【医師監修】繰り返す腹痛・下痢・便秘……これって病気なの?意外と知らない「過敏性腸症候群」とは

過敏性腸症候群とは

過敏性腸症候群(IBS/irritable bowel syndrome)とは、検査をしても腸に炎症や潰瘍、内分泌異常などが見られないにもかかわらず、腹痛や下痢、便秘、腹部膨満感(お腹の張り)、腹部不快感などの症状が慢性的に続く病気です。

人間関係や仕事など、ストレスや緊張を感じる場面になると突然激しい腹痛や便意に襲われ、トイレで排便をすると落ち着くものの、場所を選ばずに突然の腹痛や便意が起こることでQOL(生活の質)の低下につながります。

過敏性腸症候群の患者数は多く、全人口の5人〜10人に1人ともいわれています。人により症状の程度が異なり、中には症状が軽度のため、自分が過敏性腸症候群だと気づいていないという人も多くいると考えられています。

通勤中の電車やバス、車の中で突然お腹が痛くなる
緊張する場面で急に便意をもよおしたり、お腹が痛くなる
お腹が痛くてトイレから出られなくなり、仕事や予定に遅刻してしまう、通勤電車に乗れない
外出中や旅行中に突然お腹が痛くなることが多く、外出するのが怖い
通勤電車で必ず腹痛や便意に襲われるため、各駅停車にしか乗れない
ストレスのかかる状況になると便秘になる など

「緊張したときや、大切な仕事や予定のときにお腹が痛くなる……」このような症状がたまに起こるくらいであれば深刻に考える必要はないでしょう。

しかし、上記のような悩みがあったり、通勤中や仕事中、外出中などに腹痛や下痢が起こり、日常生活に支障をきたす場合は、過敏性腸症候群の可能性も考えられるため、消化器内科や内科で詳しい検査をした方がいいかもしれません。

過敏性腸症候群の症状

過敏性腸症候群は腹痛や下痢、便秘の他にもさまざまな症状があります。ガスがたまってお腹が苦しい、おならを我慢できない、おならが頻繁に出る「腹部膨満感」やお腹がゴロゴロ鳴る「腹部不快感」も過敏性腸症候群の症状の一つです。

また、過敏性腸症候群の症状は腹部以外にも現れることがあります。

消化器症状
ゲップが止まらない、食欲不振、吐き気、嘔吐 など
全身症状
頭痛、頭が思い、めまい、肩こり、背部痛、疲れやすい など
精神症状
抑うつ症状、不安感、不眠 など

我慢を続けていると、過敏性腸症候群による腹痛や下痢、便秘や抑うつ症状、不安感を悪化させてしまうこともあるため、つらい症状を抱えている場合は早めに病院に足を運び、医師に相談することが大切です。

過敏性腸症候群の種類・タイプ

過敏性腸症候群には、主に4つのタイプがあります。

下痢型
突然お腹が痛くなったり便意が出て、下痢が起こることが特徴。「ここでお腹が痛くなったらどうしよう」などの不安感がストレスとなり、症状を悪化させてしまうことがある。下痢型は男性に多く見られるタイプ
便秘型
腸管の痙攣によって便が排出されずに停滞する。便意があってもなかなか便が出ない。便秘型は女性に多く見られるタイプ
混合型
下痢と便秘の症状を交互に繰り返すタイプ
分類不能型
上記のいずれにも当てはまらないタイプ

症状別に見ると、下痢型が約29%、便秘型が約24%、混合型が約47%を占めており、男女比は2:3で、女性にやや多く見られます。

過敏性腸症候群の原因

過敏性腸症候群を発症する原因ははっきりとはわかっていないものの、「ストレス」「腸の知覚過敏」「感染性腸炎」「腸内細菌バランスの崩れ」が原因ではないかと考えられています。

ストレス

ストレスを受けると脳の視床下部から「副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン(CRH)」が分泌され、その刺激で腸の働きに異常が起こり、腹痛・下痢・便秘などが引き起こされます。

中にはストレスを自覚していないケースもあり、感情表現が苦手な人は、過敏性腸症候群になりやすいといわれています。

腸の知覚過敏

ストレスによる腹痛や下痢が繰り返されることで腸が刺激に対して知覚過敏になり、小さな刺激に対しても過剰に反応してしまったり、症状が強くなったりしてしまいます。

感染性腸炎

感染性腸炎にかかった後に腸が過敏になり、過敏性腸症候群を発症することもあります。以下は、感染性腸炎を引き起こす原因となる菌です。

サルモネラ菌……卵が主な感染源
カンピロバクター、赤痢菌……鶏肉が主な感染源
ノロウイルス……ノロウイルスによる感染性腸炎の場合、治った後も過敏性腸症候群を発症しやすくなる

