「早期退職して大後悔…」肩書と給与は上がった55歳男性、半年後に待ち構えていた“悲劇”

 最近、特によく目にする早期退職を募るニュース。表向きは、企業の収益力改善や事業基盤の強化など、前向きな文言が並びますが、本当のところは業績の悪化が主な要因ではないでしょうか。今回取材に応じてくれた男性も、そんな早期退職制度に応募した一人です。

◆寝耳に水の早期退職募集

 中堅医療機器メーカーで営業一筋の田村さん(仮名・55歳)。下戸にもかかわらず、営業成績を上げるために率先して飲み会に参加し、10年連続営業部門の売上高1位という記録を樹立した会社人間です。そんな田村さんがある日、出社すると、驚きのメールが舞い込んだといいます。

「朝一番にいつもパソコンのメールチェックをするのですが、その日最初に受信したメールのタイトルが『早期退職者募集のお知らせ』でした。対象年齢は50歳以上で、勤続10年以上と、ばっちり私は条件にはまっていました。その時は、あくまでも”募集”という認識だったので、あまり気にせずその日の業務に入ったことを覚えています」

 ただ、意外にも早期退職に興味を持つ同期も少なくなかったそうです。

◆得意先の社長からの誘い

 早期退職には全く興味がなかった田村さんですが、ある日、付き合いの古い納入先の会社を訪問した際、そこの社長に思いがけない言葉をかけられたそうです。

「そこは、私が新卒で入社して初めて任された会社でした。いつものようにオフィスを訪れると、社長が開口一番に『田村くん、あんたのところ早期退職の募集やっているらしいじゃないか。よかったらうちに来ないか?』と言われました。あまりにも唐突すぎて『あ、はー』と、曖昧な返事しかできませんでした」

 ただ、この得意先の社長はかなり本気で、全く興味がなさそうな田村さんに、改めて熱烈なラブコールを送ってきたそうです。

「納品が終わって帰社しようとしたら、社長にまた呼び止められました。なんと、転職してくれた暁には取締役営業部長として迎えたいと言うのです。給与も現行の2倍強は約束するとも言われました。そこまで具体的な話をされ、ようやく真剣に考えるようになりました」

 その夜、家族にも相談して十分話し合った末、早期退職に応募して、得意先の会社へ転職することを決めたと言います。

◆最初の半年は夢のようだった

 今までは出世にあまり恵まれなかった田村さん。それが転職後は役職付きの営業部長というかなりのレベルアップに戸惑いも感じながら、今までには味わえなかった優越感や満足感に包まれた夢のような日々を過ごしていました。

「最初の1か月は、挨拶回りや引継ぎなどでバタバタしていましたが、徐々にそれが落ち着き出すと、以前のような四方八方に営業車で走り回る日常ではなくなり、一日中デスクで部下に指示を出したり、社内会議に顔を出したりと、全く仕事のスタイルが変わりました。給与も大幅に増えたので、今までできなかった家族孝行も実現して、正直夢のような日々でした」

 転職に満足していた田村さんですが、半年くらい経過した頃から、なんとなく社内の異変を感じるようになったといいます。予感は的中していたようでした。ある日出社すると社内が騒然としていたそうです。

「いつもは静かなオフィスなのですが、その日は皆席を離れ、心配した面持ちで会議室の方へ視線を送っていました。私も何が起こっているのかがわからず、とりあえず会議室のドアを開けたら、そこを数人の男性が占拠していました。彼らは開口一番『田村取締役ですね?』とだけ言い、私に今起こっている状況を説明しはじめました」

◆嫌な予感が的中、そして最悪な結末に

 どうやら、そこにいた男性たちは弁護士で、彼らは田村さんに会社が倒産したこと、社長を始め、他の取締役と連絡がつかないことなどを聞かされました。

「少しずつ状況が見えてきました。会社が倒産したのです。しかも、代表者は姿を消している状態。どうやら、計画的な倒産のようでした。最初からそれありきで私はスカウトされたこともその時点でわかりました。正直最悪な展開ですね」

 結局、今さら逃げることも隠れることもできない田村さんは、破産管財人主導のもと、会社清算まで付き合い、その半年後ようやく全ての処理が終わったといいます。

「今から考えれば、出来過ぎた話でした。人間は欲深い生き物です。しかし、自分で決断したのだから、後悔はありません。残りの人生をゼロからやり直します」

 現在は持ち家を処分し、家族とともに実家のある仙台へ里帰りし、職を探す日々を送っているそうです。

<TEXT/ベルクちゃん>

―[早期退職した人の「その後」]―

【ベルクちゃん】

愛犬ベルクちゃんと暮らすアラサー派遣社員兼業ライターです。趣味は絵を描くことと、愛犬と行く温泉旅行。将来の夢はペットホテル経営