「駅にいるから迎えに来い」自分の母をまるで“タクシーのように使う”隣人に怒り。話し合いの場でも「好戦的な態度」で…

 プライベートな生活圏を他人に侵されるのは、誰もが嫌な思いをするものだろう。今回は車にまつわるそんな話を紹介したい。

「母から話を聞いて、それまで感じたことがなかったほどの怒りが込み上げたことを覚えています。いまだに思い出しては腹が立つぐらいです」

 そう憤るのは須藤亮介さん(仮名・29歳)。数年前、須藤さんの母が大変な目に逢ったのだという。

◆母の様子がおかしいことに気づく

 須藤さんがこの出来事を知ることになったきっかけは、母の様子の変化だった。

「母は一人暮らしをしている自分を心配して、いつもなら最低でも月に1回は電話をかけてくるんですが、何カ月も連絡が途絶えたことがあったんです。どうしたんだろうと思って、こちらから電話をかけてみたんですが、いつもだったらあれこれ聞いてくるのに、早々に電話を切られて、明らかに様子が変でした」

 心配した須藤さんは実家に帰ることにした。

「前に会った時から数カ月しか経っていなかったと思いますが、母はかなりかなり痩せたように見えました。やはり元気がなくて、どうしたのか聞いてみてもなかなか言わなかったんですが、しつこく聞いていたら『ご近所さんのことで悩んでいる』とのことでした」

◆近所の住人が母をタクシーのように使っていた

 母の口から語られたエピソードに驚いたという。

「実家で同居している祖母は足が悪く車いすで生活をしているんですが、母が祖母を病院に連れて行こうとした時のことでした。バックドアから車椅子に乗った祖母を乗せて、出発しようと運転席から乗り込んだところ、隣の家に住む女性が助手席に座っていたというんです。驚く母に隣人は『駅まで乗っけて行ってよ』と言い放ったそうでした」

 その人物とはあまり反りが合わず、距離をとっていたという。

「仮にその人物を竹村としますが、かなり癖がある人物で、母は苦手としていたんです。ですが、まあ一度ぐらいはいいかと考え、駅まで送ってあげることにしたそうでした」

 だが、それで終わりではなかった。

「それから竹村は毎日やってきて、勝手に車に乗り込んでくるようになったそうでした。『パートに行くから送っていってよ』『買い物行くからスーパー行って』とタダ乗りできるタクシー扱いをしてきたというんです」

◆「駅にいるから迎えに来い」と電話がかかってくるように

 優しい性格の須藤さんの母も流石に怒りを覚え、何度目かに依頼され時に「いい加減にしてください」と言い放ったという。

「竹村は逆ギレしてきたんです。『こっちは土産を渡したり、お裾分けを散々してやったのに、あんたからはごくたまにもらうだけ。これまでの貸しがあるんだから、ついでに送ってくれるぐらいいいだろ!』と言ったそうなんです。母は祖母の介護で忙しくしているので、たまに貰い物があった時にお裾分けしている程度で、確かに向こうからもらう方が多かったそうでした。そんなこと気にする必要はないと思いますが、母は真面目なので負い目に感じてしまい、それ以上は文句を言えなくなってしまったそうなんです」

 母の態度につけ込むように、隣人の欲求はエスカレートしていった。

「これまでは母が車を出そうとするとやってきていたのが、母が家にいるときにやってきて『車を出せ』と命令するようになったらしくて……。さらには『駅にいるから迎えに来い』と携帯に電話がかかってくるようにもなったそうでした」

 ただでさえ介護で忙しい中、隣人の足代わりに使われるのは労力的にも精神的にも大きな負荷になっていたという。

「話を聞いていて頭に来たので、自分が文句を言いに行くことにしました。母には『大事にしたくないからやめて』と言われましたが、抑えられなくて。家に行って竹村に『今後はいっさい車には乗せたりしないので来ないでください』と告げました」

◆話し合いは物別れに終わるも、周囲の住民の力を借り…

 だが、相手も譲らなかった。

「竹村は、『お裾分けや土産にろくにお返しもしないででかい口を叩くな。当たり前のことができない恩知らずの人間だって周りにいいふらすぞ』と脅してきたんです。自分は『言いたければどうぞ。こちらもあなたのしていることを周りに話しますので』と言いましたが、向こうは『やってみろ』と終始好戦的な態度でした」

 話し合いは物別れに終わり、須藤さんはもしものことを考え、近隣住民のなかでも影響力がある人物たちに相談することにした。

「母が介護で苦労していることを知っていたので、どの家も親身になって話を聞いてくれて『味方になる』と言ってくれました。向こうも対抗してくるだろうと思っていたんですが、特に動きはありませんでした。母がいうには『外面を気にするタイプ』らしく、さすがに自分の言い分が通るとは思ってなかったのかもしれません」

 その後、母の前に姿を見せることもなくなり、平穏な日々を取り戻すことができたという。

<TEXT/和泉太郎>

【和泉太郎】

込み入った話や怖い体験談を収集しているサラリーマンライター。趣味はドキュメンタリー番組を観ることと仏像フィギュア集め