『アミラル・ド・ベイシュヴェル』が示す確かな実力
夕食会では、セカンドワイン『アミラル・ド・ベイシュヴェル』の重要なヴィンテージ、2005年、2010年、2015年の3本も供された。2005年は、エレガントで複雑な香りを持ち、タバコとスパイスのニュアンスが特徴的だ。口当たりは柔らかく、シルキーで、タンニンは十分に溶け込んでいる。2010年は黒い果実の美しいアロマとさわやかな口当たり、しっかりとした酸が、バランスの取れた構造と優れた熟成可能性を示している。2015年は豊かで果実味溢れる魅力的なワインで、濃密な色調を持ち、2005年という素晴らしいミレジムに相応しい実力を秘めている。
今回の試飲で最も感動的だったのは、ブラン氏が試飲の8番目に巧みに忍び込ませ、目隠しで試飲した1905年のボトルだった。既にレンガ色に変化しているが十分な濃縮度があり、ボルドー・ワインが素直に熟成した時の甘く、濃さを持った濃縮した果実のジャム、そしてコート・ド・ニュイのピノ・ノワールを想起させる、人をウットリさせる魅力がある。1921年に共通する高貴さがあり、素晴らしい酸が残っていてその若々しさから戦後のものである可能性も考えられた。120年の歳月が既に過ぎているこのワインは、おそらく戦後の80年はほとんど変化しなかったのではないかと推察される。
試飲会を終えて、ブラン氏は「今回私たちが試飲した1915年のワインは第一次世界大戦中に造られたものだ。電気もない時代に、彼らは素晴らしいワインを造り、それが100年以上の時を超えて私たちに語りかけてくる。これは私たちの誇りであり、同時に偉大なワイン作りに携わる人間の責任でもある」と力強く語った。
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次世代への継承を見据えて、33という数字に想いを込める
ブラン氏は60歳を過ぎ、自身のキャリアの来し方行く末を考えるようにもなった。「67歳まで働くことは、特に畑仕事では現実的ではない。私たちの仕事は、55歳で多くの人が体力的な限界を感じる。事務仕事なら可能かもしれないが、肉体労働は別だ」と、現場の実情を語る。
そして今、ブラン氏自身の世代交代を考える時期に来ている。
「あと2~3年で引退を考えている。なぜなら、人生には仕事以外にもやりたいことがあるからだ。スポーツをしたり、孫と時間を過ごしたり。ワイン造りは情熱を持って取り組むべき仕事。その情熱を次世代に引き継ぐタイミングを見極めることも、重要な判断になる」
3年後に迎える33回目の収穫という目標には、着任時の年齢(33歳)、ジロンド県の番号(33)、そして個人が到達すべきミレジム数という三重の意味が込められている。「シャトーは私のものではないが、30年シャトーで過ごし、少し私の家のような場所になっている」とブラン氏はいう。そして「グラン・クリュ・クラッセは、何世紀もかけて築き上げられた伝統や慣習、作法から簡単には離れられない。進化は慎重に検討し、その結果が本当に有益なものとなることを確認しなければならない」と、繰り返し伝統と革新のバランスを慎重に見極めることの重要性について語った。
脚注:CMR物質とは、Carcinogenic(発がん性)、Mutagenic(変異原性)、Toxic for Reproduction(生殖毒性)の頭文字をとって総称される物質