「多摩川で釣った魚」や「野草」で飢えをしのいでいたアイドルに聞く、極貧時代に「一番ツラかったこと」

 まばゆいライトに照らされステージ上ではじける笑顔。歌とダンスでファンを沸かせ元気を届けるライブアイドル。常にファンに勇気と希望を与える存在である。だが、果たして専業で生活できているライブアイドルがどれだけいるだろうか。ひとたびステージから降りれば当然そこには我々と変わらぬ生活が待っている。

 実際、XなどのSNS上では定期的と言っていいくらい、運営とアイドルの金銭トラブルが投稿されている。中には「運営が金庫を持ち逃げした」なんてものもある。信じられないくらいお粗末な展開があるのがアイドルの世界だ。

 給料のシステムは各事務所によって様々ではあるが、当然売れていない間はお金ももらえないもの。若手芸人ではよくある貧乏話ではあるが、アイドルとなればまた違ってくる。

 今回はアイドルでありグラビアアイドル、タレントでもあるソラ豆琴美さんが自身の極貧時代を語ってくれた。

◆「多摩川で釣った魚」で飢えを凌いだ

「土を掘ってミミズを捕まえて、それを釣り餌に多摩川で魚を釣ってました。30分に1匹はミミズがとれるので」

 多摩川での魚釣り。今、釣りを趣味としているソラ豆琴美さん(以下、ソラ豆さん)であるがこの当時は生きるための釣りだった。その時の様子を自身のXの投稿でも回顧している。

「むかしさ、アイドル6年目とかのときだったかな

家賃払えなくなってさ3ヶ月滞納して

ろくなご飯も食べれないしコンビニで物買うことすらできなくてコンビニで泣き崩れた時もあった

自転車で20分くらい漕ぐと多摩川があってさ

多摩川で魚釣って食べてた🙂‍↕️

1番釣れて嬉しかったのはマゴチ。忘れられない。大きかった。美味しかった。

何も取れない時はカニ手掴みで取ってお味噌汁にしてた。あれ久しぶりに食べたいな」(原文ママ)

 ソラ豆さんのファンであれば周知の逸話だろうが知らない人間からすると驚きのポストである。

◆まともに給料がもらえなかったブラック事務所

「そもそもなんでこんなに飢えていたかというとこの時の事務所からお給料が1回ももらえていなかったからなんです。アルバイトもしていたのですがやっぱりライブが急に入ったりすると長続きしなくてなかなか出来ませんでした。ちなみに魚が捕まえられない時はカニを獲って……(笑)」(ソラ豆琴美さん、以下同じ)

 情報要素が多いのでひとつずつひも解いていく。まず給料が1回も貰えなかったというのはいわゆるブラックな事務所に入ってしまったからだという。

「最初の事務所は、はじめた当初は固定給で月1万円でした。だから交通費で無くなるんです。月30本とかライブをやっていたので。交通費は自腹です。それで自転車でライブハウスまで移動するようになりました。でもライブハウスにたどり着けないこともあって、そこから交渉して歩合制に変わりました」

◆多忙でバイトをする時間を作れず、やむなく生活苦に

 それでも自転車でライブハウスに移動とはかなり大変なことである。健康のためではなく交通費が出せないというのがなんとも切実だ。

「歩合制といっても10%バックでした。1000円のチェキ1枚撮ってもらったら100円バックというシステムです。でもお客さんの数も限られているので当時は10人チェキ撮ってもらったら『やった!1000円もらえる!』みたいなテンションでした」

 アイドルであることに真っ直ぐすぎて聞いているほうがツラくなるエピソードだ。アイドルでの収入もほとんどなく、アルバイトも出来ない。月30本というとほぼ毎日。しかも1日に2つイベントがあるなどザラだ。これでは確かにバイトもできずに生活苦になるのも無理はない。

 ただ補足すると最初の事務所は、社長もお金がなく、「みんなで頑張ろうという雰囲気で寄り添ってくれていた」とのことが、唯一の救いだ。

◆コンビニのサラダを落として「嗚咽するほど号泣」

「当時はもう本当にギリギリの生活でコンビニがめちゃくちゃ高級店に見えてたんです。一度、コンビニの300円ほどのサラダを買って楽屋に持っていったときにつまずいて落としちゃったんです。もう嗚咽するほど号泣しちゃって。そのくらいギリギリでしたね~」

