大麻取締法及び麻薬及び向精神薬取締法の一部を改正する法律(改正大麻取締法)の一部が12月12日から施行される。若年層を中心に乱用傾向が収まらない一方、医療用途でのニーズの高まりなどを受け、厚労省が議論を続けてきた。
施行にあたっては、厚労省が示した以下の4つの方向性がベースになる。
(1)医薬品の施用規制の見直しによる医療ニーズへの対応
(2)大麻使用罪の創設と有害成分(THC)に着目した成分規制の導入
(3)製品の適切な利用と製品中のTHC濃度規制
(4)大麻草の栽培及び管理の規制の見直し
所持罪のみから「使用罪」創設へ
ポイントは、「医療用途での解禁」と「使用罪の創設」だ。特定の疾患に対し、医師指導のもとで大麻を医薬品として使用できるようになり、大麻の「使用」が罰則対象となる。これらにより、医療における有効活用の選択肢が広がる一方で、若者に広がる乱用に歯止めがかかることが期待される。
21年まで8年連続で増加した薬物事犯(厚労省HPより)
背景には、大麻の医療上の有用性が認められたこと、他方で薬物汚染が深刻化したことがある。後者については、薬物事犯の検挙人員は2021年まで8年連続で増加。そのうち、30歳未満が約7割におよぶ。罰則対象がこれまでは「所持」のみだったことも、汚染を拡大した要因の一つとみられている。
CBD普及にも追い風?
改正後の大きな変化は上記2つといえるが、より身近なところにも影響がおよぶ変更がある。それは(2)および(3)の大麻の有害成分「THC」に着目した成分規制の導入だ。
大麻の規制はこれまで、CBDなどを抽出する際には「部位」(成熟した茎や種子など)が対象でその証明書を厚労省に提出する必要があった。今回の改正法では、その対象が「成分」にシフトする。
具体的には、大麻由来の「THC」を高濃度に含む製品が規制対象となる。逆にいえば、THCが既定の残留限度値未満であれば、使用部位に関わらず、規制の対象外になるということだ。
大麻草由来の成分として、数年前から健康食品市場で注目されているCBD(カンナビジオール)。ストレス緩和や抗炎症作用などが期待される一方で、大麻由来ゆえに危険視される側面もあった。
今回の改正は、規制対象を「THC」という成分に特定したことで、部位ごとだったこれまでのような“あいまいさ”が排除される。規制がクリアされていれば安全という確かな基準ができたことになり、さらなる市場活性化が期待されている。
厳格化で不足が懸念される分析体制
一方で、より厳格化されるため、これまで通りの成分分析体制では継続が難しい事業者も出てくる。現状、国内では「THC」の検出をするには体制が不十分ともいわれており、市場安定化には検査体制の整備が急務となっている。
第三者機関として輸出入貨物および国内貨物の公正な鑑定、検査および分析業務などを行う「新日本検定協会」の中島昭氏は、改正法下における分析機関の現状と懸念点について次のように解説する。
分析機関の現状について語る中島氏(都内で/弁護士JP編集部)
「分析を実施するためには、測定対象成分である『△9-THC』及び『△9-THCA』の標準化合物(試薬)を保有し、検量線の作成、添加回収試験などで使用することが必要となる。ただ、これらは従来までは禁止成分であったため国内流通していなかった。麻薬成分であることから厳重な取り扱いが必要な物質であり、非常に高額でもある。
また分析機関で標準化合物を保有、分析に使用するには麻薬研究者免許の取得が必要となる。
さらに今後、国内外のさまざまな分析機関でTHC分析が行われ、さまざまなCoA (Certificate of Analysis:分析証明書)が国内で流通することが考えられるが、その分析結果の信頼性の確保をどのように行ってゆくか。望ましいのは検査機関ごとの精度管理等の努力と共に、分析機関全体としての取組み等を検討していくことだ」
厚労省が11月28日に発表した検査機関は5機関。そのうち4機関は海外を拠点としている。国内では、まだ十分とはいえないのが実状だ。
乱用者の増大などが改正の引き金となった大麻取締法。薬物に対する取り締まりがより厳しくなるのは確かだが、影響はより身近なところにもおよんでいる。