スマホの普及とともに拡大し、いまなお高い人気を誇るソーシャルゲーム。なぜここまで人々を魅了し続けているのでしょうか。「行動経済学」の視点から読み解いていきましょう。橋本之克氏の著書『世界最先端の研究が教える新事実 行動経済学BEST100』(総合法令出版)より、詳しく解説します。

一度手に入れたら手放したくなくなる心

ソーシャルゲームは、App StoreやGoogle Play、SNSなどで入手するオンラインゲームです。ユーザー同士でプレイすることで、コミュニケーションを図ることもできます。

対戦アクション系、ストーリーのあるRPG系など内容は様々です。2012年に『パズル&ドラゴンズ』が、2018年に『Pokémon GO』がヒットしましたが、今も多くのゲームが登場しており、人気を博しています。プレイは基本的に無料ですが、アイテム購入などの課金もあります。

ソーシャルゲームはスマホの普及が進んだ2010年頃から利用者が拡大し、短期間に急激に普及しました。2018年6月、ゲームエイジ総研は10歳~59歳のアクティブユーザー数は約2,958万人と発表しました。同年齢の人口は7,332万人ですから、日本人の4割がソーシャルゲームを楽しむレベルにまで定着しました。

1日にソーシャルゲームをプレイする時間は1回7分を平均5回、合計35分間だそうです。1日24時間から睡眠などの時間を除いた中では高い割合です。なぜなら、一般的なサラリーマンが自由に使える時間は9時~10時(通勤時間)、12時~13時(昼食時間)、そして18時~24時(帰宅後)の8時間程度に限られるからです。

今はこの可処分時間をゲームのみでなく、SNS利用、動画の視聴などで取り合っている状態です。そのためソーシャルゲームは、1回の所要時間を短くして、隙間時間にプレイできるようにしてあります。

フランスの社会学者ロジェ・カイヨワは、あらゆるゲームは以下の四つの要素の組み合せでできていると主張しています※。
※ 『遊びと人間』ロジェ・カイヨワ(講談社)

・他人との競い合い「アゴン(競争)」

・偶然のハプニングと期待「アレア(偶然)」

・真似をして、なりきる楽しさ「ミミクリ(模倣)」

・非日常感「イリンクス(幻惑)」

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ソーシャルゲームにハマる第一の理由

ディー・エヌ・エー(DeNA)の取締役でソーシャルゲーム事業本部長の小林賢治氏は、これらをふまえたソーシャルゲームの魅力を、「社会的関係の中で、自身が介入でき、それによる高度なフィードバック(得るもの)があるエンターテインメント」としました※。
※ ファミ通AP(https://app.famitsu.com/20120514_64039/)

ロジェ・カイヨワの4項目に従えば、ソーシャルゲームでは以下四つのフィードバックが得られると言えそうです。

・競い合った結果の勝利

・予想外の発見

・自分以外になる経験

・日頃と違う特殊な体験

これらだけでも十分に魅力的ですが、さらにソーシャルゲームならではの様々なフィードバックがあります。目に見えるものから見えないものまで多数あります。

具体的には、キャラクターの成長、参加チームの勝利、ゲーム上のステージや地位などです。自分が身につけたプレイのテクニックもその一つです。これらはすべてが自分にとって大切な「保有物」となります。こういった「保有物を手放したくないと思う意識」が、ソーシャルゲームにハマる第一の理由です。

人は何かを保有した時に、それに高い価値を感じて手放したくないと感じるようになります。この心理現象を、行動経済学では「保有効果」と呼びます。この法則を検証するために、ダニエル・カーネマンは以下のような「マグカップの実験」を行いました。

まず、実験参加者の学生をAとBの2グループに分け、Aに大学のロゴマーク入りマグカップをプレゼントします。その後すぐ、Aグループに「いくらなら、Bグループにマグカップを売るか?」と尋ね、Bグループには「いくらなら、Aグループからマグカップを買うか?」と尋ねました。

通常のマグカップは6ドルで販売しているものでしたが、結果の平均は「Aグループ:7.12ドルで売る」「Bグループ:2.87ドルで買う」というものでした。

保有者は手に入れたばかりのものなのに、これを手に入れていない人の評価と比べて「2倍以上高い価値がある」と感じたのです。

人間が本当に合理的だとすると、同じものならば、既に持っていても、そうでなくても価値は同じだと考えることでしょう。

橋本 之克
マーケティング&ブランディングディレクター/著述家