米国で高額な訴訟費用がかかるワケ

米国などで驚くほど高額な賠償が加害企業に命じられることがあるのは、懲罰的損害賠償の制度を採用しているためだ。

日本でも有名な米国の懲罰的損害賠償の裁判例としてマクドナルド事件がある。

1992年にマクドナルドのドライブスルーで熱々のコーヒーを買い、車のなかで膝の上にカップを載せて飲もうとしたら、こぼしてしまい、火傷で皮膚移植手術の入院と2年間の通院をしたという事件だ。

裁判では、マクドナルドは填補賠償額16万ドル、懲罰的損害賠償額としてコーヒー売上高2日間分に相当する270万ドルの支払いを命じられる評決が下された。被害者側の窮状と加害者側大企業の不誠実な態度、莫大な収益が陪審員から批判・問題視され、当時の為替レートで約3億円に上る高額な賠償となった。

また近年では英国で、競争法違反などの理由でフェイスブック(メタ)に対して数十億ドルの集団訴訟が起こされている。欧州連合(EU)でも同様の動きが強まっている。

こうした流れのなかで、競争法の専門家は、訴訟ファンドを活用しているという。

問題は、訴訟ファンドのバックに誰がいるかということだ。フェイスブックを訴える訴訟の場合、ファンドの後ろにアップルやグーグルなど競合他社がいたらどうなるのか? 企業秘密を開示させるため、舞台裏でファンドが原告をけしかけるという状況を生む可能性もあるだろう。

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金銭欲に引きずられて倫理観を失う危惧も

全米の弁護士が加盟する米国司法協会は、ホームページで訴訟ファンドへの警告を発している。ファンドによって金だけが目当ての不当訴訟が生まれ、社会コストを引き上げ、法曹界も金銭欲に引きずられて倫理観を失うと危惧しているようだ。

弁護士には、顧客情報の守秘義務がある。しかし、この制約をうまく潜り抜けるような契約を顧客と交わすことにより、具体的な秘密の裁判資料をファンドに提供する可能性がある。ファンド側も、資金を出すか出さないかの判断は資料に左右される場合があるからだ。

米国における訴訟ファンドに関する規制の見直しは、①透明性と規制の整備②利害関係者の意見を反映③リスク管理と適切な運用④競争と市場の健全性など――がポイントに挙げられている。

訴訟ファンドの透明性を高めるために規制の整備が進められており、投資家や訴訟当事者に対して、ファンドの運用方針やリスクを明確に説明することが求められ、運用が適切かを監視する機関も設置されている。

公聴会や意見募集などを通じて、幅広い利害関係者の声を取り入れており、訴訟ファンドが当事者の利益を最大化するため適切な戦略を採用しているかを評価する観点が重視される。

訴訟ファンド市場の競争を促進し、健全な市場の形成を目指して、競合他社との公正な競争環境を維持するために当局は慎重に対応している。