「何でも買い取る」ターゲットは80歳以上の女性? “悪質”訪問買取業者の強引手口へ対抗策は【弁護士解説】

SNSで集められた「闇バイト」による強盗事件が依然として相次いでいる。

11月14日には、警察庁が「紛れもない犯罪行為」「警察は必ず捕まえます」との警告文を発表。また、民家に押しかけ、住民が暴行を受けたり殺害されたりする事件が多発していることから、防犯グッズの需要が高まっているとの報道もなされている。

だが、民家を標的にした脅威は闇バイト強盗だけではない。「訪問買取」をPRして、民家を訪れ法外な価格で貴重品等を買い取ろうとする悪質な業者もいる。

消費者トラブルに関する情報の収集や提供を行っている国民生活センターは9月、「訪問購入」でのトラブルについて注意喚起を行った。

「何でも良い」から一転、「指輪を外せ」と迫る

訪問購入とは、購入業者が自宅を訪れ、物品を買い取るというもの。

国民生活センターのHP上では、相談事例が紹介されている。次に挙げるのは、90歳代の女性がトラブルに巻き込まれたケースだ。

「『何でも買い取る』という女性の声で電話があったので購入業者の来訪を承諾し、終活のため買い取ってもらいたい未使用の贈答品や古着を用意して待っていた。

その後、他県ナンバーの車で男性がやって来た。『何でも良い』と言っていたのに贈答品や古着には目もくれず、『貴金属はないのか。タンスの中を調べてこい』と言われた。

貴金属はないと言ったはずと言っても引き下がらず、身に着けていた母の形見の指輪を外せと迫ってきた。『これを外すのは墓場に入るときだけだ』と強く言い返したら帰っていったが、凄く恐ろしかった」

同センターではこのほかにも、「1人暮らしの認知症の母親が記念硬貨を安値で買い取られていた」という事例を紹介。

被害者が主に80歳以上の女性であることから、同センターは「判断力の低下した高齢者がトラブルに遭っている」と指摘する。

また、トラブルの中身を見ていくと、上述した相談事例のように、アクセサリーの買い取りをめぐるトラブルが多く見受けられたほか、高齢者の持つ自動車や和服なども、悪質な業者の“ターゲット”になっていることがわかる。

「『訪問購入』における相談の商品・役務等別件数」(国民生活センター「きっかけは訪問購入?犯罪まがいの深刻なトラブルにご注意を! -大切な貴金属が持ち去られたなどの事例が寄せられています-」より)

法が禁じる「飛び込み勧誘」など横行か

こうした悪質業者によるトラブルの中には、特定商取引法違反の疑いがある行為が含まれている。

特定商取引法はそもそも、訪問購入業者による飛び込み勧誘を禁止しており(58条の6-1項)、訪問する際にも、勧誘に先立って、氏名や買い取る物品などを明示するよう定めている(58条の5)。

しかし、国民生活センターに寄せられた相談のなかには、「自宅に1人で居る時、突然購入業者から訪問を受けた」など法令違反が疑われるケースが多く見られるという。

また、同法では、訪問購入を断った人への再勧誘を禁止している(58条の6-3項)にもかかわらず、「業者から何度も電話がかかってくる」といった相談も寄せられているとのことだ。

これらの訪問業者による悪質な手口について、消費者問題に詳しい海嶋文章弁護士は「是正指示や業務停止・禁止命令の対象になり得る」と解説する。

「該当する特定商取引法の条項に違反した場合は、主務大臣から問題となる事業者に対して、是正指示が出ることがあります(58条の12)。

さらに悪質である場合は、業務停止命令や、事業者の役員に対する業務禁止命令が出る可能性もあります(58条の13、58条の13の2)。

そして、仮に、事業者やその役員が、是正指示や業務停止命令、業務禁止命令を遵守しなかった場合には、刑事罰の対象になります(70条、71条)」(海嶋弁護士)

告発や証明「難しい」

ではなぜ、罰則があるにもかかわらず、違反を犯す悪質な業者が後を絶たないのだろうか。

「訪問購入の対象となった方が、訪問してきた事業者の名前や訪問者の氏名を記憶しておらず、告発が難しいことが挙げられます。

また、仮に告発できたとしても、録音などの証拠がないと、特定商取引法に違反する行為があったと証明するのは、簡単ではありません。

悪質業者が違反行為に及んでいる背景には、こうした告発や証明の難しさがあるのではないでしょうか」(海嶋弁護士)

海嶋弁護士は、特定商取引法以外にも、相談事例にあった下記のようなケースについて、法的な問題になりうると指摘する。

・「何でも買い取る」と勧誘しておきながら、ほかの物品には目もくれず指輪を売るよう強引に迫った


・判断力の低下した高齢者から、相場より安い価格で物品を買い取るなど、不利な契約を迫った

「これらの行為は、民事の観点では、詐欺や脅迫にあたりうるもので、契約を取り消せる場合があります。

刑事の観点でも、物品が不適正な対価で業者に渡った場合には、詐欺罪や恐喝罪に該当する可能性があるでしょう」(海嶋弁護士)

「家族間で普段からコミュニケーションを」

最後に、海嶋弁護士は訪問購入トラブルの被害を受けた人が取るべき対応や、被害を防ぐための対策について、次のようにアドバイスした。

「強引に買い取られた物品を取り戻したい、業者を捕まえてほしい、と警察に依頼する場合には、事業者が提示してきた名刺や書類、会話を録音したデータなど、事業者の特定ができる証拠を用意しておく必要があります。

また、高齢な女性が被害に遭いやすいとのことですから、そうした方が1人で訪問業者との契約を締結してしまうことのないよう、離れて暮らしている場合も、家族間で普段からコミュニケーションを取ることをおすすめします」