頼んでもいないのに「点検します」「危ないですよ」高齢者を狙う罠。住宅街をゆっくり走る“不審な車”が全国各地で出現

コツコツ働いて、贅沢はできないまでも生きていくために蓄えた老後資金を狙う輩で世の中は溢れている。これが高齢化社会の現実なのか。身近に潜む最新手口に迫る!

◆不穏な空気に怯える高齢の住人たち

関東近郊にある、東京から2時間ほどの住宅街。建売住宅が等間隔に並ぶ「ありふれた光景」だが、住人たちは不穏な空気に怯えていた。

「ここ数年、町内をゆっくり走る車が増えていて自治会で注意喚起がなされてます。作業着姿の男がスマホでパシャパシャ写真を撮っていったり、スーツ姿の2人組も頻繁に見かけるようになった。この辺は団塊世代より上の老人ばっかりだから、見知らぬ顔が来ると目立つ。何か悪さ、してるんだろうかねえ……」(近隣に住む男性)

こうした光景は今、日本中に広がっている。消費者庁が’23年に発表した統計によると、「点検商法」と呼ばれるスキームの相談件数がこの5年で3倍に増加。


◆「点検商法」と呼ばれるやり口とは?

「お宅の家の瓦、落ちてきそう。危ないですよ」などと言葉巧みに話しかけ、後に法外な料金を請求するのがお決まりだ。消費者問題に詳しい弁護士の嵩原安三郎氏の解説。

「高齢者、中でも一人で暮らす老人を標的にした悪徳商法が跋扈しており、深刻な社会問題となっています。訪問型はリフォーム詐欺がよく知られてますが、家に押しかけて貴金属を買い叩く押し買いなど手口はさまざま。警察官になりすましてキャッシュカードを騙し取る事例まであります。

電話主体の振り込め詐欺が周知され、以前のように収益を上げられなくなり訪問型に切り替えてる印象もある。資産状況を調べた上で自宅に押し入るアポ電強盗はその最終手口と言えるでしょう」

◆注意すべきは犯罪組織や半グレだけでない

恐ろしいことに、老後資金を狙っているのは犯罪組織や半グレだけでない。

介護施設ではスタッフが入居者の銀行口座から勝手に現金を引き出す事件が起きていたり、遺言書を偽造する弁護士がいたり……モラルなき凶行がこの世には溢れているのだ。

◆ジャーナリストが明かす犯罪の手口

ジャーナリストの根本直樹氏が語る。

「退職金を受け取り、子育てやローンも一服ついた60代から上の世代が今の日本ではもっとも金融資産を持っているのは自明。

アポ電強盗の被害者たちが同じ証券会社の口座を持っていたのは有名な話ですし、最近ではリフォーム会社や新聞配達員が“足で稼いだ”狙いやすい家庭のリストを作成し、売っているとも聞きます。

遺言の相談窓口をつくってそこに来た客を食うなんて手口も。“持たざる者”がなりふり構わなくなっている、そんな気配を濃く感じます」

人生の終盤に訪れる、資産を狙われるという恐怖――この現実を我々は知っていなければいけない。

◆高齢者が被害に遭った事件

介護職員による横領(’24年11月)

被害に遭ったのは、福岡県に住む70代の男性。入居先である老人ホームの施設長にキャッシュカードと暗証番号を渡してしまい、総額1156万円ものお金を引き出された。

アポ電強盗(’24年10月)

東京・江東区で、3人の男が80歳の女性の自宅に押し入り、女性を拘束・窒息死させた上で現金を強奪。事前に現金がいくらあるか尋ねる「アポ電」をかけ、標的を探していた。

金塊詐欺(’24年8月)

京都市70代の男性が警察を名乗る男に全資産を金塊にまとめるよう指示され、1億円を騙し取られた事件。振り込め詐欺と違って資産管理の一環と誤認させた最新手口だ。

◆認知症患者や遺族を狙った犯罪も

不動産販売詐欺(’24年6月)

主に認知症の高齢者を狙い、少なくとも61人が被害に。東京・八王子市にある築30年以上のアパートの一室を1600万円で購入させられた。相場は1部屋300万円だったという。

遺言書の偽造(’19年12月~’20年4月)

兵庫県で、法定相続人ではない複数の親族から依頼された弁護士が、故人が「ワープロ」で残したとされる文書を基に自筆証書遺言を偽造。本来は故人の自筆でないと効力がない。

【弁護士 嵩原安三郎氏】

フォーゲル綜合法律事務所代表。京都大学卒業後、29歳で司法試験合格。一般社団法人終活レスキュー協会理事

【ジャーナリスト 根本直樹氏】

立教大学文学部仏文科中退。週刊宝石などを経て、ジャーナリストに。扱うテーマは多岐にわたるが、特に事件、経済事件に明るい

取材・文/週刊SPA!編集部

※11月26日発売の週刊SPA!特集「狙われる老後」より

―[狙われる老後]―