ネットで見かけておもしろかった、”書き間違えやすい”漢字クイズがあったので、みなさんにも。「物事が前に進むこと」を意味する「しんちょく」は、漢字でどう書くのでしょう?しんちょくの「しん」は意味から考えて間違いなく「進」だと思いますが、問題なのは「ちょく」…。わたしはてっきり「扌(手へん)」に「歩(あるく)」だと思ったら、見事に不正解(苦笑)。まんまとひっかかりました。みなさん、わかりますか?
【間違えやすい漢字クイズ】「かんぺき」と書いたつもりですが…実は間違い!正しくはどう書くの?
こんなの簡単♪と思いきや…間違ってたの!?
間違いやすい漢字クイズ♪
【問題】
「物事が前に進むこと」を意味する「しんちょく」。以下のように書く人が多いようですが、実は、間違っているんです。
どこが間違っているんでしょう?
thinking time♪
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正解は、赤丸で囲んだ点がいらないのです。
つまり、正しい「しんちょく」はこれ。
「扌(てへん)」に「步」。「歩(あるく)」の1画少ないバージョンです(笑)。
仕事で「プロジェクトの進捗状況が…」などとよく使いますが、手書きすることは、まずありません。パソコンで「しんちょく」と入力すれば、この「進捗」以外の選択肢は「神勅(神のお告げ)」「真直(まっすぐなこと)」くらい。そのため、漢字をじっくり見ることなく、迷わず「進捗」を選ぶし…。自分の勘違いにずっと気づきませんでした。
ちなみに、「進捗」という漢字は中学校で習うみたいです。ですが、2010年(平成22年)に改訂された「常用漢字」に追加されたそうなので、わたしが中学生だったはるか昔には習わなかったみたいです。…って、知らなかったことの言い訳になりませんけどね(笑)。
…にしても、見慣れないせいか、落ち着かない…「捗」。
不思議な漢字「捗」について調べてみよう!
「捗」は、音読み:チョク、訓読み:はかど(る)。
「進捗」という言葉は、「進む」+「捗(はかど)る」の組み合わせなので、「物事が前に進み、はかどること」となるわけですね。
「はかどる」って、この漢字を使うんですね。知らなかった…。
「捗」をマジマジと見ていると、気になるのがてへんのとなりの「步」。一体、どんな意味があるのでしょう?
ワクワクしながら調べてみると、なんてことはない。
「歩」の旧字体だそうです(笑)。
一般的に、旧字体から新字体にする際、「藝」→「芸」 「應」→「応」のように、簡単でわかりやすくしようと画数が減りますよね。けれど、「步」→「歩」は、画数が”増加”した珍しい漢字のようです。1画だけですけどね。
その理由について、「歩」の方がデザイン的なバランスがいいことや、「少」と同じにした方が覚えやすいのではないかという考え方があったみたいです。
ん?待てよ。
「步」→「歩」になったのに、「捗」は、なぜ旧字体の「步」を使っているのでしょう?
交渉の「渉」も、頻度の「頻」も、もともとは「步」を使っていて、「歩」に変更されたよう。それなのに、なぜ、進捗の「捗」はそのままなんだい?
調べてみると…
残念、よくわかりませんでした(苦笑)。
とりあえず、わかったことだけお知らせしておきますね!ややこしいですけど。
「歩」と「渉」は、昭和21年(1946年)に「日常使用する漢字の範囲を示す”目安”」として制定された、「当用漢字(1850字)」に含まれていました。そして、昭和24年(1949年)に、当用漢字の読み書きを平易にしようと「当用漢字字体表」が作られ、そのタイミングで「歩」と「渉」になったようです。
ちなみに、「藝」→「芸」 「應」→「応」になったのも、このときみたいです。
「頻」は、「当用漢字」が廃止され、当用漢字に95字を追加し、1981年(昭和56年)に新たに制定された「常用漢字(1945字)」に含まれることになり、その際、”先輩”の「歩、渉」に合わせて「頻」としたそうです。
そして、「捗」。
「捗」が常用漢字に加わったのは、2010年(平成22年)の常用漢字改訂の際。ですが、今回は先輩方には合わせなかった。
なぜ、つくりを「歩」に変更しなかったのか、調べてもわかりませんでしたが、こういう不整合は「捗」に限らないみたいです。例えば、「稲」の旧字体は「稻」、「陥」の旧字体は「陷」でした。稻と陷の「臼」の部分は「旧」に変更されましたが、「潟」は「臼」のまま。
該当する漢字をすべて新字体に変えなければいけないというルールは、特にないみたいですね。
また、こんなこともわかりました。
「JIS漢字コード」では、「捗」は、2004年まで、なんと、つくりが「歩」で登録されていたそうですが、2004年の「JIS漢字コード」改正の際、つくりが「步」の「捗」に変更されたとのこと。「捗」が常用漢字に加わったのは2010年なので、JIS漢字コードに合わせたのかな…と思ったり。どうなんでしょうね。
※注:JIS漢字コードとは、日本産業規格(JIS)が定めた漢字の規格で、日常で使用頻度の高い漢字を集め、コンピューターで利用するためにコード化したもの。国内で使用されるコンピューターやソフトウェア、データ形式などで広く採用されている。
ここまで調べてきたものの、最後に見つけて、愕然とした情報がこれ。
文化庁「常用漢字表」を見ると、 「捗」についてこんな表記がありました。
画像出典:文化庁「常用漢字表」
画像出典:文化庁「常用漢字表」
げげげっ。
手書きの楷書体では、「扌(てへん)」+「歩(あるく)」と書いてもいいようです。って、えーーーーっ。間違いじゃないんかい!「扌(てへん)」+「歩(あるく)」は”間違い”という体で書いてきたこの記事の立場が…ないじゃん(苦笑)。
でも、まっ、いいか。いろいろ知っておいて損はないですもんね。あはは。
また、日本漢字能力検定協会が2020年2月に発表した「級別漢字表」によると、日本漢字能力検定でも、捗を「扌(てへん)」+「歩(あるく)」と書いても「正答」と認めているようです。今後、変更になるかはわかりませんけどね。
…ということで、
たったひとつの漢字「捗」にも、いろいろ歴史がありました。漢字に歴史ありです(笑)。たまには、じっくり漢字を眺めると、楽しい発見があるかもしれませんよ♪
<参考文献>
WEB
『常用漢字表』
https://www.bunka.go.jp/kokugo_nihongo/sisaku/joho/joho/kijun/naikaku/pdf/joyokanjihyo_20101130.pdf
『日本漢字能力検定 特別漢字表(10級〜2級)』
https://www.kanken.or.jp/kanken/outline/data/outline_degree_national_list.pdf
『旅する応用言語学〜当用漢字と常用漢字の違いについて〜』
https://www.nihongo-appliedlinguistics.net/wp/archives/8947
『文化庁〜当用漢字字体表〜』
https://www.bunka.go.jp/kokugo_nihongo/sisaku/joho/joho/kakuki/syusen/tosin05/index.html
『ことばマガジン〜「改定常用漢字表」解剖 9〜』
http://www.asahi.com/special/kotoba/archive2015/moji/2010091700026.html