東京都で全国初となるカスハラ防止条例が成立した。カスハラ客は撲滅すべきだが、一方、ヤバい店員が“守られすぎる”可能性もある。ヤバい店員による被害事例を紹介するとともに、正しいクレームの作法を考える。
◆暴言を吐き、舌打ちする…“ヤバい店員”が増殖中!?
10月4日。都議会の本会議にて、客からの迷惑行為などのカスタマーハラスメント、いわゆる「カスハラ」の防止条例案が全国で初めて可決された。
この条例では「何人もカスハラを行ってはならない」と規定し、来年4月に施行の見込みだという。
これがかねてから問題視されてきたカスハラの防波堤になればよいのだが、一方で「従業員を守る」という大義名分のもと“店員側”が暴走してしまうとの懸念の声も上がっている。
実際、遭遇事例を集めてみると、ヤバい“モンスター店員”は各所に存在しているようだ。特に目立ったのは、コンビニや飲食店、ケータイショップでの体験談だ。
「コンビニでの荷物の発送方法がわからず店員に聞くと、『わからないなら発送するな! 他に行けよ』と怒鳴られた」(39歳女性・通信)
「レストランで追加注文すると、店員が去り際に『お金、持ってんのかね』とこちらに聞こえるようにひと言。ニヤニヤしているのもきつかった」(43歳男性・物流)
「スマホの乗り換えキャンペーンで、今使っている機種を伝えると、『まだそんなの使ってるんすか?』と笑われた」(40歳女性・事務職)
威嚇や舌打ちも多かった。
「ラーメン屋で食後に呼吸を整えていると、『早く帰れ』とばかりに寸胴鍋をガンガン鳴らされた。おいしかったのに、最悪の思い出です」(32歳男性・不動産業)
「昼食でよく利用するコンビニに“ぶつかりおじさん”ならぬ“ぶつかり店員”がいて地獄」(42歳女性・IT)
◆人手不足や低賃金がモンスター店員を生み出す
傍若無人に振る舞う店員はなぜ生まれるのか。働き方改革総合研究所代表の新田龍氏は原因を解き明かす。
「モンスター店員が生まれる要因のひとつには、適性やスキルといった本人の資質だけでなく、慢性的な人手不足により、もともと素質のない人でも採用せざるを得なくなったという課題があります。
ただ、より問題視すべきは、低賃金や過酷な労働環境、カスハラが頻発する現場といった素因からストレスを抱え、サービス精神を維持することが困難になるケース。
あるいは、コストカットなどを理由に接客に必要な研修を十分に行わない雇用者側の問題もありえます。モンスター店員を増やさないためには、雇用者は店員の権利や心身をきちんと守り、客もモラルある行動をとることが大前提です」
被害事例によると、店員にあらぬ疑いをかけられたというケースも目立った。
「家族でレストランに行った際、レジで会計を済ませ店を出ると、店員から『無銭飲食だろ!』と怒鳴られた。すぐに証拠のレシートを見せると、謝罪の言葉もなく店に戻っていった」(39歳男性・事務職)
店員からセクハラを受けたという事案も少なくない。
「コンビニで深夜に立ち読みをしていたら、20代の男性店員に連絡先を渡された。『結構です』と断り、買い物を続けると、今度は後ろからハグ。びっくりしてそのまま逃げました」(34歳女性・自営業)
「カフェの帰り際に男性店員から『連絡先を教えてください!』と言われて。しぶしぶ名刺を渡すとメールが頻繁に届き、『彼氏いる?』『一人で発散するの?』と……」(28歳女性・派遣)
なかには、その店の名物となっているモンスター店員も。
「ある駅のコンビニで働く中年の女性店員の態度が悪すぎ。私が眺めていた棚を彼女が整理したかったようで、ずっと後ろから睨みつけられていたことも。ネットの口コミにもその店員の不評が書いてあり、彼女の担当するレジを明らかに避けている客をよく見ます」(30歳女性・フリーター)
こうしたモンスター店員に出会ったら文句の一つも言いたくなるのは当然だ。
◆カスハラにならないよう、クレームをつけるには?
