日本の家庭料理を世界に発信するインフルエンサー、MOEさん。YouTubeチャンネル『Kimono Mom』を立ち上げてから4年で、SNSフォロワー数は550万人以上に。子育てと並行して、海外でも再現可能な日本の家庭料理や家族の日常を配信し、文化の架け橋として注目を集める彼女。さらに、自ら開発した調味料がアメリカのスーパーマーケットで販売を開始するなど、活動の場を着実に広げている。そんな彼女の飛躍の原点は、産後の孤独な時間だった。
着物姿でご飯を作る日常が、世界の心をつかむ
娘のSUTANとMOEさん
MOEさんがYouTubeチャンネル「Kimono Mom(キモノ・マム)」を始めたのは2020年の2月。京都の祇園での舞妓・芸妓として過ごしたアイデンティティとして着物を着て、日本の家庭料理の魅力を世界へと発信するという新しい挑戦だった。
「当時、夫がレストラン業で忙しく、深夜2時に帰宅、朝6時に出勤するので、私は10か月の娘と2人きりで家にこもる日々が続いていました。その孤独な状況を変えたいと思ったのが、YouTubeを始めたきっかけです。当時私ができることを掛け合わせた結果が、『Kimono Mom』でした」
動画はMOEさんの「Hi Guys!」という呼びかけから始まる。着物をまとった彼女が登場し、家族のために晩ご飯を作る様子を日本語で伝えている。動画は最初から日本向けではなく、海外を意識していた。
「京都で舞妓をしていた頃、日本での古くからのお客様から『あなたの日常は興味深い。ローカルなことがグローバルにつながる』と言われた経験がありました。それで、『普通の家庭料理でも海外の方には特別なものになるかもしれない』と思ったんです」
舞妓時代のMOEさん
思惑通りそのスタイルは海外の視聴者に新鮮に映り、Kimono Momはすぐに注目を集めた。最初の動画を投稿した際には、わずか数日でチャンネル登録者は約2万人に。紹介した料理は、1本目の動画こそ海外に住む人を意識せずにれんこんを使った料理だったが、2本目からは視聴者のリクエストに応えて、お好み焼きや日本のカレー、焼き鳥など、海外で人気のいわゆるベタな日本食を取り入れることで、反響はさらに大きくなったという。
「私は日本で生まれ育ったので、幼い頃から海外に目を向けていたわけではありませんでした。そんな中、動画を投稿したところ、英語のコメントが一気にブワーッと寄せられてきて、とても驚きました。日本の家庭料理に興味を持ってくれている人がたくさんいることは本当にうれしかったですし、その反響がきっかけで、英語を頑張って覚えようと思い、語学の勉強も始めたんです」
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人とつながることで、産後うつを克服
産後は娘さんと2人きりで過ごす時間が多く、MOEさんの孤独な状況は続いた。気分が落ち込み、うつ状態に陥っていたという。その状況を変えるべく始めたYouTubeは、単に家庭料理を紹介するだけの場にとどまらなかった。
動画に登場する娘さんとのやり取りや、視聴者との交流が温かい輪を広げ、次第にMOEさん自身の心を救う存在へと変わっていったのだ。
「最初は本当に外部とつながりたかったというのが正直なところでした。誰とも口をきかない日が続き、孤独を感じる毎日だったので。そんな中、動画を通じて海外の人が見てくれているというだけで、とてもうれしかったんです。コメント欄でのやり取りが、自分にとって大きな励みになりました」
また、MOEさんは国や文化が違っても、赤ちゃんを育てる親たちの間には多くの共通点があることを実感したという。
「コメントで『夜泣きが大変で眠れない』という話が出ると、『世界の裏側でも同じように頑張っているお母さんたちがいるんだ』と共感できました。動画では娘がぐずったりする様子もそのまま出していたのですが、そういった自然な姿に励まされたと言ってくれる方も多かったですね。私自身も視聴者の方からの温かい反応に救われていました。『動画に励まされた』『あなたの料理を家族に作ってみた』と言っていただけることで、結果的に自分も産後うつをだいぶ克服することができたと思います」
ほかにも、海外から寄せられる反応は興味深いものばかり。日本の子育ての考え方に驚きの声が寄せられたことも。
「娘がお米をこぼした時、『お米には8人の神様がいるから大事にしようね』と話したら、『日本には8人も神様がいるの?』と驚かれました。また、私が娘に先に謝る場面を見て、『日本では親が謝るんだ』と驚かれることもあります。そんな文化の違いを通じて、お互いを知れるのが楽しいですね」