 そんなギリギリの生活でも米だけは実家からこっそり調達して確保していた。それでも生きるには食べ物が足りない。そこで思いついたのが冒頭の多摩川の釣りだった。

「最初は釣り人に『何釣れるんですか~』程度だったんです。でも高級魚のマゴチが釣れると聞いてはじめました。それから川エビをペットボトルで罠を仕掛けて取りましたね。鯉はたくさんいたんですがこれは思い出したくないですね……」

◆野草の調理方法はいろいろ試した。においはレモンでごまかす

 ライブのない日は一日中多摩川で釣りをして食料を確保していたそうだ。趣味ではなく、生きるために釣り糸を垂らしていたわけだ。ここまでくるとやはりというか、野草も口にしていたそうだ。

「葉っぱとかも結構食べたんですが、一度すごくおしっこくさいのにあたっちゃって。口の周りがめちゃかぶれるんです! それ以来食べずにベランダで自分で育てるようになりましたね。ルッコラとか枝豆とか」

「野草を食べると、口がかぶれる」というのは“貧乏あるある”かもしれないが、これは現役アイドルのエピソードであるから笑うに笑えない。

「調理方法はいろいろ試しましたね~。においのきついのはレモンでごまかしたりとか。葉っぱは揚げたり。お酒を差し入れでいただくことが多かったのでお酒も使いましたね~。大体、から揚げっぽくすればお腹に溜まりました。基本、揚げるか焼くかすれば食べられました(笑)」

 揚げるか焼くかで食べられる! 決してアイドル的ではないがある種、貧乏な中でのサバイバルを極めたと言ってもいいだろう。

◆冬にガスを止められるのが、一番の恐怖

 そんな極貧時代、一番ツラかったことはなんなのか最後に聞いてみた。

「一番はガスを止められたことですかね~。水道は1回しか止められたことないんですがガスはすぐ止まる。一昨年くらいも一度、止まりましたね。その頃は日中にペットボトルに水を入れて日向に置いておくんです。そうすると夜使う頃には温かくなってるので使えるんです」

 電気も止められたというが、それでもやはりガスを止められるのがツラいというのは冬場の経験からだった。

「冬は本当にツラくて、シャワーも水だから寒くて唇がぶるぶる震えるんです。歯がカタカタするんですよ。それで自分でなにやってるんだろうって悲しくて涙が出てくるんですよ」

◆冬に水風呂でしのいだ時期も…「一気に行けば大丈夫」

 これは想像しただけでもツラいエピソードだ。冬は夏場に使っていたペットボトルの裏技も使えない。

「一度、2週間ガス料金が払えない時があって、毎日が水風呂でめちゃくちゃ寒かったですね。でも3日目くらいから麻痺してくるんですよ。一気に行けば大丈夫みたいな!」

 サウナ愛好家でも温まっていない状態では水風呂は入らないが、慣れとはおそろしいものである。そんなツラさを経験しているからこそ、今でもやはり温かいお風呂に入るのは本当に幸せな瞬間だという。

 これらはソラ豆さんの貧乏生活エピソードのほんの一部だ。実にたくましい生活を経て現在、グラビアアイドル、タレントとして活躍している。当然、ガスも止められることもない。こんな悲しく厳しい経験を自身のプロデュースするアイドルや後輩にはしてほしくないと今、より一層、頑張っている。

 単なる貧乏話ではなく、アイドルとして真っ直ぐであったが故の貧乏だったことは忘れてはならない。ソラ豆さんの秘めたる強さや魅力はこの頃に大きく培われたものなのだろう。今後もそんなソラ豆さんから目が離せない。

<取材・文/松原大輔 撮影/山田耕司>

【松原大輔】

富山県出身。中央大学法学部卒。在学中より故・永谷修氏に師事。文藝春秋『Sports Graphic Number』編集部などを経て2018年に独立。執筆活動のほか書籍の編集、YouTube制作、アーティストマネジメント、ライブイベントなどを行っている。Twitter: @matsudai0228