリスタを経験し、独立した林さん。
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『Autumn』オーナー、林 翔が選ぶ、店を形づくるレコード15枚。
『Songs And Instrumentals』Adrianne Lenker
アメリカ人女性シンガー・ソングライターによる2020年作。コロナ禍にアナログ機材のみ使用して山小屋で制作。アコギの音色とともに環境音が混ざる。
『Another Voyage』The Ramsey Lewis Trio
ジャズピアニスト、ラムゼイ・ルイスがトリオ名義で1969年にリリース。「アップテンポで、お客さんが増えてきた頃に流すと店が生き生きとするんです」
『Little Miss Sunshine(OST)』V.A.
同名映画のサントラ。「大好きな映画です。物語の展開に合わせた緩急が激しい曲もあるのですが、A面は割と緩やかで、かけっぱなしでOKな聴き心地のよさ」
『Inside Voice』Joey Dosik
ピアノやサックス奏者としても活躍するソングライターが、’70年代のソウルをベースに制作。甘く伸びやかな歌声が気持ちいい。「昨年、店にも遊びに来てくれたんです」
『Autumn』George Winston
故郷モンタナの秋をイメージしたピアノソロ。「友人が彼の命日に贈ってくれました。1曲目『Colors / Dance』で軽やかに始まり、次第に秋の寂しさに包み込まれる」
『Shape Of Things To Come』George Benson
切れ味のいいメロウなギターに惚れ惚れする、〈A&M〉からの1968年作。ハービー・ハンコックやロン・カーターなどの名ジャズプレイヤーも参加。
『Freudian』Daniel Caesar
ゴスペルシンガーの親の元で育った、トロント出身シンガーのデビューアルバム。2017年作。「H.E.R.と共作した、切なく美しいラブソング『Best Part』が特にお気に入り」
『Café Bleu』The Style Council
「ザ・ジャム」解散後のポール・ウェラーとキーボードのミック・タルボットによる1st。R&Bやソウル、ジャズなどの要素を盛り込んだ、カフェミュージックの定番。
『The First Of A Million Kisses』Fairground Attraction
エリオット・アーウィットのジャケット写真でも知られる、ネオアコの名盤。「サウンドはポップでヴォーカルはキュート。場が明るくなる」
『Winelight』Grover Washington, Jr.
時代を超えて愛されるスムースジャズの名盤。「未聴のお客さんが意外と多い。街のコーヒー屋がいい音楽を知るきっかけになれたらと思ってかけてます」
『Specials』The Specials
イギリス発、パンクとスカを融合した”2トーンスカ”の代表的バンドによる、素朴でエネルギッシュな一枚。「音楽も服装も、とことん格好つけていく姿勢がかっこいい」
『Jerusalem』Emahoy Tsege-Mariam Gebru
エチオピアの修道女でありピアニスト、その過去の演奏を集めた一作。99歳の誕生日を記念して発売。「派手ではないが、叙情的で何度も聴きたくなる」
『Fragments Du Monde Flottant』V.A.シンガー・ソングライター、デヴェンドラ・バンハートが友人たちのデモ音源を集めたコンピ盤。ニルス・フラームやヴァシュティ・バニヤンなどが参加。
『Bar Buenos Aires Essentials Vol.1』V.A.〈Bar Buenos Aires〉 のコンピが両A面でLP化。「風・光・水」がテーマのSide 2では、カルロス・アギーレ、セバスティアン・ベナッシらの曲を収録。
『Taxi Driver(OST)』Bernard Herrmann映画音楽の巨匠による遺作。「主人公と同じM−65を何枚も買うほど影響を受けた映画です。色気漂うこの一枚は夜に最適。店の雰囲気がガラッと変わります」
『Autumn』東京・桜新町
東京都世田谷区弦巻5−6−16 弦巻リハイム1F なし 8:00〜17:00 火水休 桜新町駅から徒歩10分強、上町駅からは15分ほど。秋にオープンしたため『Autumn』という名前に。
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photo : Ayumi Yamamoto text : Nozomi Hasegawa
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心地よい空間に身を置き、淹れたてのコーヒー片手に流れる音楽に耳を傾ける。ひそやかで静謐な音色、心を揺さぶる歌声や演奏、懐かしいナンバーとの再会もあれば、新しいメロディとの邂逅もある。カルチャーのあるカフェや喫茶店は、音楽との思いがけない出合いを手渡してくれるかけがえのない存在。今号では、良質な音を届け続ける名店オーナーの選曲遍歴や全国の話題店のアルバムリスト、カフェを愛する人々が出合った大切な一曲など、351枚を収録。家でくつろぐひとときに似合う音楽を探し出す楽しみも、この一冊から見つけてもらえたらと思います。Better Lifeには、おいしいコーヒーと、いい音楽が必要ですね。
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