練馬・フィリピンパブのママを“メッタ刺し”66歳男に懲役15年求刑 「釈放されたら何をされるかわからない」被害者は強い処罰感情

東京・練馬区の路上で昨年7月、フィリピンパブのママを刃物で刺し殺人未遂などの罪に問われた最上守人被告(66)の論告が27日に東京地裁(江口和伸裁判長)で開かれ、結審した。19日の初公判以降、裁判員裁判で審理が進められていた。

検察側は「猛省を促すべきだ」などとして懲役15年を求刑。一方の弁護側は「許しがたい犯行ではあるが、同種事案と比較してほしい」などの理由から、懲役7年が妥当であると述べた。

常連客だったが…事件前から何度もトラブル

被告人はママへの殺人未遂のほか、ママの店で働いていたキャスト女性Aさんへの傷害、買取販売店への建造物侵入および窃盗、留置施設内で同室だったBさんに対する傷害の罪にも問われている。

最初に起こしたのは、Aさんへの傷害事件。被告人はママの店の常連客だったが、以前から気に入らないことがあるとグラスや灰皿をテーブルから払いのけて暴れる、ピストルのようなものを自分の口に入れてみせる、店の看板を壊すなどのトラブルを何度も起こしていたという。

そんななか、Aさんに好意を寄せていた被告人はママに「アフターに行きたい」と伝えたが、日ごろの問題行動もあって受け流された。これに腹を立てた被告人は、ドライバーの先端が指と指のすき間から出るように握りしめた拳でAさんの頭部を殴りつける。Aさんは出血するケガを負い、被告人はママの店を“出禁”となった。

それから2週間後、出禁中にもかかわらず店を訪れた被告人は、客を見送るママに近づき「Aはいるか」と聞く。「知らないよ」と返されると、自宅から持参した果物ナイフを取り出してママの胸や腕を次々に刺し、血まみれになりながら逃げるママを追いかけた。

その後、コンビニに逃げ込んだママは緊急搬送されて一命を取り留めたが、傷は深さ5~6センチに達するものも多く、少しずれていれば臓器損傷による大量出血で死亡していた可能性もあったという。

逮捕後、留置施設でも傷害事件

被告人はママを刺した数時間後、自宅に戻ったところを逮捕されているが、収容された留置施設でも事件を起こす。同室になったBさんが居室内のルールに反していると考え、一方的に怒りを覚えた被告人は、持っていた箸でBさんを刺そうとした。するとBさんが転倒したため、右足で顔面を蹴ったというのだ。

なお被告人は、Aさんへの傷害事件とママに対する殺人未遂事件の間、自宅近くにある営業時間外の買取販売店に侵入し、スマートフォン2台(2万2858円)を窃取する事件も起こしている。

かくして、被告人は4つの罪に問われ、冒頭のように懲役15年を求刑されるに至った。

Aさん「一生刑務所から出てきてほしくない」

検察側は、被告人が今回起こしたいずれの事件についても「身勝手な動機である」と非難。多数の粗暴犯の前科があり、服役を繰り返していることから「ルールを守るという意識が希薄で、再犯の可能性が大きい」と指摘した。

そして、弁護側は被告人が適応障害を抱えていたことが事件の背景にあると主張していたものの、これについても反論。Aさんへの傷害事件後に謝罪の連絡をしていることや、買取販売店での建造物侵入・窃盗後に証拠隠滅を図っていること、ママがコンビニに逃げ込むと攻撃をやめていることなどから、「自らの行動の善悪や周りの状況を把握できている」として、「犯行に直接の影響はなく、情状酌量の理由にならない」と主張した。

また、論告ではママとAさんの代理人も、被害者参加弁護士として意見を述べた。

Aさんの代理人によれば、Aさんは被告人にケガをさせられた後、「悪い女」などいわれなき風評被害を受け心身ともに傷ついており、「絶対に許せない」「一生刑務所から出てきてほしくない」などと述べているという。

ママの代理人は「(被告人が)本当に反省しているなら謝罪や示談の申し入れができるはずなのに、事件から1年以上がたってもそれがない」と指摘。被告人に店の場所を知られていることから、「釈放されたら何をされるかわからないので、最低でも無期懲役にしてほしい」と強い処罰感情をあらわにした。

弁護人「公平な刑罰を決めてほしい」

一方、最終弁論に望んだ弁護人は、裁判官や裁判員に向かって「被告人に怒りを感じた方もいるかもしれないが、それは自然な感情だと思う」と前置きした上で「別の視点で、公平な刑罰を決めてほしい」と語りかけた。

今回、検察側は求刑にあたって、被告人が起こした事件のうちもっとも重い殺人未遂の動機を「男女関係」「(ママへの)怨恨(えんこん)」であるとした。しかし、「Aさんへの恋愛感情がママへの殺人未遂につながったわけではない」「被告人はすぐに怒りを爆発させるなど、怨恨に至るまで怒りをため込んでおけるタイプではない」などと主張。

動機はあくまで「ママへの怒り」であるとして、今回の事件の条件を過去の同種事案に改めて照らし、さらに本人が崩壊した家庭環境で育ったことや、更生に対する意欲もあることなどを踏まえて、懲役7年が相当であると結んだ。

最後に、裁判長から言いたいことはないか問われた被告人は、次のように述べて一礼した。

「この度は数々の事件を起こしてしまい、申し訳ありませんでした。

特に殺人未遂という本当に重い罪を犯し、ママには取り返しのつかないことをした。Aさんにも似たような気持ちだ。Bさんにも同じような事件を起こし申し訳ない。

今、自分から言えることは、被害者に対し申し訳ありませんでしたということ。いかに厳しい罰が下ろうと、真摯(しんし)に受け止めたい。本当にすみませんでした」

判決は12月11日に言い渡される。