副業・兼業の一般化やフリーランスの増加、インボイス制度の導入などにより、会社設立を検討する人が増えています。個人事業主として登録をするのか、会社(法人)を設立するのか。判断材料の1つとして、本稿では「個人事業主と会社(法人)の違い」を見ていきましょう。加陽麻里布氏(司法書士法人永田町事務所 代表)が解説します。

「個人事業主」と「会社(法人)」の主な違い

個人事業主とは、法人を設立せずに個人で事業を営む人を指します。法人化せずにビジネスを運営するため、事業上の意思決定や責任はすべて個人(自然人)に帰属します。

一方で会社は、会社という「法人格」を持つ組織であり、法律上、独立した存在として事業活動を行うことができる団体を指します。会社は、個人事業主とは異なり、法人としての地位を有し、経済活動において大きな役割を果たしています。

個人事業主と会社は、事業の運営方法や責任、税務などの点で大きく異なります。主な違いは次のとおりです。

①法的地位と責任

②設立と運営

③税務

④信用力

⑤継続性

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①法的地位と責任の違い(図表1)

[図表1]会社と個人事業主の主な違い①:法的地位と責任

1.法的地位の違い

(会社の人格)

会社は、設立時に法人格を取得し、個人とは独立した法的主体として扱われます。法人は、法律上、個人とは別の存在(法人格)として認められ、契約や取引は会社名義で行われます。

(個人事業の人格)

法律上、個人と事業は一体であり、個人が直接事業を運営します。個人事業主は、事業に関連する契約や取引を自分自身の名義で行い、法人格はありません。つまり、事業自体は法律上、個人としての地位に依存します。個人事業は自然人としての地位を持ち、事業と個人の区別がないことから、事業用に携帯電話を契約する場合も、個人名で契約締結を行うことになります。

2.責任の違い

(会社の責任の範囲)

会社の経営者や株主(出資者)は有限責任であり、会社の経営者や株主(出資者)は、会社に出資した額を超えて責任を負うことはなく、会社の財産のみで負債を処理します。事業が失敗して会社に債務が発生した場合でも、経営者や株主(出資者)の個人財産が差し押さえられることは通常ありません。会社が多額の借金を抱えても、経営者や株主(出資者)が債務を負うことはなく、会社自体が独立した法人として債務を負います。

有限責任の具体例:

株主が会社に100万円を出資している場合、会社が負債を抱えたとしても、その株主が負う責任は100万円までです。会社が倒産しても、株主の個人資産(預金、不動産など)が差し押さえられたり、出資額以上の負債を負ったりすることはありません。要するに、はじめに出資した100万円がなくなるだけということになります。

有限責任の重要性:

株主や出資者は、会社に対して出資することで事業に参加できますが、事業が失敗した場合でも、個人の資産がリスクにさらされることはありません。これにより、投資のリスクが限定され、投資しやすくなります。

(個人事業の責任の範囲)

個人事業主は無限責任を負います。これは、事業において発生した負債や損失について、個人の財産ですべて責任を負うことを意味します。事業が失敗した場合、事業に関わる債務を個人の財産(預金、不動産など)を使って返済しなければなりません。

事業の失敗がそのまま生活に大きな影響を与えることになりますので、大きなリスクが伴います。個人事業は簡単に事業を始めることができる一方で、リスク管理が重要です。