しかし、東京都の条例ができたように、今後もカスハラ対策が強まることを考えれば、感情的にキレてしまってはこちらがカスハラ客となってしまいかねない。
客側が加害者にならずに正当なクレームを入れるには、どんな手段が有効なのか。
「東京都の条例では、カスハラは『就業者に対する暴行、脅迫などの違法な行為、または暴言や正当な理由がない過度な要求など不当な行為で就業環境を害するもの』と定義されています。したがって、クレームがカスハラと捉えられないようにするには、相手を尊重しつつ、『サービス改善を目的とした建設的なフィードバック』を心がけるべき。クレームをうまく変換するのが有効です(記事末尾参照)」(新田氏)
企業法務に注力する森中剛弁護士はこう付け加える。
「今回制定された条例は、定義がざっくりしているうえ、罰則規定もないという難点もあります。なので、自分がカスハラ加害者にならないための意識づけは必須です。
『あの店員は頭がおかしい』といった主観的な指摘などはカスハラ、『注文した物と違う物を持ってこられた』などの客観的事実は正当なクレームに当たります。
まずは感情に任せた発言をせず、気持ちを落ち着かせて冷静に伝えること。つい強い言葉を使ってしまいそうなら、お客様アンケートに書いたり、消費者庁に連絡したりするという手もあります」
モンスター店員はたしかに存在するが、だからといって傷つけていいわけではない。
◆モンスター店員にはこう言え! カスハラしないためのクレーム変換術
①感情的にならず冷静に伝える
怒りや感情に任せて不満をぶつけると、相手に強いストレスを与え萎縮させてしまううえ、他の来店客にまで迷惑が及ぶリスクがある。
NG:「この店にはクソみたいな商品しか置いてないのか!? お前のせいで最悪な気分になった! 今すぐ責任者を連れてきて土下座させろ!」
OK:「先ほど購入した商品が少々劣化していたようなので、交換か返金をお願いしたいです」
②問題点と要望を明確に説明する
漠然と「何とかしろ!」ではなく、「何が」「どう」問題なのか、何を望むのかを説明すれば、相手も解決策を提案しやすい。
NG:「サービス最悪の店だな! せっかくの記念日が台無しだ! 何とかしろ! 誠意を見せろ!」
OK:「注文した料理の到着までかなりの時間を要した上に、間違った料理が提供されてしまい困惑しています。できる限り急いで作り直してもらえませんか」
③タイミングと状況に配慮する
店が忙しい時間帯や混雑している状況では、店員が即座に対応できないこともある。相手が冷静に対応できる状態を見計らうべき。
NG:「何をモタモタしてるんだ! 他の客のはいいから最優先で持ってこい! 今すぐだ!」
OK:「お手すきのときでいいので、ご対応をお願いします」
④適切な手段を用いる
店舗での対応に不満があった場合は、店長や管理職に直接伝えるか、オンラインで公式の問い合わせ窓口を利用することが適切。
NG:「マスコミにリークするぞ! SNSに投稿もするからな!」
OK:「(店舗責任者に対して)次回以降のご対応について、改善をお願いできればと思います」
⑤対応には感謝する
クレームを伝えた後、対応に感謝の意を示せば、相手の立場も尊重することができ、スタッフや企業側も前向きに対応しやすくなる。
NG:「二度と来ねえからな!」
OK:「迅速にご対応いただきありがとうございました」
【働き方改革総合研究所代表・新田 龍氏】
労働環境改善支援と、労務トラブルおよび炎上トラブルの予防&解決支援の専門家。著書に『炎上回避マニュアル』(徳間書店)など
【弁護士・森中 剛氏】
Authense法律事務所所属の弁護士。元裁判官の経歴を持ち、現在は企業法務の分野のトラブルに注力。大企業や公的企業の顧問実績も
取材・文/週刊SPA!編集部 写真/Fast&Slow・amadank(PIXTA) アンケート協力/パイルアップ
―[モンスター化する[ヤバい店員]が急増中!]―