コメの高騰で苦悩する回転寿司チェーン。最高益が相次ぐ好調4社と明暗分かれた“かつての王者”

 1兆円市場(海外出店分も含む)に迫る回転寿司。日本の外食にはなくては困る存在となっており、家族のコミュニケーションには最適な場ともなっている。令和の米騒動で外食チェーンは米の量的確保や価格高騰対策に追われて、厳しい経営を余儀なくされており大変な状況だ。

 たださえネタである魚介類系の原価が高いのに、必須の米まで上がりして、利益を確保するのに必死な回転寿司チェーンは費用構造の見直しなどに追われている。日本人の主食である米は、昨年の猛暑による影響による高品質米の供給不足もあるが、訪日外国人客による日本食の爆食いが原因で、米の需給が逼迫していることもある。

 その結果、8、9月はスーパーですら入荷できず各家庭に米が回らないなど非常事態になっていた。激変する市場環境の中、大手回転寿司チェーン上位5社(スシロー・はま寿司・くら寿司・魚べい・かっぱ寿司)の現状と今後の行方を観察してみたい。

◆圧倒的な勢いで他を突き放す“王者”「スシロー」

 業界1位のスシロー(店舗数646店、2024年9月時点)の2024年9月期決算は、売上が前期比19.7%増の3611億円だ。営業利益は前期比112.6%増の234億円と2倍強で、営業利益率は前期の3.6%に対して今期6.5%と収益力は、著しい伸長度を見せている。純利益は前期比81.9%増の146億円で過去最高益を更新した。

 割安感を訴求したキャンペーンを継続的に実施し、集客力を高めたようである。週初めにLINE登録会員に新メニューを配信するなどの販売促進活動が常連客の来店動機に繋がっているようだ。60歳以上のシニアには5%割引のカードを配布している。子や孫などを連れてくるシニアが増加し、1組あたりの売上が増加しているようだ。

 海外事業ではタイなどアジア各国で、新規出店を拡大し好調で、中国では行列ができる店と話題になっている。国内外の実績を見てみると、前期比で国内売上は15.7%増、営業利益は93.2%増でほぼ倍増と好調だ。海外も前期比で売上は39.3%増、営業利益で36.6%増と順調のようだ。

 商品力の優劣を評価する原価率は、前期44.5%から43.1%に抑制されている。原価率の高さが業界1位でそれだけ商品に力を入れていると思われていたものの、利益率が低い原因だったのは事実。それが、今期は商品ミックス計画の最適化と商品ロスの低減で原価を抑制できたようだ。相変わらず、「商品力のスシロー」は健在のようだ。

◆最も積極的に出店数を増やしている「はま寿司」

 外食最大手ですき家などを運営するゼンショーが、回転寿司事業への参入を目的として、2002年10月に設立したのが業界2位のはま寿司(国内620店、海外82店、2024年9月時点)だ。

 立地は郊外ロードサイド店が多く、いつも新ネタを紹介した賑やかな店頭にタペストリーを設置し、道路側には目立つノボリを立て、吸引力を強化している。はま寿司もライン登録会員への頻繁な新メニューの紹介とクーポン付与を毎週必ず実施しており、販促活動も強化しており、最も店舗数を増やして勢いがあるようだ。

 売上は前年1695億円(2023年3月期)に対して1971億円(2024年3月期)と、前年同期比16.3%と伸ばしており、営業利益に関しても前年84億円(2023年3月期)に対して114億円(2024年3月期)と35.5%も伸ばしている。売上の伸びより利益の伸びのほうが大きいのは、DXの積極的な推進が、効率性をさらに高めているのが推察される。

 直近の業績(2024年4~9月、2024年上期)を見ると、前年同期比938億円に対して今期は1171億円と24.8%増だ。営業利益は前年同期比49億円に対して今期は97億円と約2倍に急伸しており、最も成長路線に乗っているように見える。

