日本の家庭料理を世界に発信するインフルエンサー、MOEさん。YouTubeチャンネル『Kimono Mom』を立ち上げてから4年で、SNSフォロワー数は550万人以上に。子育てと並行して、海外でも再現可能な日本の家庭料理や家族の日常を配信し、文化の架け橋として注目を集める彼女。さらに、自ら開発した調味料がアメリカのスーパーマーケットで販売を開始するなど、活動の場を着実に広げている。そんな彼女の飛躍の原点は、産後の孤独な時間だった。
誰でも日本食を楽しめる「UMAMI SAUCE」
YouTubeチャンネルが瞬く間に人気を集めた背景には、コロナ禍という状況が大きく関係していた。例えば、海外のある街では日本料理店が閉店し、「チキン南蛮を食べたい」と探していた人にMOEさんの動画がヒット。「動画を見ながら作ったら、思っていたより簡単にできた」と喜ばれることもあれば、日系の人々から「日本のルーツを学びながら日本食を作っている」といった感謝の声が寄せられることもあった。
MOEさんのレシピは、海外でも手に入りやすい材料を活用するのが特徴だ。
「例えば、たこ焼きでは天かすの代わりにポテトチップスを使ったり、ラーメンは中華麺の代わりにパスタを使い、茹でる際に重曹を加えて中華麺のようなコシを再現したり。こうした工夫により、いろいろなルーツを持つ方々に楽しんでいただいています。特に子どもと一緒に作れるような簡単なものが多いので、『難しくなくて作れそう』と試していただける方が多いようです」
寄せられる「日本食を作りたい」という声から、MOEさんが次に挑戦したのが、海外でも簡単に日本の味を再現できる「Kimono Mom’s UMAMI SAUCE(うまみソース)」の開発だった。
Kimono mom’s UMAMI SAUSE
「視聴者から、日本食の材料が手に入りにくい、宗教やアレルギーで制約がある、といった課題を教えてもらいました。特に『味噌汁を作りたいけど、出汁(だし)を取るのが難しい』という声が多くあり、出汁の文化がなじみのない国でも、日本の味を手軽に楽しめるような商品を作りたいと思ったんです」
こうして開発されたUMAMI SAUCEは、ビーガン・グルテンフリー・ノンアルコール・ノンMSG(MSG=日本のうまみ調味料で使われる化学調味料のグルタミン酸ナトリウム)という仕様で、たまりじょうゆをベースに椎茸、昆布、玄米水あめなどを用いた調味料となった。めんつゆのようなイメージで、さまざまな家庭料理で手軽に使えるよう工夫されている。今年9月には、アメリカの大手スーパー「Whole Foods Market(ホールフーズ・マーケット)」での販売が実現し、すでに好評を博しているようだ。
「パッケージのイラストは夫が描いてくれました。デザインを考えるときから『ホールフーズの棚に置いてある姿』をイメージしていたので、それが実現したときは本当にうれしかったですね。アジア食材の棚にしょうゆ以外の選択肢を増やせたことを、とても誇りに思います」
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ロードトリップで広がる日本の魅力
現在、MOEさんは家族と共にアメリカ全土を旅するロードトリップを実施中。キャンピングカーを「動ける家」として活用し、現地で視聴者や消費者と直接触れ合いながら「UMAMI SAUCE」を広めている。
「オンラインで伝えきれないことを、直接会うことで届けたいと思いました。特にアメリカの中西部や南部では、まだ日本の文化や家庭料理について知る機会が少ない地域も多いので、そうした方々に直接触れてもらえるのが楽しみです」
彼女の旅は、単なる商品のプロモーションに留まらない。現地の人々に日本の味を届けるだけでなく、自らも人々との交流を大切にしている。着物をまといながら、家庭料理を通じて日本の文化そのものを世界に広める架け橋となっているのだ。
「日本のことを全く知らない地域もまだたくさんあります。そうした場所に行き、少しでも日本を身近に感じてもらえたらうれしい。それが私の夢です」
日本の家庭料理というテーマを通じて、文化をつなぐ存在となるMOEさん。その挑戦はこれからも続いていく。
LAからスタートしたロードトリップ
photo: Kimono mom interview & text: Tomoko Komiyama