全国で23万人強を数える生命保険会社の営業職員。その約9割は「生保レディ」と呼ばれる女性たちです。彼女らにはさまざまなイメージがついていますが、令和となったいま、その現状は変わっているようです。国内大手生命保険会社で営業職を勤める現役生保レディに話を聞いてみました。なかには絶句するような発言も。
生保レディの離職率
厚生労働省の「令和4年雇用動向調査結果の概況」にもとづいて、金融業・保険業の離職率をみていきましょう。
金融業・保険業の離職率
金融業・保険業の直近5年間の離職率推移は以下のとおりです。
金融業・保険業 全体平均
令和3年 9.3% 13.9%
令和2年 7.7% 14.2%
令和元年 10.7% 15.6%
平成30年 11.1% 14.6%
平成29年 11.8% 14.9%
金融業・保険業の離職率は全業界平均と比べて低い傾向にあります。特に、新型コロナウイルス感染症の流行後は、顕著に減少しています。
全産業の離職率
令和4年の全産業における離職率は15.0%でした。これは前年と比べて1.1ポイント上昇しています。令和4年の離職率を性別・就業形態別に見ると以下のようになります。
男性:13.3%
女性:16.9%
一般労働者:11.9%
パートタイム労働者:23.1%
女性とパートタイム労働者の離職率が比較的高くなっていることがわかります。一般労働者の離職者数は4,414万9,000人、パートタイム労働者は3,241万8,000人となっています。この内訳を雇用期間による違いでみていくと、一般労働者で「雇用期間の定めなし」は3,298万1,000人、「雇用期間の定めあり」が1,116万8,000人。パートタイム労働者で「雇用期間の定めなし」が1,024万6,000人、「雇用期間の定めあり」が2,217万2,000人です。前年と比較すると、一般労働者は雇用形態を問わず入職者数、離職者数ともに増加しました。パートタイム労働者は「雇用期間の定めなし」の入職者数、離職者数、「雇用期間の定めあり」の離職者数が増加しました。
これらのデータから、金融業・保険業の離職率は全産業平均よりも低いものの、パートタイム労働者や女性の離職率が比較的高いことがわかります。また、雇用形態や雇用期間によっても離職の傾向に違いがあることが示されています。
多くの生保レディは個人事業主として扱われるため、営業活動に伴う交通費や顧客への贈答品などの経費を自己負担しなければならないことがあります。生命保険会社の営業職員の在籍率は、以下のように推移しています。
3年目:約30~50%台
6年目:約20%
つまり、5年以内に実に10人のうち8人が辞めていく計算になります。
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令和に入社した生保レディ
松本ナナミさん(仮名)は、大手生命保険会社の東京支社に勤務しています。今年で入社4年目。成約数や成約内容によって募集手当に変動があるため月ごとに差はありますが、直近1年の平均月収は40万円程度です。
「同期の中では中の上くらいの成績です。同期といっても3年目くらいまでにほとんどが辞めるので、少ないですが。私の場合、同じオフィスの配属になった子は10人中8人が辞めています。東京以外にもたくさんオフィスはありますが、隣のオフィスの同期は全員退職したので、誰も残っていません」
松本さんに仕事内容を伺いました。
「私のように営業職として入社した人は職域営業をします。職域営業とは、担当になった企業のお昼休みや帰宅時間などに、従業員の方へ保険のご案内をする活動のことです」
ーー職域営業で担当になる企業はどんなところがあるのでしょうか。
「大手、中小企業や官公庁、ブルーカラーやホワイトカラー企業まで、さまざまです。正直いって男性が多い職域のほうが(契約は)取りやすいです。男性ばかりの職場の廊下や出入り口に、社会人成り立ての20代前半の子が一人で立って声をかけまくるわけですから」
ーー離職率が高い原因はなんだと思われますか?
「いまだにイメージがある人も多いみたいですが、枕なんて当然ありません。ノルマがきついからやむを得ず、枕に走るとかという環境でもないと思います。入社2年目までは辞められるとその子の直上にペナルティのようなものがあるので、辞められないようにあまりキツいことは言われていないようにみえます。なかにはパワハラまがいのことをしている上司もいますが。私自身が一番問題に思っているのは、『枕』も含め、そうしたマイナスなイメージがついていることを入社後に知って、組織を変えたいと思ったとしても団結する仲間がいないことです。なぜならどんどん辞めてしまうから」
生保レディの仕事は、高収入の可能性がある一方で、不安定な収入構造、予想外の自己負担など、多くの課題を抱えています。この職業を選択する際は、これらの実態をよく理解し、自身のキャリアプランや価値観と照らし合わせて慎重に判断することが重要です。また、業界全体としてより持続可能な労働環境の整備や、透明性の高い採用プロセスの確立が現場からも求められているようです。