◆レーンにこだわり、本来の姿を貫く「くら寿司」

 回転寿司チェーンは衛生管理やいたずら防止などを理由に客席への専用レーンを導入している店が増えている中、業界3位のくら寿司(国内552店、海外129店、2024年10月末時点)だけはレーンを回し続けている。

 同店は昔から衛生管理への徹底は定評があり、お客に「より安全と安心を」をモットーとしている。「抗菌寿司カバー鮮度くん」はウイルスや飛沫などから、お客を守る姿勢には昔から高く評価されている。

 仕組みとしては、「鮮度くん(寿司カバー)」の上部についているQRコードによる製造時間制限管理システムを導入後、長時間レーン上に置かれた寿司を廃棄するシステムになっている。お客が皿を投入口(皿カウンター)に入れることで洗い場まで自動的に回収され、同時に枚数がカウントされ、精算されるのだ。また常に卓上もすっきりとしているので快適に過ごせるようだ。

 出店も積極的に行っており、今期(2024年10月期)は31店舗(国内11店、海外20店)を出店し、はま寿司に続いている。海外はアメリカ68店、台湾58店、中国3店を展開。業績は売上2114億円、営業利益24億円(23年10月期)となっていたが、今期(2024年度10月期)は前年を上回る好調さを維持しており、第三四半期を終えた直近(2023年11月~2024年7月)の業績を見ると、売上1179億円(前年同期比12%増)、営業利益64億円(前年同期は3億7600万円の赤字)を計上し躍進している。

◆原価率が4%も低下

 特に注目すべき点は原価率が40.7%と前年同期比44.6%を大きく下回っている点だ。飲食店にとって最もウェートが高い原価率が4%も低下することは費用構造的に大きく、これが営業利益率が上がった主な要因になっている。メニューの拡充を図りながら、粗利ミックスを活用して原価を適切にコントロールしているようだ。

 2024年10月期決算はまだ公式に発表されていないが、11月2日に発表された10月度月次情報によると、全店売上は前期比106.4%と好調に伸ばしている。既存店ベースでも、通期で前年同期比、売上104.1%、客数98.6%、客単価105.5%と、わずかな客数の減少があるが客単価上昇で補っており、売上も伸ばしている。

 くら寿司は、全店舗に店舗支援システムがあり、本部から全店舗を見ることができ本部から運営における援助をすることができる。そして、一皿110~150円まで6段階に均一価格ごとに店舗を分類して管理している。立地の需給バランスを勘案して店舗群を集約しており、柔軟に対応しているようである。

◆“回らない回転寿司”を標榜する「魚べい」

 業界4位の魚べい(国内185店、海外241店、2024年3月時点)の業績は著しい伸びを見せている。そもそもは元祖回転寿司である「元禄寿司」のフランチャイズから独立し、「元気寿司株式会社」へ社名変更している。廻らない回転寿司を標榜し、袖看板にも明示している。各テーブルには特急レーンで届ける仕組みである。

 親会社は伸明ホールディングスで米の卸売り事業を展開する非上場企業である。米の卸会社が垂直統合で回転寿司チェーンを展開し、その強みを最大限に発揮している。親会社と子会社がシナジー効果を発揮し、利益を享受し合うのは当然。伸明はアグリフード・バリューチェンの構築を目的に川上事業(生産者支援)・川中事業(食の加工)・川下事業(中食と外食に参入)を垂直統合した食関連の多角化を実践している。

 ちなみに親会社の神明は営業利益率49.8%とほぼ半分が利益という圧倒的な収益力だ。国内外で426店舗出店していて、内訳は国内185店、海外241店と海外のほうが多い。ブランド別では国内は魚べいが169店、元気寿司は9店と国内は魚べいブランドに経営資源を集中しているようだ。しかし、海外では逆に元気寿司が225店、魚べいが6店、本格志向の寿司チェーン千両が26店となっており、地域ごとにブランドの棲み分けを行っている。

