秘密保持契約にもテール条項が存在する

最近では非専任や完全成功報酬を謳うM&A仲介サービスが増え、オーナー経営者としても「仲介会社の連れてきた買い手が気に入らなければ、そこでやめればいい」と気軽にサービスを利用できるようになりました。一見オーナー経営者にとってデメリットがなさそうですが、実は、売り手が仲介会社との間で締結する秘密保持契約(以下、NDA)においてもテール条項が意図的に設けられているケースがあります。本来こうしたテール条項はNDAにおいて定められるものではなく、仲介・FA契約において定められることが一般的です。

当社で実際に確認できたもののなかには、NDAが自動更新となっており、当事者が進んで契約解除を申し出ない限りテール条項が永久に残ってしまうケースが複数存在しました。オーナー経営者がこうしたテール条項を認識せずにNDAを締結してしまうと、あとあとトラブルに繋がるリスクが高まるため注意が必要です。

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売り手オーナーがテール条項に縛られないためには

前述の通り、テール条項の適用対象範囲は中小M&Aガイドライン(第3版)のなかで明確化されましたが、その具体的な運用ルールの策定にあたっては、客観性に基づいて範囲設定をする必要があると考えています。この点、M&A仲介協会や中小M&Aガイドラインの方針のように、企業概要書(IM)が開示された買い手候補企業を対象とするルールでは客観性が保たれないと懸念しています。

現在の中小M&A実務においては、打診する買い手候補企業について事前に売り手オーナーの承諾を取ること(いわゆるネームクリア)が徹底されておらず、M&A業者の活動状況が売り手オーナーに十分に報告されていないケースが多く存在します。売り手オーナーからすると、M&A業者がどの買い手候補企業に打診し、その結果がどうであったのかを把握できない状況が生じています。M&A業者が、多数の買い手候補企業との間で包括NDAを締結しており、売り手オーナーが認識していないところでIMを開示しているケースも存在します。つまり、売り手オーナーからしてみれば、IMが開示された先を客観的事実に基づいて確認することができないのです。

このような実務下においては、テール条項の適用範囲を「押印済みの意向表明書受領先又は直接紹介され面談した買い手候補先」といった形で定め、売り手オーナーが客観的事実に基づきテール条項の適用範囲を確認できるルールにする必要があると考えています。

本稿でみてきたように、事業売却を検討するオーナー経営者は、将来の活動を制限されてしまうリスクが生じうるテール条項の内容には注意が必要です。実際に売却活動を進める場合には、M&A業者にはネームクリアの徹底を求め、詳細の活動報告を求めることで、売り手自身が売却活動に関する情報管理を主体的に行っていくべきでしょう。

しかし、勝手のわからないM&A取引において、自身を守るために最善の決断・行動を取っていくことは容易ではありません。M&Aで失敗しないためには、自分のメリットや利益を一番に考えてM&Aを支援してくれる専門家を起用することをおすすめします。

作田 隆吉

オーナーズ株式会社 代表取締役社長