遺言書を残さずに亡くなった場合、相続人たちはどのような困難に直面するのでしょうか。本記事では、遺言書がない相続で起こりうる悲劇と、それらを回避するための遺言作成の重要性について、具体的な事例を交えて三浦裕和弁護士が解説します。
母が亡くなって残ったのは「汚部屋」だった…
68歳の聡子さんは、遺言書を作成しないまま、42歳の長女・由美さんと38歳の長男・誠さんを残して急死してしまいました。聡子さんは、なかなか物を捨てることができない性格でしたので、住んでいた部屋はいわゆる「汚部屋」状態。物が散乱し、由美さんや誠さんにはなにが大事なものであるか判断がつかない状態でした。
由美さんは、聡子さんと二人暮らしをしていました。自宅の片づけと遺産分割手続きのため誠さんに連絡をとると、誠さんは、「片付けは姉貴に任せる」と言って、すべてを由美さんに押し付けてきました。部屋は別々だったとはいえ、聡子さんと同居してきた由美さん。母は高齢者とはいってもまだまだ60代で元気だったのと聡子さんも自身の仕事が忙しく、母の部屋をなんとかしなきゃとは思っていたものの片付けを先延ばしにしていたのが現状で、そんな自分への後ろめたさもあり弟に強く言い返すことはできませんでした。母と同居していた由美さんですが、母の部屋のドアを開けて部屋をきちんと確認したのは母の死後でした。
母の四十九日も経過し、そろそろ母の部屋を片づけようとしたときにあることに気づいた由美さん。預金通帳や大切な書類が汚部屋のなかに紛れている可能性があるから、いちいち注意深く確認する必要がある……由美さんは絶望的な状況に追い込まれました。
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由美さんの奮闘
由美さんは、遺産の整理を進めるために、まず家の片づけが必要だと感じましたが、汚部屋の状態があまりにもひどく自分たちでは手に負えないと感じました。弁護士に相談すると、「まずは遺産の調査が必要である」とのアドバイスを受けました。
由美さんは、自宅近くの銀行に照会をかければすぐに見つかるだろうと考え、自分で調査をしてみようと考え、戸籍謄本を取得し、自宅近くのいくつかの金融機関とゆうちょ銀行に対して母親の銀行口座の照会を行いました。しかし、最初に照会をかけた銀行からは、「聡子さん名義の口座はない」との回答がありました。
由美さんは、少しでも預貯金の情報を得ようと思い、「汚部屋」の片づけをしつつ、必要な資料を探すことにしました。買い物のレシートやクーポンはたくさん見つかりましたが、肝心の通帳や金融機関からの手紙などの資料を見つけることはできませんでした。
由美さんは途方に暮れました。由美さんは、日々の仕事に追われつつ、母が使った可能性がある金融機関に繰り返し照会をかけたところ、何度目かの調査により、母親が結婚する前に居住していた地域の地方銀行の口座にメインバンクがあることがわかりました。
由美さんがメインバンクを見つけた時点で、弁護士に相談してから既に半年の期間が経過していました。