◆競合他店よりも儲ける仕組みが確立

 決算資料(2024年3月期)から業績を見ると、売上618億円、営業利益49億円、営業利益率8.0%と、大型回転寿司チェーンの平均値である5%を3ポイントも上回っており、競合他店よりも収益力が高く、儲ける仕組みが確立されているようだ。原価率は41.1%と他社と比較すると低いのが明白で、米の仕入れが低いのもあるが、顧客満足度の高い商品ラインナップでありながらも、店側の原価管理も徹底されているようだ。

 収益向上策として、①インフレを見込んだ売価の適正化、②メニューミックスの効果的な実施で売上と利益のバランスの最適化などを徹底しているようだ。テレビ番組の出演やSNSの効果的活用で認知度も高まってきている。回転寿司の鉄板的ネタであるマグロはネタの大きさからコスパ最強ではと高い評価であり、その他創作寿司やデザートも人気だ。それらは週末のウエイティングルームの込み具合を見ればよくわかる。

 直近(2024年4~9月上期実績)の業績を見ると、売上338億円(前年同期比9.2%増)、営業利益39億円(前年同期比62.4%増)、営業利益率11.6%と2桁台の営業利益率は回転寿司業態としては驚異の数字だ。ROE(自己資本利益率)27.4%と投資効率も高く、自己資本比率41.3%と財務も安定だ。

◆5位からの巻き返しを図るパイオニア「かっぱ寿司」

 コロワイドの傘下に入り、盤石な経営資源とネットワークを活用し巻き返しを図る、業界5位のかっぱ寿司(かっぱ寿司309店、徳兵衛40店、FC店含む、2024年9月時点)。1994年は回転寿司業界のリーディングカンパニーだったが、競合店の出店による売上低下、総菜事業など業容拡大に励んだものの、広めの空間はムダが多いともいえ、坪効率が低下し業績低迷に陥った。

 そこで業績向上のために手っ取り早く原価を抑制して利益確保に努めたが、お客から商品への不満が増えて、さらに業績が悪化するなど負の連鎖に対応できなかった。そういった状況下で、追随してきたスシロー・くら寿司・はま寿司などに追い抜かれ、差をつけられてしまったのである。現在はコロワイドの傘下で、グループ企業との連携を強化しながら、ブランドのリブランディングに力を注いでいる。

 前期(2024年3月期)の業績は売上722億円、営業利益17億円、営業利益率2.4%となっており、上位3社には、まだまだ差をつけられている。しかし、名店とのコラボ商品や人気タレント・プロ料理人を起用したTVCMで「かっぱ寿司」ブランドの認知度向上に向けた販促を強化している。

 キュウリでシャリを巻いたヘルシー感のある新発想である「かっぱ軍艦」も話題で、他商品も大贅沢感のあるネタを一皿100円(税込110円)で提供するなどして巻き返しを図っている。アプリ会員には生ビール半額クーポンを定期的に配布し、新ネタの提案や割引キャンペーンも随時実施して集客対策を講じている。今年度上期のカッパクリエイトの連結売上は370億円、事業利益は5億円、利益率は1.5%だが、今後の業績向上に期待する根強いファンは多い。

◆回転寿司業界の将来を占う4つの視点

 週末のファミリー客だけでなく、平日のランチ時に高齢夫婦が家で食事をするより経済的だということでよく利用される回転寿司。老若男女問わず支持される回転寿司の存在は日本の外食には大きな存在となっている。

 今後も、上位5チェーン店が顧客争奪戦を展開し、市場をさらに牽引することが推察される。そして、独自性を発揮し、お得感を訴求した店が市場シェアを拡大していくだろう。

 各店が成長に向け、①仕入れ力の強化、②魅力ある品揃えの強化、③常に飽きの来ない店づくりに向けたキャンペーンの実施、④DXも含めオペレーションの強化に磨きをかけて、競争優位性を確保していくのだろう。

<TEXT/中村清志>

【中村清志】

飲食店支援専門の中小企業診断士・行政書士。自らも調理師免許を有し、過去には飲食店を経営。現在は中村コンサルタント事務所代表として後継者問題など、事業承継対策にも力を入れている。X(旧ツイッター):@kaisyasindan