カンピロバクターは鶏、牛、豚などの腸内にいる菌で、鶏は特に保有率が高く、流通鶏肉の60%以上にカンピロバクターがいるとの報告も。まれですが、カンピロバクターは呼吸困難や手足の脱力・麻痺を引き起こす「ギラン・バレー症候群」を発症することがあります。

腸内細菌のバランスの乱れ

抗生物質(抗菌薬)などの影響によって腸内に生息するさまざまな腸内細菌のバランスが崩れ、悪玉菌が出す毒素で腸が過敏になることも、過敏性腸症候群の発症に影響していると考えられています。

過敏性腸症候群の検査・診断方法

過敏性腸症候群は、検査では腸に異常は見られません。そのため、「どんなときに症状が起こるか」「症状はどんな様子で起こり、どのくらいの時間続くのか」などについて聞いて診断します。

なお、過敏性腸症候群には「ローマⅣ基準」と呼ばれる国際的な診断基準があります。

腹痛が最近3か月間、週に少なくとも1日以上起こり、以下の項目のうち2つ以上当てはまる場合は、過敏性腸症候群と診断されます。

【ローマⅣ基準】

排便と症状が関連している(トイレで排便すれば症状がよくなるなど)
排便頻度の変化を伴う(トイレに行く頻度に増減がある)
便の形状の変化を伴う(便の硬さや見た目に変化がある)

また、他の病気がないかを検査するために血液検査、便検査、大腸内視鏡検査、CTなどを必要に応じて行います。

(広告の後にも続きます)

ストレスで腹痛がある場合の対処法や治療法

ここからは、過敏性腸症候群やストレスで腹痛・下痢・便秘などがある場合の対処法や治療法をご紹介します。

食事を見直す

腸内環境を整えるには、食事の見直しが大切です。

コーヒーなどのカフェイン類、香辛料など刺激の強い食べ物、脂質の多い食事、牛乳や乳製品、お酒はお腹を緩くさせてしまうことにつながるため、避けましょう。

便秘にいいとされる食物繊維には「水溶性食物繊維」と「不溶性食物繊維」の2種類がありますが、便秘型の場合、不溶性食物繊維は大腸の負担になります。水溶性食物繊維を取るようにしましょう。

また、過敏性腸症候群の食事療法として注目されているのが「低FODMAP(フォドマップ)食」です。FODMAPとは、小腸で吸収されにくく大腸で発酵しやすい糖質のことで、これらを控えた食事が推奨されています。

低FODMAP食で避けた方がいい、FODMAPを多く含む食品としては、小麦、玉ねぎ、カシューナッツやピスタチオ、りんご、ひよこ豆、レンズ豆、牛乳などの乳製品などがあります。

ただし、低FODMAP食を自己判断で進めようとすると栄養バランスが偏ってしまうため、必ず医師や管理栄養士に相談する必要があります。

生活習慣を整える

睡眠や休養を十分に取り、生活習慣を整えてストレスをためないようにすることが大切です。

朝起きる時間や夜寝る時間、食事の時間をなるべく毎日同じにするなど、自分の体に合った生活リズムを作りましょう。

運動を生活に取り入れる

適度な運動には腸の働きを正常に整える効果が期待できる。また、過敏性腸症候群の治療をする上ではとても大切なストレス解消にもつながります。

無理に負荷の高い運動をする必要はなく、散歩やウォーキング、寝る前のストレッチなど軽い運動を生活に取り入れるといいでしょう。

外出前にトイレの時間を取る

外出前に排便時間をゆっくり取るようにすると「外出先でお腹が痛くなったり、トイレに行きたくなったりしたらどうしよう」という不安感の軽減につながります。

便意がなかったとしても、朝食を食べた後は必ずトイレに行くようにしましょう。

薬物療法

食事や生活習慣を整えてもなかなか症状が改善しない場合や、下痢や便秘の症状をすぐに治療したい場合は、以下のような薬を使った薬物療法が行われます。

セロトニン3受容体拮抗薬……下痢を止める
粘膜上皮機能変容薬(ルビプロストン)……便を柔らかくする
グアニル酸シクラーゼC受容体アゴニスト……慢性便秘症の治療薬。便秘や腹痛を改善する
消化管運動機能調節薬……腸の動きをコントロールし、下痢や便秘を改善する
高分子重合体……腸内の水分を調整する
乳酸菌製剤……腸内環境を整える など

ストレスの緩和のため、精神安定剤や抗うつ薬を使用することもあります。