嵐・大野智さん「虚偽情報」騒動、事務所は法的措置検討も… 弁護士が「現状の制度は抑止力が全く足りていない」と指摘するワケ

人気アイドルグループ「嵐」のリーダーで、活動休止中の大野智さんが「大麻を所持し逮捕された」という情報が11月26日ごろから、SNS上で拡散された。

嵐とエージェント契約を結んでいるSTARTO ENTERTAINMENTは11月30日、HPとXを更新。

「大野が大麻取締法に違反する行為を行ったという事実はなく、逮捕の事実もございません」とSNS上で広がる情報を否定したうえで、次のようにコメントした。

「このような事実無根の記事や投稿は大野の社会的評価を著しく低下させる悪質なものと言わざるを得ず、これらの虚偽の記事・投稿が真実であるかのように広く拡散されることは、当社として看過できかねます」

SNS上では「全員訴えられて欲しい」の声

今回の騒動では、複数のXアカウントが、大野さんの名前を出したり、あるいは「元ジャニーズのとあるグループのメンバー」「とんでもない大物」「歌手」とぼかしたりしつつ、「大麻取締法違反で緊急逮捕された」「報道規制がかかっている」「テレビ側には『諸事情でその大物がグループを脱退することになった』って話しか行ってないっぽい」といった情報を投稿。現在も一部が公開されている(2024年12月9日時点)。

こうした複数の投稿がX上で話題となり、ファンからは不安や心配の声も上がった。

しかし、先述したSTARTO社の声明や、株式会社「嵐」の代表取締役を務める四宮(しのみや)隆史弁護士による「とんでもないデマや誹謗中傷はスルーしましょう」との投稿を受け、事態は一転。

デマを流したアカウントに対して、「全員名誉毀損で訴えられて欲しい」「マジで逮捕されろよ」といった投稿が相次いだ。

名誉毀損「文脈を含めて評価」

STARTO社は先述した声明で「悪質な記事やSNSの投稿に対し、名誉毀損行為として法的措置をとる」と発表した。

しかし、発端となった、いくつかのアカウントを見ていくと、大野さんの名前を明記していないものや、ある投稿では大野さんの名前をぼかし、別の投稿では大野さんの名前を出すなど、ある種の“予防線”を張っているアカウントも見られた。

では、こうした投稿を行ったアカウントの持ち主が今後、大野さんの名誉を毀損したとして訴えられる可能性があるのだろうか。

インターネット上の名誉毀損に詳しい杉山大介弁護士によると、名誉毀損があったかどうかは、「特定の人の社会的評価が低下したかどうかで判断される」という。

「過去には、いいねボタンを押しただけでも、名誉毀損が認められたケースがありました。このケースのように、名誉毀損であるかどうかは、文脈を含めた総合評価が行われます。

投稿が複数に別れていたとしても、文脈全体を見てから、投稿の趣旨などが評価されますし、後から特定の名前を出したとすれば、前までの投稿も、特定の誰かを指していたと意味づけされるだけです。

また、名前を一貫してぼかしていたとしても、その時に話題になっている状況から、やはり大野氏を指しているとしか評価できない場合、『元ジャニーズグループのメンバー』などとごまかしていても、特定性が認められる場合もあります」

拡散した側の責任は…?

SNSでの名誉毀損が問題となる場合、そうした内容を投稿した人間だけでなく、拡散をした人も責任を問われることがある。

ただ、その場合も、違法性の有無や、責任の重さは内容や文脈によって変わるという。

杉山弁護士は「そもそも、今回の内容は犯罪行為を指摘するものですので、事実の確認もなく、投稿・拡散すべきではない内容だと思います」と釘を刺したうえで、次のように続けた。

「『摘示している事実が、名誉毀損に該当しているか?』という評価をしていくので、どのような内容であるかによって、違法となるのかどうかや、その場合の責任も変わります。

たとえば、偽情報を拡散したうえで、『特定のタレントが○○したというタレコミがあったけど、本当なのかどうか。今から調べて行こうと思う』と投稿した場合、『タレコミ』が存在している事実自体も、対象になった人の社会的評価を低下させるところはあります。

一方で、かなりの留保を設けたうえで、かつ『真実がわからない要素がある』と、打ち消しを行った場合『特定のタレントが○○した』とまで摘示しているとは評価されないかもしれません。

なお、『伝聞の形で“~と言っている人がいる”と書いただけで、その特定の事実があったとは言っていない』という言い訳を許さないことも多く、文脈にも依拠するグレーなポイントだという点は、留意してください。

また、今回のケースでいえば、『大麻を常習していた』などの情報を加えたうえで、拡散していれば、それだけ社会的評価を低下させる要素も、あるいは投稿者側が適法性を主張する場合に求められる真実性立証の程度も、重くなります。

ただ、基本的には、社会的評価を低下させる話をするなら、相応の根拠をもってやりなさいというのが法の考え方です」(杉山弁護士)

法的措置「抑止力としては全く足りていない」

ではSTARTO社側が法的措置をとる場合、どのような手続きが必要になるのだろうか。

「アカウントが法人によって運営されているなら、その法人にいきなり責任を問うことができますが、個人アカウントによる投稿である場合は、誰によって投稿が行われたか(=誰に責任が発生するか)を確定させなければなりません。

そのためには、別ルートで投稿者が誰か特定できている場合を除くと、発信者情報開示という手続きが必要です。

ですが、会社にも負担がかかりますから、『自ら謝罪し、訂正投稿などを行うのであればお目こぼしをする』などの持ち掛けをし、次はないぞと釘を刺しつつ、相手の情報を握っておくと言うこともありえます。

そして、何らかの形で法的責任を問える状態がそろえば、民事的・刑事的な手段もとれるようになります」(杉山弁護士)

ただ、こうした手続きを踏めば法的責任を問えるとはいえ、その制度は十分ではないと杉山弁護士は指摘する。

「法的措置をとったとしても、刑事責任を負わせられない場合、民事上では話題になったことにより得られる収益の方が、被害者の受けたダメージより大きい場合も多々あります。

ですので、現状の法的制度は、抑止力としては全く足りていないといえます」(同前)

SNSでの名誉毀損や誹謗中傷は、芸能人やインフルエンサー、スポーツ選手ら有名人のみならず、一般人の間でもたびたび問題になっている。実効力のある対策や抑止力が編み出されることを期待したい。